ドッグフードの原材料「イワシ」の栄養素と犬への与え方

ドッグフードの原材料「イワシ」

イワシ(いわし/鰯)は私たち日本人にとって、とても馴染み深い魚です。
あまりにも身近過ぎる食材であるために、イワシについて「健康に良い青魚というイメージはあるけれども、よくは知らない」という方も多いのではないでしょうか。
イワシには高血圧抑制効果のあるイワシペプチドを始め、カルシウムやビタミンB群、各種脂肪酸など、人間やワンちゃんの健康に役立つ栄養素が数多く含まれています。知れば知るほど魅力的な魚なのです。
ここではそんなイワシの健康効果や、犬に摂取させる場合の注意点、小骨や煮干しをワンちゃんに与えることについての考え方などについてご紹介していきたいと思います。

イワシの代表格はマイワシ

イワシ」の語源は諸説ありますが、一般的には「弱し」が転化したものであると考えられています。
イワシは身が非常に柔らかいため簡単に傷付きやすく、鮮度低下も早い魚です。
そのため水揚げ後にすぐに死んでしまうことから、弱い魚(弱し→イワシ)といわれるようになりました。
また安価なイワシは、高貴な人(貴族など)が食べる魚ではないとされており、「卑しい(いやしい)魚」という意味合いから派生したのではないかともいわれています。

ひと口に「イワシ」といってもその種類は多岐に渡ります。
オグロイワシやカタボシイワシ、カリフォルニアマイワシなど世界各地でさまざまなイワシの仲間が水揚げされています。
中でも日本でポピュラーなものは「マイワシ」と「ウルメイワシ」、「カタクチイワシ」の3種類です。

マイワシ(真鰯)
「真の鰯」という漢字が当てられている通り、単に「イワシ」といった場合には「マイワシ」のことを指すケースが大半です。
さまざまな種類がいるイワシの中でも代表格であるのがマイワシなのです。
下の写真のように、体の側面に7つ前後の黒い斑点があることが特徴で、東北地方や関東の市場では「ななつぼし(七つ星)」とも呼ばれています(斑点のない個体も存在します)。
ウルメイワシ(潤目鰯)
丸干しや目ざしとしてよく見かけるウルメイワシは、目が大きく潤んでいるように見えることから名付けられました。
カタクチイワシ(片口鰯)
カタクチイワシは下あごが小さく、上あごしかないように見えることから「片口」という名前が与えられたといわれています。 カタクチイワシといえば、煮干しやしらす干しとしてお馴染みの魚です。煮干しはカタクチイワシの稚魚や小型の成魚を、しらす干しは稚魚のみを用いて加工されます。

安くておいしいイワシは昔から庶民の味方として人気の魚ですが、豊漁と不漁の波が激しく、時に価格が高級魚並みに高騰することもあります。
漁獲量の変動は周期的に繰り返されており、気候変動によるエサの数の増減や人間の乱獲、天敵となる他の魚の数の変動などさまざまな理由が推測されていますが、ハッキリとした結論は出ていません。
日本でも以前に比べると漁獲量が減っており、アメリカからマイワシによく似たカリフォルニアマイワシを輸入して加工することが増えています。

イワシに含まれる栄養素

イワシペプチドが血圧の上昇を防ぐ

イワシには「イワシペプチド(サーディン(())ペプチド)」という、血圧上昇を抑える効果のある成分が含まれています。
心臓に不安を抱えるワンちゃんにとって、イワシを使ったフードは非常に適しているのです。

イワシペプチドとはその名前が表す通り、イワシの身に含まれるタンパク質を分解して得られるペプチドです。
アミノ酸が2つ以上繋がった状態のものを「ペプチド」といいますが、タンパク質そのものよりも体内に吸収されやすいというメリットがあります。

血圧が上昇する仕組みは、まず体内においてアンジオテンシン1という物質が、ACE酵素(アンジオテンシン変換酵素)によりアンジオテンシン2へと変化します。
アンジオテンシン2には心筋や血管を収縮させる作用があり、これによって血圧が上がるのです。
ここで活躍するのが、イワシペプチドに含まれるバリルチロシンという物質です。
バリルチロシンはアンジオテンシン1と結合して、ACE酵素から守る働きを持ちます。
これによりアンジオテンシン1がアンジオテンシン2へと変わりにくくなり、血圧上昇を防ぐことができるのです。

