食物アレルギーの犬に対応したドッグフードの特徴

食物アレルギーに悩む犬用のドッグフード

飼育されているワンちゃんの4割は、何かしらの食物アレルギーを持っているといわれています。
非常に多くのワンちゃんがアレルギーに苦しんでいることが推測されますが、こうした食物にアレルギーを持つワンちゃんに対して利用されている特別なドッグフードがあります。
それは、「低アレルギー食(低アレルゲンフード)」と呼ばれる療法食です。
ここでは、低アレルギー食を語る際に避けては通れない、食物アレルギーの概要やアレルゲン特定試験の流れを始め、低アレルギー食の種類、気を付けたい交差反応になどについてご説明していきます。

食物アレルギーの概要と症状

まずは食物アレルギーの概要からご説明します。
動物は本来、体の中に侵入した「健康に害を及ぼす」物質を退治したり追い出したりするための、免疫機能を備えています。
しかし、遺伝的な体質や免疫力の低下などさまざまな理由により、免疫システムが体にとって害のないもの(または害を及ぼす程度の低いもの)までも敵だと誤認してしまうことがあるのです。
すると免疫システムは、食べ物やホコリ、ダニ、花粉などといった物質さえも有害であると判断し、攻撃を始めてしまいます。
これがアレルギー反応の正体です。

アレルギーの中でも、食べ物を原因として発症するものを食物アレルギーと呼びます。
ワンちゃんが食物アレルギーを発症すると、以下のような症状がみられることがあります。

  • 皮膚の痒みや炎症
    (目や口の周り、耳の中、背中、脚の付け根付近、肛門の周り、足先などに炎症が多く見られる)
  • やわらかい便を1日に何度も出す
  • 嘔吐や下痢を発症する

皮膚の痒みはワンちゃんの食物アレルギーでは特に代表的な症状であり、激しい痒みのために足先を長時間なめ続けるなどの行動がみられることもあります。
犬が足先をなめる理由には、ストレスを緩和させるためやヒマつぶしなどのこともありますが、「愛犬の名前を呼んでも無視して舐め続ける」、「なめすぎて足先が真っ赤に腫れてしまっている」といった様子がみられる場合には、食物アレルギーによるひどい痒みを伴っている可能性もあるのです。

食物アレルギーの原因

食物アレルギーは、市販のドッグフードを食べているワンちゃんに発症しやすいといわれています。
食物アレルギーは、アレルゲン)となりうる食材を食べた回数が多ければ多いほど、発症するリスクが上昇します。
ドッグフード、特に大袋に入ったドライフードなどは、1度購入するとしばらくは毎日同じものを与え続けることが一般的です。つまり、ワンちゃんが同じ食材を口にする頻度が増えるのです。
そのため、必然的にアレルギーが発症しやすくなります。

対して手作り食では素材の変更が容易であるため、毎日異なる食材を与えることが可能です。
人間の食事の材料を流用してワンちゃんのごはんを作る飼い主さんも多く、それほど意識せずとも食材のローテーションができていることも多いでしょう。
手作り食をもらっているワンちゃんに食物アレルギーが発症しないという訳ではありませんが、市販のドッグフードの方が発症しやすいといわれる背景には、こうした事情があるのです。

食物アレルギーの原因(アレルゲン)となる食材は、肉類や魚類、卵、乳製品、小麦、トウモロコシなどさまざまです。
肉類の中では鶏肉が最もアレルゲンとなりやすいといわれていますが、その他の全ての肉類でもアレルギー発症の可能性があります。
どの食材にアレルギー反応を起こすかは、ワンちゃんの体質によって異なるのです。

※アレルゲン・・・アレルギー症状を引き起こす原因となる物質を意味します。

除去食試験の流れと、使用されるフード

食べたことのない食材を与えて様子をみる

動物病院では、食物アレルギーが疑われるワンちゃんに対して、「除去食試験」を行うことが一般的です。
採血による検査をするケースもありますが、人間の血液検査と比べると正確性に欠けるため、除去食試験の方が確実性が高いといわれています。

除去食試験とは、ワンちゃんがアレルギーを起こしにくいと考えられるフード(「4-2.除去食試験に使用されるフードの種類」で詳しくご説明します)を与え、アレルギー症状が出なくなるか様子をみるテストです。
除去食試験中にワンちゃんの痒みが治まる、皮膚の炎症が軽くなるといった様子が確認されれば、それまであげていた食事の中にアレルゲンとなる食材が含まれていたと推測できます。

