ドッグフードの着色料「コチニール色素」の原料と犬に対する安全性

ドッグフードの着色料「コチニール色素」

皆さんは「コチニール色素」という名前の着色料をご存じでしょうか?

コチニール色素はハムやベーコン、キャンディーやアイスクリーム、カニかまぼこ、清涼飲料水、口紅や頬紅など、私たちの身の回りのさまざまなものに使用されています。 名前は意識したことがなくても、誰でも1度はコチニール色素を使用した何らかの製品に接した経験があるといっても過言ではないでしょう。

このコチニール色素はドッグフードにも頻繁に使用されている着色料です。 名前だけではどのような物質なのかいまいち想像がつきにくいコチニール色素ですが、犬の体に影響はないのでしょうか。さっそく見ていきましょう。

コチニールとはカイガラムシから取れた着色料

コチニール色素は、コチニールカイガラムシ(別名はエンジムシ)から抽出された赤色の天然由来色素です。食品や化粧品を赤やピンク色に染めるために用いられています。

コチニールカイガラムシとは「数百種類は存在する」といわれているカイガラムシの仲間で、ウチワサボテン属のサボテンに寄生する昆虫です。サボテンの樹液を栄養源として生きています。

世界中で使用されているコチニール色素の約80%以上が、ペルーの砂漠地帯で養殖されたコチニールカイガラムシから作られます。ペルーの他にもメキシコやスペイン、チリ、エクアドルなどでも生産されています。

コチニール色素の主成分は「カルミン酸」

コチニールカイガラムシはオスよりもメスのほうが倍近く大きな体をしており、メスの成虫では体長3mm程度が一般的です。そしてコチニール色素に特徴的な、赤い色素を持っているのもメスだけなのです。

オスとメスの姿を見比べていただくとわかりやすいのですが、オスには翅(昆虫の羽のこと)がありますが、メスにはありません。そのためメスは敵に襲われても飛んで逃げることができないのです。

そうした不利な環境から身を守るために、メスだけが体内に赤い色をした物質「カルミン酸」を蓄えます。 カイガラムシを捕食するアリは、カルミン酸の味が大の苦手なのです。

そしてこのカルミン酸こそがコチニール色素の主成分となります。

コチニール色素の抽出方法

次に、コチニール色素がどのように作られるのかをご説明します。

前述したように、赤い色素であるカルミン酸を体内に持つのはコチニールカイガラムシのメスだけですので、当然コチニール色素もメスのみを使って製造されます。 もともと体の大きなメスですが、産卵期ともなれば更に大きくなるため、この時期を見計らって採集します。 集めたコチニールカイガラムシを熱湯に入れてから乾燥させ、すり潰し、そのあとに加熱したエタノールや水を使って抽出されたものがコチニール色素です。

1kgのコチニール色素を作るには、なんと約14万匹ものコチニールカイガラムシが必要であるといわれています。

抽出するまでに手間もかかり、大量のカイガラムシが必要となることからも想像できますが、コチニール色素は石油由来のタール系色素と比較すると、売買価格も高めに設定されています。

コチニール色素の主成分はカルミン酸という物質ですので、パッケージに表示される際には「コチニール色素」の他、「カルミン酸色素」などと表示されていることもあります。名前だけを見るとまったくの別物のようですが、両者は同じものです。

カルミン酸はph濃度(アルカリ性や酸性の度合い)によって、赤や赤紫、オレンジ色などに変化します。光や熱に強く、変色することがないために、高温で調理するドッグフードや犬用のおやつの着色にも適しているのです。

ちなみにタイやインド、中国などの東南アジアで養殖された「ラックカイガラムシ」から作られる着色料はラック色素と呼ばれ、コチニール色素と同様に食品などに添加されています。 ラック色素はコチニール色素に比べて色の明度が低く、黄色味を帯びていることが特徴的です。

こうしたカイガラムシの仲間から採れる色素の歴史は古く、14~16世紀のルネサンス期には「ケルメスカイガラムシ」から作られた色素が高級染料ともてはやされ、毛織物を染めるために使用されていたこともあります。

コチニール色素の安全性

アレルギー発症の可能性がある

コチニール色素に含まれるタンパク質がアレルギーを誘発することがある

2012年5月、消費者庁から「コチニール色素使用の食品や化粧品により、アレルギー反応やアナフィラキシー症状を起こす可能性」があると発表されました。

もちろんこれは人間へ向けての発表ではありますが、犬であるからといって安心はできません。 小麦、大豆、乳製品、卵、肉類、魚類など、人間がアレルギー反応を起こす多くの食べ物によって、ワンちゃんたちも同じようにアレルギーを発症するのです。