さらにイワシペプチドには血管拡張作用も認められており、ダブルの効果で高血圧を防いでくれることが期待されています。

※サーディン・・・英語で「イワシ」を意味します。

カルシウムとビタミンDの相乗効果が期待できる

イワシには、丈夫な骨や歯を作る豊富なカルシウムに加えて、ビタミンDも含まれています。
ビタミンDは小腸におけるカルシウムの吸収率を高めたり、カルシウムを骨まで運搬し、骨に沈着することをサポートします。

イワシをドッグフードに加工する際、ウェットフードには水分を含んだそのままの状態のものが、ドライフードには水分を飛ばして粉状に砕かれたイワシが使われることが一般的です。
この粉状のイワシは、「イワシミール」や「イワシ魚粉」と呼ばれます。
イワシは体が小さいため、身だけではなく内臓や骨もまるごと利用されます。そのため、カルシウム含有量も高くなるのです。

成長期の子犬や骨が弱くなるシニア期のワンちゃんはもちろん、成犬期のワンちゃんのしっかりとした骨格維持のためにも、カルシウムは重要な栄養素です。
イワシは全ての年齢層のワンちゃんの骨にとって、有用な食材なのです。

EPAやDHAが豊富

イワシは春にはエサを追いかけて北上し、秋から冬にかけて再び南下する性質を持った回遊魚です。
エサをたくさん食べて肥えた秋以降に捕れるイワシの方が、脂がよく乗っておいしいとされています。

イワシは他の魚よりも多くの脂肪分を持っています
例えばマイワシは100g当たり13.9gの脂質を含み、カロリーも217kcalと高めです。

以下にドッグフードによく利用される魚とマイワシの栄養素の比較表を載せました。

5種類の魚のうち、マイワシは脂質の多さは2番目ながら、カロリーは最も高い数値を示しています。
また、マイワシは「ニシン目ニシン科マイワシ属」に分類される魚です。
マイワシとニシンは体形がそっくりなのですが、これら3つの栄養素のバランスも似ていることが分かります。

マイワシとその他魚類の栄養素含有量比較
(可食部100g当たり)
カロリー(kcal) 脂質(g) タンパク質(g)
マイワシ 217 13.9 19.8
ニシン 216 15.1 17.4
138 4.5 22.5
メバチマグロ 108 1.2 22.8
タラ 77 0.2 17.6

高カロリーで脂質が多い食材は肥満のもととして敬遠されがちですが、イワシの脂質は健康に有益なEPA(エイコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)という脂肪酸の割合が非常に多いのです。

EPAには血中の悪玉コレステロール(LDLコレステロール)を減少させる作用があります。さらに血液が固まることを防ぎ、流れを良くしてくれます。
そのため血栓が作られにくくなり、高血圧や動脈硬化の予防にもなるのです。

DHAは血管などを柔らかく保つ働きを持ち、その結果、EPAと同じように血液が流れやすくなります。
また脳細胞を活性化し、記憶力や学習能力を正常に保つともいわれています。
DHAは網膜に含まれている成分でもあり、視力の改善や動体視力の向上にも効果的なのではないかと期待されているのです。

EPA、DHAともに、アレルギーによる炎症を抑える作用も認められています。
肉類に対してアレルギーを持つ犬用のフードには、イワシをメインのタンパク源としたものも多く存在します。
イワシをアレルギー対策用フードのベースとする主な目的は、アレルゲン(アレルギーを発症させる原因となる物質)となる肉類の代用です。
しかし抗炎症作用を持った脂肪酸がたっぷりと含まれたイワシを使うことにより、結果的にアレルギー体質のワンちゃんの体にとってさらに優しいフードとなっているのです。

これらの脂質を効率良く補うために、イワシの脂を使った魚油も作られています。
前述したイワシの魚粉(イワシミール)を作る際には、まずイワシを水分と固形分に分けます。
固形分はイワシミールとして利用され、水分からは遠心分離などによって脂が抽出されるのです。
これが魚油と呼ばれるもので、ドッグフードに添加されたり、そのままボトルに詰められ販売されています。

魚油にはEPAやDHAが凝縮されており、イワシをそのまま食べるよりも少量で摂取することができるのです。
日頃食べているドッグフードに垂らすだけもよいという使い勝手の良さも、人気を集める理由になっています。

