ドッグフードの香料「ミート系フレーバー」の種類と添加する目的

ドッグフードの香料「ミート系フレーバー」

フードの味や素材、調理方法、水分量など、ワンちゃんが喜んで食事をしてくれるように、ドッグフードメーカーはさまざまな工夫を凝らしています。 香料(フレーバー)の使用も、その工夫の一環です。 ミルクにチーズ、魚介類から果物まで、香りには色々な種類がありますが、最もワンちゃんたちにとって魅力的なのは肉類の香りでしょう。 ここでは、フード類に肉の風味を付けるために用いられるミート系フレーバーについて解説していきたいと思います。

ミート系フレーバーの用途と目的

「ミート」は英語で肉類を、「フレーバー」は香りや風味を意味します。 つまりミート系フレーバーとは、「肉の香りを持った香料(※1)」のことです。 香りの種類は、牛肉や鶏肉、豚肉、羊肉など、多岐に渡ります。 ドッグフード、犬用ジャーキーやチーズ、クッキーなどのおやつ類、歯磨きガム、歯磨きペースト、チュアブルタイプ(噛んで服用できるタイプ)の薬など、ワンちゃんの口に入るものには、ミート系フレーバーで香りづけされた物が多く存在します。  また、遊びながら歯磨きができるデンタルトイや、頭を鍛える目的で作られた知育玩具など、長時間ワンちゃんの注意を引くことが求められるグッズ類にも、チキンやベーコンなどの香りの付いた商品があります。

※1 日本では、フレーバーを人間用食品に添加する場合には「香料」、家畜用飼料に添加する際には「着香料」と呼び分けています。ドッグフードのパッケージに記載されるフレーバーの表現は、一般的に「香料」となっています。

ミート系フレーバーをフード類に使用する一番の目的は、ワンちゃんの嗜好性を高めるためです。 ワンちゃんたちは肉類が大好きですから、フードから強い肉の匂いを漂わせることによって、食欲増進や食い付きアップの効果が期待できます。

ドッグフードや犬用おやつに限らず、加工食品は、加熱や乾燥、粉砕といった調理過程や、時間の経過などにより、素材が本来持っている匂いが弱くなったり変質してしまいます。 また、特に総合栄養食(※2)のフードには、ビタミンやミネラル、食物繊維といった多くの栄養素が添加されていることが一般的です。 こうした栄養素は体にとって必要な反面、薬臭さや苦み、粉っぽさなどを伴うことがあり、ワンちゃんの嗜好性を低下させる原因にもなるのです。

※2 総合栄養食・・・そのフードと新鮮な水さえあれば、犬が健康的に生活する上での栄養素が全て摂取できるように設計されているドッグフードのことです。ワンちゃんの主食として利用されます。

特にワンちゃんは、目の前の食べ物が「美味しそうかそうでもないか」、「食べても安全なものかどうか」といったことを、主に匂いを頼りに判断します。 そのため、匂いが弱い、異様な匂いがするといったフードを避けるワンちゃんも多いのです。 もちろん、食べることが大好きで何でもペロリと平らげてしまうような、匂いや味にこだわらないワンちゃんもいるでしょう。 しかし、特に小型犬などには偏食家も多く、「自分の好みに合致したフード以外は、絶対に食べない」という頑固な子もいます。

いくら栄養バランスに優れたフードや歯磨き効果の高いガムを作っても、ワンちゃんが食べてくれなければ全く意味がありません。 そのため、フードの素材の匂いを補うため(補香)や、配合成分の臭さをごまかすため(マスキング)(※3)に、フレーバーが用いられるのです。 あまり考えたくはないですが、古い肉や酸化した油脂など、粗悪な原料を使用したフードの臭みをカバーするためにも、香料が利用されているともいわれています。

また、植物のデンプンなどから作られた歯磨きガムや、プラスチックや布、繊維などでできたオモチャなどは、もともと肉の香りを全く持っていません。 このような製品に肉の匂いをプラスすることは、着香と呼ばれます。

※3 人間向けの食品では、甘みや酸味などの味付けをほどこすことによってマスキングを行う場合もあります。しかし、ワンちゃんにとっては匂いが食物選択の大きな判断基準であるため、香料でマスキングをすることが最も効果的でしょう。