アレルギーとは、本来体にとって害のない物質に対して免疫が過剰に攻撃してしまうことをいいます。 アレルギーを発症すると目、喉や皮膚の痒み、くしゃみ、鼻水、鼻詰まりなどの症状が出ます。花粉症でもおなじみの症状ですよね。

アナフィラキシーもアレルギーの一種です。アレルギーの発症後、急激に全身性の症状が出ることが特徴で、重篤な状態になるケースもあります。 アナフィラキシーでは皮膚のひどい痒みやじんましん、喘息のような咳や息苦しさ、目や唇の腫れなどの様々な症状がみられます。中でも呼吸器の粘膜が腫れることによる呼吸困難や、血圧低下による意識障害などが起きて命に関わる状態となることを、アナフィラキシーショックと呼びます。

実際の症例として、常日頃からコチニール色素への接触機会の多い人が色素を吸い込むことにより、鼻炎や喘息の症状が出た例が報告されています。 具体的には、化粧品や加工肉を製造するためにコチニール色素を扱っている人や、コチニールカイガラムシから色素を取り出す作業に就いていた人などが挙げられます。

仕事に従事してから発症までの期間は長いもので15年間、短いもので2~3ヶ月と差があります。その人の体質や、仕事内容によって扱うコチニール色素の量や濃度が異なるためにこうした大きな差が出てくるものと推測できます。

またコチニール色素を原因としたアレルギー患者には、化粧品をもっとも頻繁に使用する年代であろう20~50代の女性が多いことも指摘されています。

コチニール色素がアレルギーを起こす原因は色素そのものにあるわけではなく、僅かに含まれるカイガラムシのタンパク質だと考えられています。 多くの昆虫たちと同じように、コチニールカイガラムシも豊富なタンパク質から体が作られています。 色素を取り出す過程において完全には除去しきれなかったカイガラムシのタンパク質が、コチニール色素に含まれたままとなってしまうのです。

コチニール色素によるアレルギーが問題視されるようになってから、日本国内メーカーの企業努力により、アレルゲンとなるタンパク質の含有量を限りなく減らした、高純度のコチニール色素も開発されました。 しかし、そこまでアレルギーに配慮された高品質なコチニール色素を、どれだけのドッグフードのメーカーが利用するでしょうか。

プレミアムドッグフードなどと称される高価格帯のフードは、犬への安全性に配慮して原材料が吟味される傾向にあるため、着色料不使用で作られていることが一般的です。 ということは、アレルギー発症の危険性のあるコチニール色素で色付けをされている犬用フードのほとんどは「低価格帯の商品」だと言い換えることができるでしょう。 安い値段で売るのですから、原材料に対してもそこまでお金をかけることはできません。そうしたドッグフードに、低アレルゲンの高品質なコチニール色素が使われているとは考えにくいのです。

そもそも国産のドッグフードだからといって、原材料までもが全て国産だとも限りません。 日本では、ペットフードを最終的に加工した国名を原産国として表示するきまりとなっています。したがって、仮に原材料の全てが外国産だとしても、最終加工地が日本であれば「国産」と表示できてしまうのです。外国から輸入された粗悪な原料が使用されている可能性もおおいにあります。

コチニール色素よりもカルミンが危険

ここまで散々「コチニール色素にはアレルギーを発症する可能性がある」というお話をしてきましたが、実はアレルギーを起こしやすいのはコチニール色素よりも「カルミン」と呼ばれる着色料だという指摘があるのです。

「コチニール色素の主成分がカルミン酸でしょ?ふたつは同じものじゃないの?」と思われるかたも多いことでしょう。しかし、少しややこしいのですが、「カルミン」と「カルミン酸」には違いがあります。

コチニールカイガラムシから作られるコチニール色素の主成分は「カルミン酸」です。 このカルミン酸は、水に溶けやすいという特徴をもちます。そこでコチニール色素に含まれるカルミン酸だけを取り出し、アルミニウムと組み合わせることによって、液体に溶けない性質をもたせた着色料が作られました。この着色料のことを「カルミン」と呼びます。