こうして食物アレルギーがあると判明したワンちゃんにはさらに、異なるタンパク源を使用したフードを数週間ごとに変更しながら与え、アレルギー反応を起こす食材と大丈夫な食材を見極めていきます。
例えば、2週間鶏肉を使ったフードをあげたら、次は豚肉のフードをといった具合です。
この方法により、どの食材がアレルゲンなのかを特定していくのです。

アレルゲンとなる食材が特定されると最後のダメ押しとして、アレルギーを発症した時に与えていたフードをもう一度与え、症状がぶり返すかを確認することがあります。
症状が再び発症した場合には、「やはり、始めに与えていたフードに含まれる食材がアレルゲンだった」という確信を得ることができるのです。
しかしせっかく症状が治まっているワンちゃんを、またアレルギー反応で苦しませてしまうリスクが高いことから、最後の試験には難色を示す飼い主さんも多くいらっしゃるようです。

ドッグフードには肉や魚の他、小麦や大豆、野菜、果物、添加物に至るまで、さまざまな原料が使用されています。
そのため、その中の何がアレルギーを起こしているのかを調べるのは大変な作業です。
除去食試験の期間はワンちゃんによっても差がありますが、アレルゲンの特定までに早い子でも数週間、長い場合では数ヶ月程度かかることもあります。

除去食試験に使用されるフードの種類

除去食試験の際に用いられるフードは、「低アレルギー食(低アレルゲンフード)」と呼ばれ、いくつかの種類に分けられます。
これらは除去食試験の際に使われることはもちろん、試験中にアレルギー反応が出ないことが確認されたものに関しては、通常の食事として利用することも可能です。

新奇タンパク質を使用したフード

除去食試験で多く利用されているのは、ワンちゃんにとって目新しいタンパク源(新奇タンパク質)をベースとしたフードです。

日本のワンちゃんが市販のドッグフードや手作り食から摂取する頻度の高いタンパク源といえば、鶏肉や豚肉、牛肉といった肉類が思い浮かびます。
対して、低アレルギー食には、ベニソン(鹿)、ラム(羊)、馬、ダック(鴨、アヒル)、ターキー(七面鳥)、カンガルー、サーモン、ニシン、ナマズなどがタンパク源として用いられています。
いずれも、日本で生活しているワンちゃんたちにとっては接する機会が少ないため、アレルギーが出にくいと思われる食材です。
さらにそこに、アレルゲンとなりにくいとされるジャガイモやサツマイモ、米、タピオカなどが加えられているケースも多いです。

除去食試験を行う際には、この中から、ワンちゃんが一度も口にした経験のない食材が使用されているフードを選びます。
こうしたドッグフードは動物病院からの処方で受け取る他にも、市販されている商品を購入するという方法もあります。

低アレルギー食に用いられているこれらのタンパク源は、一般的に犬がアレルギーを起こしにくい素材として知られています。
しかしこれは、今までラムやターキー、サーモンなどがドッグフードとして利用されることが少なく、ワンちゃんが食べる機会が限られていたことも一因であると指摘されているのです。
前述通り、接する頻度が少ない食材でアレルギーが起こる可能性は低いため、必然的に「アレルゲンとなりにくい食材」となります。
しかし、ベニソンやラムを始め、魚類を使ったフードの種類も増加傾向にあるため、これからはこうしたタンパク源に対してもアレルギーを起こすワンちゃんが増えてくることが懸念されているのです。
もちろん食品の種類によってアレルゲンとなりやすい物となりにくい物があることは事実ですが、「アレルゲンになりにくい食材」という言葉を信頼しすぎてしまうのも危険なことです。

ペプチドやアミノ酸を用いたフード

除去食試験には、タンパク質を加水分解という方法で細かくした「ペプチド」を使ったフードが用いられることもあります。

タンパク質が分解され、最小のサイズとなったものがアミノ酸です。
肉類も魚も、乳製品も、タンパク質からできている食品は全て、体内で分解されるとアミノ酸となります。
そのアミノ酸の集合体が「ペプチド」と呼ばれます。
ペプチドの分子は、アミノ酸とタンパク質の中間程度の大きさであるとお考えください。
このペプチドが、アレルギーの原因となりやすいと考えられているのです。
特に、「多くのアミノ酸が集まった状態」のペプチドが、アレルゲンとなる可能性が高いと指摘されています。
したがって、除去食試験に利用されるフードのペプチドは、「アミノ酸の数を極力減らしたもの」が使われています。
しかしペプチドを使用したフードを用いた除去食試験には若干の懸念事項があります。
1~4割程度のワンちゃんで、アレルギーを発症してしまう可能性があるのです。

