ドッグフードの栄養添加物「パントテン酸カルシウム」の働き

ドッグフードの栄養添加物「パントテン酸カルシウム」

ドッグフードの原材料欄に頻繁に登場するパントテン酸カルシウムですが、一方でパントテン酸という栄養素の名前もよく耳にします。
そのため、パントテン酸カルシウムとパントテン酸は同一の成分なのか、それとも別物なのかと混乱されている方も多いのではないでしょうか。

簡単にいうと、パントテン酸カルシウムは、パントテン酸の働きを持った化合物です。
皮膚の健康を保ったり、エネルギー産生がスムーズに行われるようにサポートしてくれる働きを持ち、栄養強化剤としてドッグフードに添加されています。

ここでは、パントテン酸カルシウムとパントテン酸は具体的にどう違うのかといったことから、体内における作用、多く含まれている食材などについてお話ししていきたいと思います。

パントテン酸カルシウムの作用はパントテン酸と同様

パントテン酸カルシウムとパントテン酸の違い

「パントテン酸」自体は自然界に多く存在する成分ですが、パントテン酸カルシウムは、「パントテン酸」と「カルシウム」というふたつの物質が結合した状態です。
栄養強化を目的として、ドッグフードを始めサプリメントや飲み物、化粧品、医薬品などに幅広く添加されています。

「パントテン酸カルシウム」という名称ではありますが、カルシウムはわずかにしか含まれておらず、カルシウムとしての働きは期待できません。
あくまでもパントテン酸の栄養を補給するために使用される添加物であり、働きもパントテン酸と同様です。

パントテン酸は粘り気を持ち、水を吸い込みやすいという特徴があるのですが、カルシウムと結合させることにより水によく溶けるようになります。
そのため体内でも吸収しやすくなり、栄養素を効率よく摂取できるのです。
ドッグフードに添加される場合には、「パントテン酸カルシウム」の他に、「パントテン酸Ca」や「パントテン酸塩」、「パントテン酸D-カルシウム」など、さまざまな名称で表示されています。

さまざまな成分の合成に関与する

皮膚の潤いを保つセラミドを合成する

パントテン酸はもともと、鶏の皮膚炎の予防因子として発見され、「ビタミンB5」とも呼ばれます。

パントテン酸には、ナイアシンやコリン、イノシトールといったビタミンB群や、ヒスチジンというアミノ酸と協力し、セラミドの合成を促進する働きがあります。
セラミドは皮膚の細胞と細胞の間に存在する油分(細胞間脂質)であり、肌の潤いを保つために重要な存在です。
セラミドが充分に作られているワンちゃんの皮膚は、乾燥や外的な刺激に強くなります
反対に、アトピー性皮膚炎を起こす皮膚にはセラミドが不足しており、バリア機能が低下しているということが分かっています。

また、パントテン酸には、やけどやケガの治りを早めたり、紫外線によって皮膚が炎症を起こすことを防いでくれる作用もあるのです。
そのため「パンテノール」(パントテン酸とアルコールを合わせた成分)という名で、人用の火傷の治療薬や日焼け止めなどにも配合されています。

コエンザイムAの構成成分として、エネルギー代謝に関与する

パントテン酸は、コエンザイムAという酵素の構成成分でもあります。

ワンちゃんの体内ではさまざまな酵素が働き、健康を維持しています。
コエンザイムAはそれら多くの酵素が正常に働けるようにサポートする補酵素としての役割を持っています。
脂肪やコレステロール、神経伝達物質などの合成にかかわるほか、「三大栄養素」と呼ばれる糖質、脂質、タンパク質がエネルギーへと変換される際に欠かせません

コエンザイムAには、副腎に働きかけてコルチゾール(副腎皮質ホルモン)をスムーズに分泌させる働きもあります。
コルチゾールはアレルギーなどの炎症を抑える作用や、血圧や血糖値を上昇させることにより、ストレスへの対抗力をアップさせる作用があります。

パントテン酸の不足は、セラミドやコエンザイムA、さらにはコルチゾールの量までもが、連鎖的に減少することを意味しています。
いずれもワンちゃんの体にとって大切な働きをする成分であり、不足することによって体調にさまざまな悪影響を及ぼします。

