ドッグフードの栄養添加物「硫酸コバルト」の働きと欠乏症

ドッグフードの栄養添加物「硫酸コバルト」

コバルトは銀や銅、ニッケル、亜鉛などの鉱床(※1)から採掘される、金属の一種です。 そして、銅や亜鉛と同じように、動物の体にとって必要なミネラルでもあります。 そのコバルトが体にスムーズに吸収されるように化合物にしたものが、硫酸コバルトです。 硫酸コバルトは、飼料用の栄養添加物として、ドッグフードや家畜のエサに配合される一方で、蓄電池の原料、めっき、インクの乾燥剤などとしても幅広く利用されています。 また、ガラスに混ぜるとコバルトブルーと呼ばれる鮮やかな青色を呈するため、古くからガラスの彩色や陶磁器の絵付けにも用いられてきました。 このように、さまざまな用途に引っ張りだこの硫酸コバルトですが、ここでは飼料用添加物としての役割にスポットを当てて、解説していきたいと思います。

※1 鉱床・・・鉱石が地中の一ヶ所に密集して存在している場所や、その状態のことです。

 

コバルトはビタミンB12の原料となる

硫酸コバルトから補給できるミネラル「コバルト」

まずは、硫酸コバルトから補給できる栄養素「コバルト」についてご説明します。 コバルトは自然界に存在する物質です。 強力な磁性を持ち、酸化しにくい(錆びにくい)という性質があるため、磁石の原料や金属の腐食を防ぐ「めっき」の材料として頻繁に用いられています。 私たちの身近なところでは、虫歯治療の際に使われる合金にも、コバルトが利用されています。

工業的なイメージの強いコバルトですが、動物の体に必須の栄養素「ビタミンB12」の構成成分となるミネラルでもあるのです。 ワンちゃんや私たちの大腸の中にいる微生物は、コバルトを材料としてビタミンB12を合成します。

2018年3月現在までに判明しているコバルトの働きは、この「ビタミンB12の原料となる」ということのみです。 動物の体内に存在するコバルトは、15%程度がビタミンB12として、残りの85%は酵素などに含まれているといわれています。しかし、この85%のコバルトがどのような作用を持っているのかは明らかになっていません。 「生体のリズムや中枢神経を正常に保つ働きがあるのではないか」と考えられていますが、まだ仮説の段階です。

硫酸コバルトを家畜飼料に添加する理由

ドッグフードにもよく添加されている硫酸コバルトですが、牛や羊などの家畜用飼料の栄養添加物としても頻繁に利用されています。 それというのも、牛や羊といった反芻動物(※2)は、ルーメンと呼ばれる第一胃(※3)に生息する細菌(プロピオン酸酸性菌)によって、コバルトからビタミンB12を作り出します。 しかし、日本の土壌はコバルトの含有量が少ない傾向が強く、そこに生える牧草にもコバルトがあまり含まれていません。牧草を食べさせているだけでは、家畜の健康を維持するだけのコバルトが補給できないのです。 コバルトが不足すると家畜の食欲がなくなったり、乳牛の場合には乳量が少なくなり、生産性が低下することがあります。 そこで硫酸コバルトを飼料に添加してコバルトを補い、体内でビタミンB12を充分に作れるようにしてあげるのです。

※2 反芻動物(はんすうどうぶつ)・・・一度飲み込んだ食べ物を、再度口の中に吐き戻して噛み、再び飲み込むという習性を持つ動物の総称です。牛や羊、ヤギ、鹿、キリンなどが反芻動物に分類されます。

※3 第一胃(ルーメン)・・・反芻動物の胃は、第一胃から第四胃までの4つの部屋に分かれています。口から最も近い場所に位置する第一胃は「ルーメン」と呼ばれ、そこに住み着くたくさんの微生物たちが、牧草などの食べ物が入ってくるのを待っています。植物に含まれる繊維質や微量のタンパク質などは、ここで微生物に分解されて栄養となるのです。ワンちゃんや人間には、胃はひとつしかありません。ワンちゃんや私たちの胃を反芻動物で例えるならば、消化機能を有する第四胃に当たります。