ミート系フレーバーは、私たち人間の口に入る食品に対しても添加されています。 例として、冷凍ハンバーグやミートボール、レトルトパウチされたカレーやビーフシチュー、カップ麺やスープといったインスタント食品などなど、誰でも一度は口にしたことのある食品が多く挙げられます。

フレーバーのさまざまな形状

食べ物へ香りを付けるフレーバーには、主に次の4種類が挙げられます。

フレーバーの4つのタイプ
タイプ 特徴
粉末香料
(パウダー)
ゼラチンやデンプン質、アラビアゴム、デキストリンなどを用いて香り成分を乳化させ、水分を飛ばしてからパウダー状に加工したフレーバーです。香りの持続力に優れ、熱を加えても香りが弱くなりにくいという特性を持ちます。
水溶性香料
(エッセンス)
アルコールやグリセリン、プロピレングリコールなどを使って香り成分を抽出し、溶かすことによって作られます。香り立ちはさわやかでみずみずしいですが、加熱に弱いというデメリットもあります。
油性香料
(オイル)
植物オイルと香りの成分を混ぜ合わせ、溶かしたものです。強い香りを長時間放つことが可能です。熱にも強いため、製造過程で火を通す食品に対しても安心して利用できます。
乳化香料
(エマルジョン)
香り成分を、水と満遍なく混ぜ合わせて作られるフレーバーです。アラビアゴムなどの乳化剤や安定剤を使用して、乳化(※4)させる工程が必要です。水溶性香料に比べると、やわらかく優しい香りを放ちます。清涼飲料水などに使うと、濁った色味を付けることもできます。

※4 乳化・・・本来であればお互いに弾き合ってしまう相性の悪い物質同士(水と油など)を、均一に混ぜ合わせる(馴染ませる)ことです。

このように、香り成分の加工方法を変えて多様な形状を持たせることにより、さまざまな食品に対して使用することが可能となります。 食品には、固形や半生、生などの色々なタイプがあり、調理時の方法や温度もそれぞれです。 また、保存方法(常温保存か冷蔵・冷凍保存かなど)もその食品の特性によって異なります。 さらに使われる食材も多岐に渡り、そこに食品添加物などがプラスされることもあります。

ドッグフードひとつとっても、カリカリの歯ごたえを持つドライフードから、セミモイストやソフトドライフードと呼ばれるやわらかいもの、水分をたっぷりと含んだウエットフード、ペースト状のフードなど、バリエーションに富んでいます。

もしもフレーバーのタイプが、パウダー(粉末)状しか存在しなかったらと想像してみましょう。 材料からできるだけ水分を飛ばして作られる、ドライフードや粉状のふりかけなどであれば、パウダー状のフレーバーでも問題なく使用できるでしょう。 しかし、ウエットフードやゼリー状の飲料(エネルギーや水分補給目的としたものが、ワンちゃん向けにも存在します)など、水分量の多い製品に添加しようとしても、沈殿したり浮いてきてしまったりと、うまく混ざらないケースが出てくるかもしれません。 このような事態を防ぐために、色々な形状をしたフレーバーを作ることで、幅広い食品に対応できるようにしているのです。

ミート系フレーバーの香り成分

フレーバーのもととなる香りの成分は、大きく分けて天然香料合成香料に分けられます。

自然界の素材から抽出される天然香料

自然界に存在する植物の葉や花、果実、茎、根、種子などや、家畜、魚介類などから抽出されたフレーバーが天然香料です。 植物性の原料を用いたものは植物性香料、動物性食品から得られるものは動物性香料と、それぞれ呼び分けられています。

2018年3月の段階で、天然香料には600種類程度が存在するといわれています。 天然香料は、日本の法律によって定められている食品添加物の分類方法である、「指定添加物」(※5)にも「既存添加物」(※6)にも該当しません。 天然香料はそのものズバリ、「天然香料」として独立したグループを構成しているのです。 天然香料が指定添加物などの仲間ではない理由としては、使用量の少なさが挙げられます。 天然香料は食品全体のわずか0.1%から、多くても1%程度しか含まれていません。 安全性が高いと考えられる天然原料(食品など)から抽出され、なおかつ使用量もわずかな天然香料は、生物の体に悪影響を与えるリスクが非常に低いと考えられ、指定添加物や既存添加物から除外されていまるのです。

