ドッグフードの着色料「クチナシ色素」の種類と犬に対する安全性

ドッグフードの着色料「クチナシ色素」

クチナシ色素(くちなし色素)は、ドッグフードだけでなく、私たちが普段よく口にする食べ物にも頻繁に使われている着色料です。 クチナシ色素が含まれる食品は非常に多岐にわたるため、クチナシ色素を使用した食品を一度も食べたことがない、という人はごく少数なのではないでしょうか。 食品だけでなく布地の染料にもなる便利なクチナシ色素とは、いったいどのようなものなのでしょうか。

クチナシ色素は全部で3種類

クチナシ色素は、アカネ科クチナシ属の低木である「クチナシ」という植物の実を原料として作られます。 「クチナシ」の語源に関しては、

  • 熟しても実の口が割れて落下したり、破裂したりしないことから、「口が無い」または「朽ちない」の意味から名付けられた
  • クチナシの実の細く尖った先端が鳥のくちばしに似ているため、「クチハシ」が由来となった

など諸説あります。

クチナシは「梔子(しし)」とも呼ばれ、日本の静岡県よりも西の地域と、台湾、中国、インドシナ半島などで見ることができます。 クチナシの白く大きな花は、甘く強い香りを放つことで知られています。その香りをを楽しむために、クチナシの木を庭に植えている家庭も多いのです。 真っ白な花とは対照的に、クチナシの実は鮮やかなオレンジ色をしています。 このオレンジ色を作り出している成分が、カロテノイド(※1)である「クロシン」や「クロセシン」という物質です。クチナシ色素はこのカロテノイドを原料として作られるため「カロテノイド色素」に分類されます。

クチナシの実からは、黄・青・赤色という3種類のクチナシ色素を作ることができます。 採り出したい色により、それぞれ異なる抽出方法が用いられています。 黄色い色素は、クチナシの実からエタノールや水を用いて抽出されます。主成分が前述のクロシンやクロセシンであるため、クチナシの実と同じような黄色味を帯びています。 対して青色や赤色のクチナシ色素は、クチナシの実から抽出されたイリドイド配糖体という成分に大豆たんぱく分解物などを混ぜ、酵素を作用させることによって得られます。

クチナシ色素の便利なポイントは、この抽出した3色を絵の具のように混ぜ合わせてさまざまな色を作り出せるところです。特に青色のクチナシ色素は、そのままの色で使われるよりも黄色と混ぜて緑色や黄緑色の色素を作る目的で、頻繁に用いられています。

天然素材から作られた着色料の性質はさまざまです。何が原料となっているか、どのような成分が含まれているかなどによって、それぞれ異なる性質を持ちます。性質の違う着色料同士を混ぜ合わせた場合、なかなか思うような色が出せないことも多いのです。

その点、クチナシ色素同士は自由に色が調合できるため、広い活用範囲を持ちます。 クチナシ色素が使用されている主なものには、ドッグフードや犬用おやつを始め、私たち人間が口にする飴やチョコレート、パン、たくあん、中華麺、ゼリー、アイス、清涼飲料水、乳飲料、サプリメントなどが挙げられます。

また、多くが脂溶性であるカロテノイド色素の仲間としては珍しく、クチナシに含まれる色素は水溶性です。その名の通り水に溶けやすい性質を持つため、煮物などに使っても食材をキレイに着色することができます。 このため日本では昔から、おせち料理の定番である栗きんとんの色付けにクチナシの実が使われてきました。

※1 カロテノイド(カロチノイド)・・・動植物や微生物に存在する、赤・オレンジ・黄の色味を持つ色素の総称です。カロテノイドの種類は600以上もあるといわれており、優れた抗酸化作用を持ちます。ニンジンに含まれるカロテンやトマトのリコピン、唐辛子のカプサイシンなどもカロチノイドの一種です。

クチナシ色素の安全性

化学的に合成された添加物に比べて、自然界に存在する植物から抽出されたクチナシ色素に対しては、「毒性が低く、愛犬に安心して与えられそう」というイメージを持たれる飼い主さんも多いのではないでしょうか。 しかし、「自然由来イコール安全」という考えは、天然の添加物全てに当てはまるものではありません。 クチナシ色素も同様で、色によっては多少の懸念事項があるのです。

気を付けたい成分「ゲニポシド」

クチナシの実には、「ゲニポシド」という成分が含まれています。 前述の通り、クチナシには梔子という別名があるのですが、クチナシの実は「山梔子(さんしし)」と呼ばれ、漢方薬としても利用されています。 この山梔子の主成分がゲニポシドです。

ゲニポシドには血管を拡張させる作用があり、血圧の上昇を抑えてくれます。さらに血流が良くなるために、体の冷えからくるさまざまな不調にも効果があるとされています。 また、コレステロール値の低下、高脂血症の予防、精神の安定化など、ゲニポシドは健康に良い影響を与えてくれる成分でもあるのです。湿布薬として、捻挫や打撲傷の治療に用いられたりもします。