カルミンはコチニール色素に比べて、含有するカルミン酸の濃度が高く、同時にタンパク質の濃度も高いという特徴があるのです。 タンパク質量が多いということは、必然的にアレルギー発症のリスクも上がるということを意味します。

カルミンは日本国内では主に化粧品などに使われており、食品への使用は認められていません。 しかし、日本とは安全基準が異なる外国においては、カルミンもコチニール色素と同様に食品へと添加されている可能性があります。人用の食品に使用可能ということは、当然ドッグフードへの使用も例外ではないでしょう。

結論としては、コチニール色素もカルミンも程度の差こそあるものの、犬がアレルギー反応を起こす危険性をもった物質であるということは間違いありません。 コチニール色素を使用した犬用フードを避けるのか、気にしないでワンちゃんに食べさせるのかは飼い主さんの判断にゆだねられています。 もしも、「少しでも健康リスクがあるのなら、排除するに越したことはない」と考えるのであれば、愛犬に与えるドッグフードやおやつを購入する際には、原材料表示をよく確認して選ぶことが大切です。

マウス実験において発ガン性は認められていない

コチニール色素の発ガン性については「コチニール色素を含有した餌を2年間マウスに与え続けても、ガンの発症はなかった」という実験報告がなされています。 このことより、2017年の時点では「コチニール色素に発ガン性は確認されていない」と結論付けられています。

しかし「マウスにコチニール色素の反復投与を行ったところ、僅かなヘモグロビン濃度の減少や、γ-GTP数値の上昇が確認された」という実験結果があります。

ヘモグロビンは赤血球内に存在する赤い色素で、酸素を全身に送り届ける役割があります。ヘモグロビン量が減ると、いわゆる貧血の状態になります。 一方γ-GTPはタンパク質を分解し合成する役割を持ち、肝機能の低下や胆管細胞が壊れることによって上昇しやすくなる数値です。

なぜコチニール色素の投与によってヘモグロビン量が低下したり、γ-GTPが活性化したのかを分析した資料は確認できませんでした。これは各数値の低下量や上昇量が僅かであったため、問題視されていないということも一因ではないかと推測できます。 したがってあまり有益な情報とはいえないのですが、「コチニール色素を使用したドッグフードを愛犬に与えてもよいのか」と迷われたとき、ひとつの判断材料とはなるのではないかと思い、参考までに記述しておきます。

2017年までに発表されている各種実験結果や症例を総合すると、「コチニール色素によってアレルギーを発症する可能性がある」という事実だけはハッキリとしています。

その他の安全性については、「世界中で広く使用されている着色料のため、安全性については充分に確認しつくされている」ともいわれていますが、発ガン性や遺伝子変異を疑問視する声がやまないことも確かです。 「未知の物質をも含んでいるかもしれない天然色素よりも、原料がわかっているタール系色素のほうが安心だ」という意見さえもあります。

まとめ
コチニール色素は10世紀ごろからアステカ人たちによって利用されてきた、古い歴史を持つ着色料です。 しかしいくら長い歴史があっても、それが必ずしも安全性の証明となるわけではありません。 2004年に発ガン性が確認され使用禁止となったアカネ色素という添加物があります。アカネ色素とはセイヨウアカネの根から抽出された天然の着色料で、禁止となるまではコチニール色素と同じようにハムやベーコンなどに添加されていました。 昨日までは「安全だ」「健康上の問題は確認されていない」といわれていたものが、今日になったら「健康被害を起こす危険性が判明しました」と回収されることも充分に考えられるのです。

ただでさえ、コチニール色素は重篤なアナフィラキシーをひき起こす可能性が指摘されています。 たまに少量を与えるのならばともかく、愛犬に漫然と食べさせ続けてもよい物質だということはできないでしょう。 なかでも、アレルギーを起こしやすいワンちゃんに与える際にはとくに注意が必要です。いままでは何ともなかったのに、ある日突然発症するのがアレルギーなのです。

そもそも犬は、キレイに着色されたドッグフードを見て「おいしそう」とは思いません。「色がキレイでおいしそうだから、このフードを買っていこう」と考えるのは人間です。 飼い主さんの購買意欲を煽るために健康被害の恐れのある色素を使用するというメーカー側の行為自体、疑問を持たざるを得ません。

犬の健康よりも売上げ重視の企業の思惑にはまらないよう、愛犬の健康にとって本当に益となるドッグフードとはどういったものなのかをしっかりと見極めることが重要です。