このように、草食性を持つ反芻動物にとって、コバルトは欠かすことのできないミネラルです。 しかし、肉食性の強いワンちゃんにとっては、少し状況が異なります。 コバルトを含有した植物性食品はほとんどありません(※4)。 コバルトはビタミンB12の形で、肉や内臓(肝臓や腎臓など)、卵、牛乳、チーズなど、動物由来の食品に多く含まれているのです。 したがって、普段から野菜や穀物よりも肉類を食べる機会が多いワンちゃんは、肉類に含まれるビタミンB12から、コバルトも同時に摂取しているということになります。 ドッグフードには、肉類やレバーがタップリと使われている場合もあれば、ビタミンB12が栄養添加物として加えられていることもあります。 いずれかの形でビタミンB12をきちんと摂取できているならば、コバルトを積極的にワンちゃんに与える必要性はありません。

※4 例外的に、一部の植物性食品(もやしや大豆など)には、コバルトを含有するものも存在します。

ミネラルには、動物の健康維持に多くの量が必要な多量ミネラルと、必須ではあるけれどもごく少量で足りる微量ミネラルがあります。 コバルトは微量ミネラルであり、ワンちゃんの体重1kg当たり0.02~0.1mg程度が体内に存在していると試算されています。 もちろん、ビタミンB12の合成にも大量のコバルトは必要ありません。 1日分のビタミンB12の合成を行うためには、体重1㎏当たり5~10μg(μg=1gの100万分の1です)のコバルトがあればよいといわれています。 総合栄養食(※5)を規定量通りにきちんと食べているワンちゃんであれば、この値は摂取できているはずですので、あまり神経質に考えることはないでしょう。

※5 総合栄養食・・・ワンちゃんが生きていくために必要な栄養素が、バランス良く含まれているフードのことです(別途、新鮮な水は必要です)。ワンちゃんの毎日の主食として与えることを想定して作られています。

コバルトはビタミンB12となり赤血球を作り出す

前述通り、コバルトはビタミンB12の構成成分です。 ビタミンB12は化学名をコバラミンといいますが、これは「コバルト」と「ビタミン」を組み合わせて作られた名称です。 ちなみにビタミンB12は「赤いビタミン」という異名がありますが、この赤色はコバルトの色なのです。コバルトは、ガラスと混ぜると青くなりますが、ビタミンB12に変化すると赤色になるというおもしろい性質を持っています。

コバルトは微生物によってビタミンB12へと変化し、さまざまな健康効果を現しますが、現時点ではコバルト単独としての作用は確認されていません。 そのため、コバルトの働きとビタミンB12の働きはイコールであると考えてよいでしょう。 この項目では、ビタミンB12がワンちゃんの健康にとって、どのように役立っているのかをみていきたいと思います。

ビタミンB12となったコバルトの最も重要な働きは、葉酸とともに赤血球を作り出すことです。 ビタミンB12と葉酸は互いに協力し合い、赤血球のもととなる赤芽球という細胞を分裂させます。赤芽球が分裂を繰り返すことによって、健康な赤血球が作られるのです。 赤血球は血色素成分のヘモグロビンを含み、血流に乗って体中に酸素を届ける役割を持ちます。

また、「生命の設計図」とも呼ばれる遺伝情報が詰まったDNA(デオキシリボ核酸)が合成される際にも、ビタミンB12と葉酸が必要です。 正確にいうと、ビタミンB12のサポートを受けながら、葉酸が実働部隊となってDNAを作ります。

ビタミンB12は「神経のビタミン」とも呼ばれ、末梢神経の傷を癒す働きも持っています。 肩こりや首こりに悩むワンちゃん(※6)にとっても、嬉しい栄養素なのです。

※6 ワンちゃんたちは、私たち人間よりも小柄なことが圧倒的に多いです。そのため、常に飼い主さんを見上げるような姿勢になり、首や肩がこりやすいといわれています。しかし、肩こりに悩んでいても、ワンちゃんたちは人間のように言葉や態度に表すことができません。栄養バランスの取れた食事や運動、マッサージなどで解消してあげたいですね。

ビタミンB12の詳しい作用については、こちらの記事をお読みください。→ドッグフードの栄養素「ビタミンB12」の働きと欠乏のリスクとは?

