ドッグフードのビタミンB1の働きとは?欠乏した犬はどうなるの?

ドッグフードの栄養素「ビタミンB1」

ビタミンB群にはビタミンB1を始めとして、ビタミンB2やビタミンB6、ビタミンB12、ナイアシン(ビタミンB 群の一種です)など、いくつかの種類があります。 いずれのビタミンBも糖質や脂質の代謝などに関係しているという点では共通していますが、具体的な働きや欠乏時や過剰時に現れる症状などには違いがみられます。 ここではビタミンB群の中でも、ワンちゃんの体内のエネルギー産生に重要な役割を持つ「ビタミンB1」について、細かくみていきたいと思います。

ビタミンB1はエネルギーの代謝に不可欠な栄養素

ビタミンB1は脚気(かっけ)の予防効果のある成分として発見された、水溶性のビタミンです。 「チアミン」、「アノイリン」、「サイアミン」など、ビタミンB1はいくつかの化学名で呼ばれることもあります。

ビタミンB1は、炭水化物が分解されてできるブドウ糖(グルコース)からエネルギーを作り出すという極めて重要な働きをします。 エネルギーは体を動かすためだけのものではなく、脳を働かせるためにも必要です。特にブドウ糖は、脳が利用できる唯一のエネルギー源といわれています。このブドウ糖をエネルギーへと変えるビタミンB1は、ワンちゃんの生命維持に欠かせない栄養素といっても過言ではありません。

さらに、ビタミンB1はアセチルコリンという神経伝達物質が作られる際にも働きます。 アセチルコリンは自律神経(特に副交感神経)の働きに関与しており、体内のさまざまな機能をコントロールしています。 具体的には、記憶力や認知機能を正常に保ったり、血圧や脈拍数が上がりすぎないように調節します。 他にも、筋肉の緊張や収縮を行ったり、尿を排泄しやすくする作用などもあるのです。

また、エネルギーが生まれる際には、体にとってあまり歓迎できない成分である乳酸も発生します。この乳酸を再びエネルギー源へと変えるためには、ビタミンB1が欠かせません。 ビタミンB1不足になり、乳酸が代謝されずに溜まってしまうと、疲労感を感じやすくなります。逆にいうと、ビタミンB1には疲労解消効果があるということです。 犬が夏バテをした際にビタミンB1を多く含む食材を与えることによって、体調が回復したという報告もあります。

ビタミンB1の欠乏症と過剰症

ビタミンB1の欠乏は脚気を引き起こす

ワンちゃんがビタミンB1を欠乏する理由としては、

  • 栄養バランスが考慮されていない手作り食を与えている
  • 甘いものを多く与えている
  • ビタミンB1分解酵素「チアミナーゼ」を含む食材を食べさせた

などが挙げられます。

小麦粉や白米など、ビタミンB1の含有量が低い材料ばかりを使った手作り食を愛犬に与え続けていると、ワンちゃんの体内でビタミンB1が足りなくなり、欠乏症に繋がります。 また、ビタミンB1がブドウ糖からエネルギーを生成する際にはマグネシウムというミネラルが必要です。したがって、マグネシウムが不足している場合にも、ビタミンB1欠乏のリスクが上昇します。

甘いものに含まれるブドウ糖をエネルギーに変換するためには多くのビタミンB1が使われます。そのため、甘いものを多く摂りがちなワンちゃんはビタミンB1の欠乏を起こしやすいのです。 チョコレートやアメといった、砂糖を多く使ったお菓子はワンちゃん向けのものにはありませんので、実際に甘いものを摂りすぎている犬は少ないかもしれません。 しかし、ケーキやあんこ、クッキーなどのお菓子類や甘い味付けの煮物など、人間の食べ物には想像以上の糖分が入っているケースもあります。 「ちょっとだけだから」とおすそ分けを繰り返していると、いつの間にか愛犬が糖分過多になり、ビタミンB1を多く消費している可能性があるのです。

また、カニやエビ(甲殻類)、タコ、イカ、貝、生の魚などには、ビタミンB1を分解する「チアミナーゼ」という酵素が含まれています。 いくらビタミンB1の多い食材を摂取させても、これらの食材を与えてしまうとビタミンB1が壊されて無駄になってしまいます。また消化も悪いため、ワンちゃんには与えないように注意しましょう。