しかし同時に、ゲニポシドには警戒すべき副作用もあるのです。 ゲニポシドは、主に黄色いクチナシ色素に含有されています。 体重1kg当たり0.8gから5gの黄色のクチナシ色素をラットに経口投与した実験があります。 これにより死亡したラットはいませんでしたが、下痢症状を起こしたり、肝臓からの出血や幹細胞の壊死が確認されたという結果が出ているのです。

ただしこれは、日常生活で想定される摂取量よりもはるかに大量のクチナシ色素を投与したことによって得られた結果です。 ワンちゃんが食べるドッグフード類に含まれている程度の色素量では、実際にどの程度の健康被害が出るのかはハッキリとは分かっていません。

また、2017年現在、赤色と青色のクチナシ色素に関しては、動物に対する毒性はないとされています。 しかし高容量の使用により、変異原性が確認されたというデータもあるため、安心はできません。変異原性とは、染色体やDNAに傷をつけて性質を変化させることで、ガンを誘発する要因ともなります。 特に青色のクチナシ色素は、アルテミア・サリーナ(※2)に対して高い致死率を示したという実験結果も出ているため、安全性を再度検証する必要性があるともいわれているのです。

一方で、以前に比べるとクチナシ色素に含まれるゲニポシドの量が減少傾向にあるという調査報告もあります。 1988年と1996年の2度に渡り、クチナシ色素に含まれるゲニポシドの含有量を分析したデータがあります。 これによると、1996年におけるクチナシ色素のゲニポシド含有量は、1988年と比べて黄色は減少、赤色と青色は不検出となりました。 この結果は、色素の製造過程においてゲニポシドの大半が分解・除去されるようになり、製品化されたクチナシ色素の中には残存しにくくなったことを意味しています。

とはいえ、現在使われているクチナシ色素(黄色)にゲニポシドが全く入っていないというわけではありません。今まで動物に被害が出ていないとはいえ、これからも出ないという保証もないのです。 愛犬の健康に万全を期するということを考えるのであれば、クチナシ色素の使われたフード類は避けられるのならば避けた方がよいでしょう。

クチナシ色素の色 ゲニポシド含有量(1996年) 健康被害の可能性
黄色 減少傾向 下痢、肝臓からの出血、肝細胞の壊死など
青色 不検出 変異原性、アルテミア・サリーナに高い致死率を示す
赤色 不検出 変異原性

※2 アルテミア・サリーナ…ブラインシュリンプやシーモンキーなどの名称でも呼ばれる、甲殻類です。白っぽく半透明なエビのような外見を持ちます。遥か昔から変わらぬ姿を留めており、生きる化石ともいわれる節足動物です。

さまざまな名称を持つクチナシ色素

飼い主さんたちが特に気を付けたいと思うのは、やはりゲニポシドを唯一含有している黄色いクチナシ色素ではないでしょうか。 クチナシ色素が使われているかは、ドッグフードや犬用おやつのパッケージの原材料欄でチェックできます。 しかし原材料欄において、クチナシ色素は実にさまざまな名称で記載されているのです。 以下に、それぞれのクチナシ色素が他にどのような呼び名を持つのかをまとめました。

クチナシ色素の色 ドッグフードなどの原材料欄に表記される可能性のある名称例
黄色 クチナシ黄色素、クチナシ色素、着色料(クチナシ)、着色料(クロシン)、着色料(カロテノイド)、カロテノイド色素、カロチノイド色素 など
青色 クチナシ青色素、クチナシ色素、着色料(クチナシ) など
赤色 クチナシ赤色素、クチナシ色素、着色料(クチナシ) など

このように、最も注意したい黄色のクチナシ色素のみ、非常に多くの名称で呼ばれています。 しかも、何色の色素であっても「クチナシ色素」とだけ表示されているケースも多いため、いったいどの色が使われているのか判断できないこともあるのです。 フードの色から分かる場合もありますが、数種類の色素が調合されている場合もあるため、絶対的な判断基準はありません。「フードは黄色っぽくなかったけれど、実はクチナシ黄色素が使われていた」などということも充分に考えれるのです。

まとめ
クチナシ色素をどの程度まで警戒するかは、完全に飼い主さんの判断にゆだねられています。 「愛犬には少しのリスクも背負わせたくない」ということであれば、現段階ではクチナシ色素の表記があるフードは全て避けるという方法を取るしかないでしょう。

着色料は食品の見た目をキレイに演出するためのものですので、フードの色味によって食欲が左右されることのないワンちゃんにとっては全く不必要な成分なのです。着色料をドッグフードに使用する目的が、犬の飼い主への訴求力を高めるためであるということは明白です。 加えて健康被害に疑問が残るとくれば、そのような添加物は「できるだけ愛犬から遠ざけたい」と飼い主さんが考えるのも当然のことでしょう。

クチナシ色素に関しては、いまだ動物に対する健康リスクがハッキリとしていない部分もあり、それが余計に安全性への不信感を生んでしまっています。しっかりとした毒性の検証が行われることを待つしかないのが現状なのです。