※5 指定添加物・・・厚生労働大臣が指定し、食品への使用を認可している添加物です。安全性の検証実験などを通じて、健康へのリスクが低い(または無い)と確認された添加物が該当します。これらの成分名は食品衛生法施行規則に載せられます。指定添加物のほとんどは、化学的に合成された成分です。

※6 既存添加物・・・古くから人々に利用されており、安全性に問題がないことが経験的に分かっている添加物です。そのため、徹底的な安全性の検証が行われていないケースもあります。既存添加物の多くは、自然界の植物や動物から得られる天然の成分です。該当成分は、既存添加物名簿に記載されます。ただし、名簿に名称が載っていても、実際には全く使用されていないものや、新たな検証実験により危険性が明らかになったものは記載が削除され、使用禁止になることもあります。アカネ色素はもともとは既存添加物であり、カマボコやハム、ソーセージなどの着色に用いられてきました。しかし、ラットを用いた実験により、腎臓への発がん性や遺伝毒性が確認されたことにより、2004年以降、使用が禁止となっています。

肉類から抽出される天然香料には、以下のようなものがあります。

調理フレーバー(クッキングフレーバー)

牛肉や鶏肉、豚肉などを実際に加熱調理することによって得られるフレーバーです。 肉類を煮炊きしたスープを濃縮する、または炒める、揚げる、蒸すといった工程上で発生する香り成分だけを、溶剤を使って取り出すことにより作られます。 調理フレーバーは、エキスやエクストラクト(エキストラクト)とも呼称されます。

酵素フレーバー

肉を熟成させると、ナッツのような(熟成方法によっては味噌のような)独特の熟成香が漂うようになります。 これは肉に付着した微生物が産生する酵素によって、タンパク質がアミノ酸に分解されることなどから生じる現象です。 この仕組みに倣い、タンパク質分解酵素(プロテアーゼ)で肉類のタンパク質を分解し、得られた香りを香料化する方法です。

化学的に製造された合成香料

2500から3000もの膨大な種類のある合成香料は、その名が示す通り、石油などを原料として人工的に合成されたフレーバーです。 人工的とはいってもそのほとんどが、自然界に存在する香りの成分を化学的な手法を使って再現したものであり、物質の構造自体は天然ものと同じです(ごく一部には、自然界において発見されていない構造を持つフレーバーも作られています)。

天然香料は、私たちが日常的に食べている食品類から抽出されていることが多く、安心感という点では合成香料に勝っているでしょう。 しかし、原料となる天然物は、常に同じ品質のものが一定量採れるわけではなく、気象条件や生産環境などによって変動します。 その影響をダイレクトに受ける天然香料は、時に品薄で値段が高騰したり、その時々によって香りの質や強さにバラつきが出るというリスクを抱えています。 合成香料には天然香料のようなデメリットがなく、いつでも安定した品質や数量が確保でき、安価で供給できるという強みがあるのです。

植物性食品にはみられない肉類の独特の香りは、脂肪酸類やピラジン化合物、アルデヒド類、ラクトン類、含硫カルボン酸類など、難解な名前を持ったさまざまな成分によってもたらされるものです。 鶏肉の香りを例に挙げると、なんと約170種類もの香気成分が組み合わされているといわれています。

また、牛肉、豚肉、鶏肉、羊肉など、肉の種類によっても香りの構成成分は異なります。 さらに同じ牛肉であっても、和牛と輸入牛では香気成分の種類やバランスに差がみられるように、家畜の生育環境やエサなども、香りの質に大きく関わってくるのです。 ミート系の合成香料は、こうした複雑な肉類の香りを、膨大な数のフレーバーを組み合わせることによって再現しています。

肉を焼くと香ばしく食欲をそそる匂いが漂ってくるのは、肉に含まれるアミノ酸や糖類が分解されることで、メラノイジン(※7)が生成され、さまざまな香り成分が生み出されるためです。 メイラード反応と呼ばれるこの原理を、科学的に再現して作られたミート系フレーバーも利用されています。

※7 メラノイジン・・・アミノ酸と糖類が熱によって反応を起こすことによって生まれる、褐色の成分を指します。肉を焼くと表面に茶色い焼き目が付きますが、これはメラノイジンによるものです。