コバルトの欠乏はビタミンB12の欠乏に繋がる

コバルトの欠乏により、多くの家畜が命を落とした

コバルトは、1735年にはすでに発見されていた物質です。 しかし、ビタミンB12を構成する物質であることが明らかになったのは、発見から200年後の1935年になってからです。 この頃、カナダやオーストラリアにおいて、家畜たち(羊や牛)が筋萎縮や貧血に倒れ、相次いで死亡するという騒ぎが起こりました。 原因を探っていくと、家畜を飼育していた土地の土壌に、コバルトがわずかにしか含まれていないことが判明します。植物は土から栄養を吸い上げて育ちますから、コバルト不足の土壌に生えている牧草のコバルト含有量は当然少なくなります。 そのため、牧草を食糧としている家畜が充分なコバルトを摂取できず、ビタミンB12の欠乏症を起こし、命を落としてしまったのです。

コバルトの欠乏=ビタミンB12の欠乏

ビタミンB12はコバルトから合成されるため、コバルトの欠乏はビタミンB12の欠乏を意味します。 前述の通り、コバルトやビタミンB12は、毎日きちんと食事を摂っているワンちゃんであれば、不足する可能性はあまりありません。 人間では、徹底した菜食主義の人(ベジタリアン)(※7)にコバルト(ビタミンB12)不足がみられることがありますが、植物性食品だけを摂取しているワンちゃんはほとんどいないでしょう。 アレルギーなどで動物性食品が食べられない場合でも、アレルギー用の総合栄養食であれば、ワンちゃんが必要とする栄養素は全て含まれています。

※7 菜食主義者(ベジタリアン)・・・動物由来の食品を避け、穀物や野菜、豆類といった植物性食品のみを食べて生きるという思想を持つ人を意味します。とはいえ、菜食主義者にも色々なタイプの人がいます。動物性食品全般を徹底して口にしない人から、乳製品だけは食べる、牛乳と卵は食べる、家畜の肉は食べないが魚肉は食べるなど、その人の考え方によってさまざまです。

しかし、

  • 胃炎を起こしている
  • 胃を切除した
  • 小腸内に悪性腫瘍ができている
  • 小腸内に寄生虫がいる
  • 生まれつきビタミンB12の吸収が苦手な体質(ジャイアント・シュナウザーで確認されています)

などのワンちゃんの場合、ビタミンB12が充分に吸収できずに欠乏症を起こす可能性があります。

ビタミンB12が不足することによって起こる最も代表的な疾患は、巨赤芽球性貧血です。 前述の通り、ビタミンB12は赤芽球を分裂させ、赤血球を合成する働きを持ちます。 ビタミンB12が欠乏すると、赤血球になれずに巨大化した赤芽球が増加し、まともな赤血球が作られなくなるのです。

全身に酸素を運搬する役割を持つ赤血球が不足すると、ワンちゃんの体が酸欠状態となり、以下のような症状が現れます。

  • 少しの運動でも疲れやすくなる
  • 散歩に行きたがらなくなる
  • めまいを起こし、よろけることが増える
  • 動悸や息切れ
  • 寝ている時間が増える
  • 食べ物の味が分かりにくくなる
  • 消化不良により下痢を起こす

これらの症状は、鉄分が不足して起こる鉄欠乏性貧血でもみられますが、原因は全く違います。 鉄欠乏性貧血の場合には、鉄分を投与することで改善に向かいますが、巨赤芽球性貧血への対策はビタミンB12やコバルトの補給です(葉酸が欠乏している場合には葉酸を摂取します)。 そのため、貧血の患者に用いられる薬に硫酸コバルトが使用されていることもあります。