なお、成長期の子犬は多くのビタミンB1を必要とし、その要求量は成犬の2倍ともいわれています。

ビタミンB1が不足した時、ワンちゃんには以下のような症状が現れます。

  • 脚気の発症
  • 疲れやすくなる
  • 心臓肥大
  • 食欲不振からの体重減少
  • 筋力の低下
  • 視力や発育の障害
  • 神経の麻痺

脚気」とは、ビタミンB1が不足すると起こる神経の障害です。 脚気が発症すると、動悸や息切れをしやすくなる、倦怠感を感じやすくなり元気がなくなる、脱毛、脚の麻痺などの症状がみられるようになり、処置をせずに放っておくと最終的には心不全を起こして死亡することもあります。 脚気は人間にも発症する病気ですが、江戸時代から昭和初期頃までに多くみられた過去の病気だと思われがちです。しかし、現在でもバランスの悪い食生活を続けることによって、犬も人も発症するリスクのある侮れない病気なのです。

また、ビタミンB1の欠乏によって、ワンちゃんに食糞行動がみられるケースもあるようです。 食糞とは、犬が自分の(または別の犬の)排泄物(糞)を食べてしまうことをいいます。 子育て中の母犬や子犬の一時的な食糞行動は正常範囲(※1)です。通常は、子育てが終われば、または子犬の場合は成長に伴い食糞は治まります。

しかし、子育てもしていない成犬が食糞をする場合には、何らかの解決しなければならない原因があるといわれています。 その原因に対するひとつの仮説として、ビタミンB1不足が挙げられるのです。 糞には大腸菌などの体に有害な菌類も多くいますが、同時にビタミン類なども多く含まれています。ビタミンB1欠乏症の犬は本能的に糞を食べることで、足りないビタミンB1を補っていると推測されているのです。

※1 正常な食糞・・・母犬の場合は、子犬の排泄物を食べて処理することにより巣を衛生的に保ちます。ニオイを消し、敵から気付かれにくくするという効果もあります。子犬が食糞をするケースでは、単なる母犬のマネや、腸内細菌の発達が未熟で栄養素の産生量が少ないために、足りない成分を糞から補おうとして食糞をすることがあります。

経口摂取による過剰症の報告はない

水溶性(水に溶けやすい)であるビタミンB1は、多く摂りすぎてもそのほとんどは尿として排出されます。 そのため一般的には、ビタミンB1での過剰症は起こりにくいとされています。 2017年10月現在までに、犬にビタミンB1を経口摂取させた場合において、毒性が確認されたというデータはありません。

ドッグフードへ添加されるビタミンB1

AAFCO(米国飼料検査官協会)(※2)の基準では、犬のビタミンB1の最低必要量は、フードの乾燥重量1kg当たり1.1mgとされています。

ビタミンB1は非常に分解されやすく熱にも弱い栄養素です。 そのため食材に含まれるビタミンB1は、ドッグフードに加工されていく途中で、90%程度にまで分解され減ってしまいます。 減少したビタミンB1を補うために、栄養強化剤として「チアミン塩酸塩」や「硝酸チアミン」というビタミンB1と同様の働きを持った添加物が使われることがあります。

また「チアミンラウリル硫酸塩」(※3)という成分もあり、これももともとはビタミンB1強化を目的として作られた食品添加物です。 しかしチアミンラウリル硫酸塩の添加により、食品の保存可能期間が長くなることが判明したため、ドッグフードや人間用の食品(漬物類や醤油、あんこなど)に幅広く使用されるようになりました。

※2 AAFCO(米国飼料検査官協会)・・・アメリカのペットフード業界によって作られた組織です。2017年現在、日本のペットフードメーカーは、この組織が規定した犬猫の栄養基準をもとに製品作りを行っているところがほとんどです。

※3 チアミンラウリル硫酸塩 ・・・ビタミンB1(チアミン)とラウリル硫酸塩(ラウリル硫酸ナトリウム)を合成して、ビタミンB1を壊れにくく安定化させた成分です。ラウリル硫酸ナトリウムとは、シャンプーや歯磨きペースト、洗剤など多くの製品に利用されている合成界面活性剤のひとつです。

ビタミンB1を多く含む食材と、摂取させる時のポイント

前述の通りビタミンB1は水溶性のため、尿と共に排出されやすい栄養素です。体内に蓄積しにくいために過剰症を起こしにくいというメリットもありますが、それは同時に、ワンちゃんの毎日の食事を通して摂取させなければならないということでもあります。

豚肉にはビタミンB1がたっぷりと含まれている

ビタミンB1を最も多く含有しているのは小麦胚芽(100g当たり1.82mg)や酵母(2.21mg)ですが、他にも肉類や豆類、野菜、穀類などのワンちゃんが食べられる食品にも含まれています。 以下に、それぞれの食品にどれ位の量のビタミンB1が含まれているかを比較した表を掲載しておきます。 まずは、肉や魚、卵のビタミンB1含有量です。