フレーバーの調合内容はトップシークレット

数多くの食品に使われているフレーバーですが、その香りは各食品ごとにそれぞれ異なります。 各食品会社は香料のメーカーに「このような匂いのする香料がほしい」とオーダーし、香料メーカーはそれぞれの要求に適した香料を調合します。

そのため、例えば犬用ビーフジャーキーに使われるミート系フレーバーであっても、各ペットフード会社ごとに、また、商品ごとに違った香りがするのです。 ビーフジャーキーであれば、素材には当然牛肉が使われます。それをスライスしたり乾燥させる製造工程や製品の外観は、どこの会社も似たようなものでしょう。 したがって、他の会社との差別化を図るためには、「香り」が重要な要素となります。 材料が同一で同じような見た目にしか仕上がらないのであれば、あとは香りや味で個性を出し、「A社よりもB社のジャーキーの方が、愛犬の食い付きが良い」→「今度もまたB社の商品を購入しよう」と、消費者に思ってもらわなければならないのです。 このような事情があるため、どこの企業でも「どのような成分を」「何種類」「どのような割合で」使用してフレーバーを作っているかは、企業秘密扱いとなっています。

食品パッケージへの表示も、香料の場合はただ一言「香料」と一括して記載すればよいと、法的に認められています。 これは、人間の食品に関する法律でも、ペットフード安全法(愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律)(※8)においても同様です。 例えばこれが着色料であれば、「赤色102号」や「コチニール色素」などというように全てを記載しなければなりません。 しかし香料の場合は、たとえ何十、何百といった成分をブレンドして作られていたとしても、そのひとつひとつの名称を表示する義務はないのです。

※8 ペットフード安全法(愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律)・・・2009年6月1日より施行されている、ドッグフードとキャットフードの安全性を守るための法律です。原材料や賞味期限、製造業者名などの表示方法を細かく規定し、また、添加物の使用量規制や、違反しているフードの流通・輸入の禁止など、犬と猫の健康を保護するために有益と考えられる項目が盛り込まれています。

香料が特別扱いされる背景には、主にふたつの理由があります。 ひとつは、食品への香料の使用量がごくわずかであり、健康被害を及ぼす可能性が少ないこととです。 天然の食品には、もともと非常に微量な香気成分しか含まれていません。この香りをマネして再現するわけですから、当然香料の使用量も低く抑えられています(ひとつの食品に対して1~10ppm(※9)以下というわずかな使用量です)。 もしも香料を大量に添加したならば、きつい匂いが鼻についてしまい、とても食べられないような食品ができあがることでしょう。

※9 ppm・・・100万分の1を表す単位です。「parts per million(パーツ・パー・ミリオン)」の頭文字から、ppm(ピーピーエム)と呼ばれています。

もうひとつには、香料に使われる膨大な数の成分を全て記述することで、返って消費者に混乱を与えるというリスクが挙げられます。 成分名をいちいち全て公表する必要がないという決まりは、香料の配合バランスを秘密にしておきたい企業側にとっては非常に都合がよい制度であると考えられます。

まとめ

ミート系フレーバーの用途や種類についてみてきました。 肉類の香料に含まれる成分の中には、脂肪酸などワンちゃんに必要な栄養素も含まれてはいますが、香料そのものの使用量がほんの少しであるため、残念ながら健康に役立つことは期待できません。 したがって、ドッグフードに香料を加えることによる栄養的なメリットは何もないのです。 しかし、フードの選り好みが激しいワンちゃんや、薬の服用が必要なワンちゃんなどにとっては、香料によって匂いが強化されたフードが有益に働くこともあります(薬を嫌がるワンちゃんに対しては、嗜好性の高いおやつに薬を埋め込むなどして匂いや味を紛らわせ、投薬することが可能です)。

ワンちゃんの体に不必要な成分が含まれているフードを、愛犬に毎日与えることに不安や疑問を感じる飼い主さんも多いことでしょう。 ドッグフードの中には、肉類から得られたスープやエキスを利用して香りづけされているものもありますし、低温調理をすることによって、素材の香りを壊さない工夫がされている香料無添加の商品もあります。 合成香料の強い香りには及ばないかもしれませんが、心配な場合にはできるだけ天然原料のものを選ぶようにするとよいでしょう。