パントテン酸の欠乏と過剰の健康リスク

しっかりと食事が取れていれば欠乏はまれ

前述の通り、パントテン酸カルシウムは人工的に合成された添加物であり、食材に含まれているのはパントテン酸です。
「パントテン」とは、「いたる所に存在している」という意味のギリシア語であり、その名の通り数多くの食材に幅広く含まれています。
そのため、総合栄養食のドッグフードはもちろんのこと、普通に食事が取れているワンちゃんであればパントテン酸不足となることは非常にまれです。

しかしパントテン酸欠乏の実験では、以下のような健康被害が出るという結果が出ています。

  • 皮膚の炎症
  • 毛並みの質の悪化
  • 脂肪肝
  • 食欲不振
  • 下痢
  • 嘔吐
  • 低コレステロール血症
  • 疲れやすくなる
  • 昏睡

このように、パントテン酸欠乏症には比較的軽い症状から、昏睡のような重篤な症状まで存在するのです。
欠乏の可能性が低いために普段は意識されることの少ないパントテン酸ですが、ワンちゃんの健康維持にとって大切な役割を果たしていることがうかがえます。

排泄されやすく過剰症の心配は少ない

パントテン酸は水溶性のため、たとえ多く摂取しすぎたとしても尿で排泄されます。
栄養素の中には、自然由来のものであれば毒性は低いけれども、合成のものは健康リスクが高いという成分も存在します(ビタミンKなど)。
しかしパントテン酸に限っては、合成添加物であるパントテン酸カルシウムにおいても毒性は低いとされてます。

こうした理由から、パントテン酸、パントテン酸カルシウムともに、過剰症の可能性は非常に低いです。
犬のデータではありませんが、まれに胃腸の弱い人ではパントテン酸の大量摂取によって、吐き気や嘔吐、腹痛、軟便などが起こるケースがあると指摘されています。

食品に幅広く含まれるパントテン酸

パントテン酸は動物性、植物性問わずさまざまな食品に含まれています。
しかし、含有する食材の種類によって吸収率には差があります。
例えば、大豆とトウモロコシに含まれるパントテン酸の吸収率は高く、麦類は低めといった具合です。

とはいえワンちゃんに手作り食をあげる場合には、いくつかの食材を一緒に調理することがほとんどであるため、その中には吸収率の高いものも低いものも存在します。
ひとつひとつの吸収率まで細かく考えなくても大丈夫でしょう。
総合栄養食のドッグフードであれば、素材に含有されていることに加えて、吸収性に優れたパントテン酸カルシウムが添加されているケースも多いです。
当然、こちらの吸収率についても問題はありません。

以下に、パントテン酸が多く含まれ、ワンちゃんが食べることのできる食材をグラフに表しました。

鶏のレバーが10.10mgと、最も高いパントテン酸含有量を示しています。
魚類では、ニジマスに2.36mg、シシャモに1.95mg含まれていますが、肉類と比べると全体的に含有量は低めです。

欠乏を起こしにくい栄養素であるため、パントテン酸のみを集中的に摂取させなくてはならないケースはあまりないかもしれません。
しかし、もしも愛犬にパントテン酸を摂取させたいときには、(アレルギーがない限りは)肉類を与えたほうが効率がよいでしょう。

こちらは肉類以外の食品のパントテン酸含有量です。
ひきわり納豆に多く入っているのが分かりますが、やはりレバーなどから比べると量は劣ります。
しかしこれらの食材は、フードのメインにはならないもののトッピングとしては使いやすいため、毎日の愛犬の食事に気軽に取り入れられるものばかりです。
パントテン酸以外の栄養素も豊富な食材が多いので、栄養バランスの向上のために利用されてみてはいかがでしょうか。

まとめ
パントテン酸を、さらに効率よく補えるようにしたものがパントテン酸カルシウムです。
しかしパントテン酸はもともと欠乏しにくいため、正常な食欲を持った健康なワンちゃんであれば意識的に摂取させる必要はあまりないといえます。
しかし、パントテン酸だけが足りていても、セラミドやコエンザイムAは作られません。
当たり前のことではありますが、愛犬には毎日バランスの取れた食事を与え、他の栄養素も不足させないように管理してあげることが大切です。