ビタミンB1は、豚肉のさまざまな部位に多く含まれている傾向があります。豚肉はビタミンB1を非常に効率的に補給できる食品です。 また、鶏や豚のレバー(肝臓)よりも鴨肉のほうがビタミンB1が多いことが分かります。 日本において、ワンちゃん用の手作りフードに鴨肉を毎日使うことは現実的ではありませんが、鴨肉をメインとしたドッグフードは色々な種類が販売されています。 牛肉は、ハツ(心臓)の部分には0.42mg(100g当たり)のビタミンB1が含まれますが、レバー(肝臓)では0.22mgと、全体的に含有量は少なめです。

次の表は、穀類や豆類、野菜などのビタミンB1含有量を表したものです。

大豆のビタミンB1含有量は0.83mgと多いのですが、ワンちゃんが摂取しやすい加工食品になると、ひきわり納豆は0.14mg(100g当たり)、絹ごし豆腐は0.10mg、木綿豆腐は0.08mgとかなりの減少がみられます。 その中でも、きな粉には100g当たり0.76mgと多くのビタミンB1が残っているため、ビタミンB1の摂取に適しています。しかし、一度に多くの量を食べられないことが欠点です。

穀類のビタミンB1は、外側の皮や胚芽の部分に多いため、それらを取り除いた精白米にはほとんど残っていません。 焼きのりも、0.69mgと多くのビタミンB1を含んでいますが消化しにくいため、ワンちゃんには与えないほうがよい食材です。

ビタミンB1を無駄なく摂取させるポイント

ビタミンB1は水に溶けやすく熱に弱い

ビタミンB1を無駄にせず愛犬に摂取させるには、いくつかのポイントがあります。 まず、ビタミンB1は水に流出しやすいため、食材を洗う際には長時間水につけっぱなしにすることは控えましょう。 また、食材をゆでて調理する場合には、どうしてもゆで汁の中にビタミンB1が溶け出てしまいます。ゆで汁を捨ててしまっては、せっかくの栄養分が失われてしまいますので、ゆで汁ごとフードに混ぜるなどしてワンちゃんに食べさせることが大切です。 ビタミンB1は熱に弱く、加熱調理の過程で3分の1から半分程度の量にまで減少するといわれています。そのため、愛犬にビタミンB1を多く摂取させたい場合には、なるべくビタミンB1含有量の多い食材を選ぶことも必要となります。

ニラやニンニクはビタミンB1の吸収効率を高めるが、犬には厳禁

「ビタミンB1を含む食材とニラやニンニクなどを一緒に食べると、疲労回復効果が高まる」という話を聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。しかし、ワンちゃんには危険な方法ですので、絶対に試さないようにしてください。

ニラや玉ネギに含まれる硫化アリルや、ニンニクを潰したり刻んだ時に発生するアリシンという成分は、ビタミンB1を脂溶性のアリチアミンという物質に変化させる働きがあります。 アリチアミンとなったビタミンB1は腸内での吸収が高まる他、多くの脂溶性ビタミンがそうであるように、体内に貯蔵することが可能となります。 この仕組みがレバニラ炒めがスタミナ食であるといわれる所以であり、人間にとっては非常に有益な食べ方でもあります。

しかし、硫化アリルやアリシンがワンちゃんの体内へと入ると、赤血球が破壊されて溶血性貧血を発症する可能性があるのです。 溶血性貧血を発症すると、心拍数の増加や粘膜(歯ぐきなど)が白くなる、赤色の尿が出る、食欲不振、嘔吐や下痢などといった症状が現れます。

いくらビタミンB1が効率的に吸収できるとはいえ、ワンちゃんにニラや玉ネギ、ニンニクを与えることは、重い健康被害を招くリスクがあります。 少量の摂取では何も症状が出ない場合もありますが、犬にこれらの食材を食べさせることのないように注意しましょう。(※4

※4 ニンニクに限り、ドッグフードの原材料として使用されているケースがあります。この場合は、ワンちゃんの体に悪影響を及ぼす成分を取り除いたものが使われていると考えられます。

まとめ
ビタミンB1は野菜類よりも肉類や魚に多く含有されているため、肉食寄りの動物であるワンちゃんにとっては、無理なく摂取しやすい栄養素です。 しかし調理過程でその多くが失われてしまうことから、手作りフードを与える際にはビタミンB1の損失量までも考慮に入れて食材や量を考える必要があります。そのため、手作りフードだけで一定量のビタミンB1を毎日与え続けることは難しい面もあります。 ビタミンB1に限っていうならば、しっかりと栄養管理をされた市販の総合栄養食のドッグフードを与えた方が、必要量をきちんと補うことができるでしょう。 手作りフードを与えているご家庭では、特に常日頃から愛犬の様子を注意深く観察しておくことが大切です。もしも、元気や食欲がないなどのビタミンB1欠乏が起きている兆候があれば、食事内容を少し見直す必要性があるかもしれません。