このように、ペプチドや新奇タンパク質を使用したフードでもアレルギーを発症してしまうワンちゃんには、ペプチドをさらに細かく分解したアミノ酸から作られたフードを試すケースもあります。
アミノ酸によってアレルギー反応が起こることはないと考えらえているため(2017年現在)、どんなフードを与えても症状が出てしまうといった場合に使用されることがあるのです。

こうした低アレルギー食には、DHAやEPAといった脂肪酸が豊富に添加されていることがあります。
DHAもEPAも魚に多く含まれることで有名な栄養素ですが、体内に入るとアレルギー反応による炎症を抑えてくれる働きを持つため、ワンちゃんの皮膚の痒みや赤みの軽減といった嬉しい効果が期待できるのです。

手作り食

何かひとつの食材にのみアレルギーを持っている場合には、その食材を避ければアレルギー症状を避けることができます。
しかし複数の食材にアレルギーを持つワンちゃんは、そう簡単にはいきません。
市販のドッグフードにはさまざまな原材料が入っているため、あれもこれもとアレルゲンがある場合には、すべてを避けていては愛犬が食べられるフードが見つからないという状況にもなりかねないのです。
そうした場合には、ご家庭での手作り食を推奨されることもあります。
手作り食であれば、愛犬がアレルギーを起こさないと確信できる食材のみを使うことが可能です。
今までドッグフードのみを利用してきた飼い主さんからすると、手間や時間がかかってしまいますが、ワンちゃんの健康のためには手作り食を選択しなければならない場合もあります。

 

食物の交叉反応

ある食材にアレルギーを持っている場合、その他の食材にもアレルギー反応を起こす可能性もあるため、注意が必要です。
例えば、鶏肉アレルギーのワンちゃんであれば、ターキー(七面鳥)の肉に対してもアレルギー反応を起こすことがあります。
種類が異なる肉でも、アレルゲンとなる物質の構造が似通っている場合に、免疫システムが勘違いから攻撃してしまうケースがあるのです。
これを「交差(交叉)反応」や「交差(交叉)感作」と呼び、多くの食品や植物などで確認されています。
ワンちゃんに関係の深い食品では、以下のようなものに交差反応が認められます。

アレルギーのある食材 交差反応によりアレルギー症状が起こりうる食材
鶏肉 ターキー肉(七面鳥)、鶏卵、うずらの卵
牛肉 鶏肉、豚肉、ラム肉(羊肉)、ウサギ肉、牛乳
サーモン タラ、まぐろ
小麦 大麦、ライ麦、とうもろこし、米
小麦、大豆、ゴマ
エンドウ豆 インゲン豆、大豆

上記のものは一例であり、また、全てのワンちゃんに起こるものではありません。牛肉にはアレルギーを起こすけれども、豚肉は問題なく食べられるというワンちゃんもいます。
とはいえ、これらの食材はドッグフードの原材料としても頻繁に使用されているものばかりです。
色々なアレルギーを持っているワンちゃんが、これらの食材が含まれたフードを食べる場合には、体調に変化はないかを注意深く観察してあげましょう。

まとめ
食物アレルギーは、一度発症してしまうと非常に治りにくい厄介な疾患です。
アレルゲンの特定までも時間がかかりますし、特定されてからもその食材を避けながら、ワンちゃんが安全に食べられる食事を選んであげなければなりません。
ワンちゃんによって食べ物の好みはそれぞれですので、低アレルギー食への食い付きが悪くて困ってしまうこともあるかもしれません。
しかし現在では、低アレルギー食にもさまざまな種類が登場しています。
選べるタンパク源の種類も豊富ですし、各メーカーから発売されているため、その中からワンちゃんが喜んで食べてくれるフードが見つかる可能性も高いでしょう。
食物アレルギーとの闘いは長期に渡ることが一般的です。こうした低アレルギー食を上手に使い、根気よく付き合っていきましょう。
注意

※この記事の内容は、様々な「低アレルギードッグフード」の銘柄の特徴をまとめたものです。
商品によって特徴は多少異なりますので、すべての皮膚病用フードに上記の特徴が当てはまるわけではありません。