ビタミンB12の欠乏による症状は貧血だけではありません。 脱毛や、皮膚・舌・胃の炎症などがみられたり、ホモシステインというアミノ酸が増加し、動脈硬化を引き起こすリスクもあると指摘されています。 人間とは異なり、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)よりもHDLコレステロール(善玉コレステロール)の数が優位なワンちゃんたちは、もともと動脈硬化を起こしにくい動物です。 しかし、100%起こらないわけではありませんので、愛犬のコレステロールや中性脂肪の数値には、日頃から注意を払ってあげましょう。

特殊環境や実験によって確認された、硫酸コバルトによる健康被害

純粋なコバルトや、硫酸コバルトを始めとするコバルトの化合物(※8)を、特殊な環境下において大量に吸引することは、体に悪影響を及ぼすリスクがあります。 特殊な環境とは、ダイヤモンドの研磨(研磨機にコバルトが使用されています)やコバルトの製造を行う工場、ガラスの色付けの現場などです。 ワンちゃんがこうした状況下に置かれる可能性はほぼないでしょうし、工場で使われるほどの大量のコバルトがフードに添加されているわけでもありませんが、参考までにご紹介します。

※8 硫酸コバルト以外にも、塩化コバルトや酸化コバルト、硝酸コバルト、水酸化コバルトなど、コバルトの化合物にはさまざまな種類があります。

上記のような、慢性的に大量のコバルト類にさらされる環境下で働く作業員には、気管支炎や肺炎、喘息などの呼吸器障害が出ることが報告されています。 また、目や皮膚に対する刺激性も確認されています。

硫酸コバルトを13週間、マウスに吸い込ませるという実験が行われたこともありました。 その結果、発がん性がみられ、性周期も遅れたというデータが得られています。 さらに2年間に渡って吸入させた実験においても、硫酸コバルトに発がん性があることを示唆する結果が出ているのです。

犬に対する実験も行われており、体重1kg当たり20mgの塩化コバルト(コバルト化合物の一種です)を口から摂取させることにより、赤血球増多症が誘発されるというデータの報告もあります。 赤血球増多症は多血症とも呼ばれ、その名の通り、血液中の赤血球が異常に増えてしまう病気です。血液の粘性が高くなり、血がスムーズに流れなくなるため、血管が詰まりやすくなったり、高血圧の原因となります。

国際がん研究機関(IARC)では、硫酸コバルトは「人に対して発がん性を持つ可能性がある」というグループ2Bに分類されています。 国際がん研究機関は、さまざまな物質の発がん性についてのリスク調査やデータの公表を行っている専門機関です。 発がん性のリスク評価は、「その物質が(人間に対して)発がん性リスクを持つと判断できる根拠があるかないか」また、「根拠があるならば、その根拠がどの程度強いか」という指標に基づいて、5つのグループに分かれています。

硫酸コバルトが属するグループ2B(※9)は、

  • 人に対して発がん性リスクがあるといえるだけの明確な根拠はない(あるいは弱い)が、動物実験では明らかなデータが得られている
  • 人に対する発がん性を持つ証拠が限定的に確認されているものの、動物実験においては不充分な根拠(または証拠なし)しか得られていない

といういずれかの条件に当てはまる物質が分類される項目です。 動物実験において発がん性が確認されている硫酸コバルトは、前者の理由で分類されていると考えられます。

※9 硫酸コバルト以外でグループ2Bに分類されている物質には、鉛やコーヒー、漬物、ガソリン、クロロフォルムなど合計285種類があります。

まとめ
硫酸コバルト及び、硫酸コバルトから摂取できるミネラルであるコバルトについてみてきました。 コバルトはワンちゃんの体にとって必須のミネラルではありますが、しっかりとビタミンB12が摂取できていれば、あえて摂らなくても問題のない栄養素です。 現に、市販されているドッグフード(総合栄養食)の中には、コバルトも硫酸コバルトも含まれていない商品も多く存在します。 コバルトの「全ての作用が解明されているわけではない」という点や、発がん性の指摘などに不安を覚える飼い主さんもいらっしゃるのではないでしょうか。 その場合には、コバルト類を含まず、ビタミンB12の添加やたっぷりの肉類などによって栄養素が調整されたフードを選ぶようにするとよいでしょう。