ビタミンB群の含有量に優れる

ビタミンB2ビタミンB6ビタミンB12といったビタミンB群を多く含んでいることも、イワシの特徴のひとつです。
それぞれの健康効果を簡単にご紹介します。

ビタミンB2
3大栄養素と呼ばれる、炭水化物(糖質)、脂質、タンパク質を体内でエネルギーへと変えるために必須の成分です。
特に脂質が代謝される際にはビタミンB2が多く利用されることが分かっています。
普段から活発でエネルギー消費の多いワンちゃんほど、たくさんのビタミンB2を摂取する必要があるのです。
また皮膚や爪を丈夫にし、被毛に潤いを与える効果もあります。
ビタミンB6
魚や肉類から多くのタンパク質を摂取するワンちゃんたちにとって、非常に大切な栄養素です。
ビタミンB6は、食品に含まれているタンパク質をアミノ酸へと分解した後に、体に合ったタンパク質へと再合成する役割を持ちます。
脳内の神経伝達物質が合成される際にも働き、ワンちゃんの精神状態を良好に保つ作用も確認されています。
ビタミンB12
ビタミンB12の大きな役割は、葉酸と協力し合って赤血球を作り出すことです。
末梢神経の損傷を回復する効果もあり、認知症の予防や改善効果も期待されています。
さらに中枢神経に影響を与えることで、ワンちゃんの睡眠の質を向上させる作用もあるのです。
これらの幅広い働きから、ビタミンB12には「造血のビタミン」や「脳のビタミン」、「神経のビタミン」というさまざまな愛称が付けられています。

これらビタミンB群の詳しい情報については、こちらの記事をご参照ください。
 →ドッグフードの栄養素「ビタミンB2」の働きと欠乏の危険性
 →ドッグフードの栄養素「ビタミンB6」の働きについて知ろう
 →ドッグフードの栄養素「ビタミンB12」の働きと欠乏のリスクとは?

イワシを犬に与える際に気を付けたいこと

イワシの小骨は犬に与えてもよいか

イワシの骨は、鯛や鮭などに比べるとやわらかい部類に入ります。
そのため骨ごと与えても、大型犬やしっかりと噛んで食べる習慣のあるワンちゃんであれば、問題なく飲み込めることも多いでしょう。
心配なのは噛む力や飲み込む力が弱い子犬やシニア犬などです。
また、成犬でも歯が弱かったり、病気などから嚥下障害を起こしやすいケースもあるでしょう。
こうしたワンちゃんたちは、のどや食道に骨が刺さってしまう危険性があります。

イワシの骨に対する考え方は飼い主さんによって異なります。
小さい骨までしっかりと取り除く人、大き目の骨だけ取って小骨は与える人など、愛犬の状態に合わせてさまざまです。
とはいえワンちゃんの安全に万全を期すためには、やはり骨は取り除いたほうがよいでしょう。
イワシの骨を残すのであれば圧力鍋などでしっかりと火を通し、骨を完全にやわらかくしたり、ミンチ状に細かくすることをオススメします。

フードプロセッサーなどを使って粉々にしたイワシを丸め、つみれのスープを作る飼い主さんも多いようです。
イワシに含まれるイワシペプチドは、焼いてしまうと失われやすいといわれています。
また、ビタミンB群も水溶性のため、調理過程で水に流れ出しやすい栄養素です。
イワシのつみれをゆでてスープごとワンちゃんに与えることは、とても理にかなった方法なのです。

イエローファット(黄色脂肪症)に注意

イワシに多く含まれているEPAやDHAは高い健康効果を持ちますが、非常に酸化しやすいという欠点もあるのです。
ワンちゃんに酸化した脂質(過酸化脂質)を長期的に大量摂取させると、本来は白い色をしているはずの体内の脂肪が黄色く変化する「イエローファット(黄色脂肪症)」という病気にかかることがあります。

主にお腹や胸の脂肪が酸化をし黄色くなります。
ひどくなるとしこりができたり炎症を起こし、お腹を撫でられると嫌がるようになる、痛みで歩けなくなるといった症状が現れます。
命にかかわるリスクは低いものの、発熱などに繋がることもあり、ワンちゃんにとってはとても辛い病気です。

軽症のうちならば、原因となっている食材を断つことにより治癒する可能性もあります。
しかし時には抗炎症剤や、抗酸化作用を持つビタミンEの服用が必要となることもあります。

過酸化脂質はイエローファットの原因となるだけではなく、ワンちゃんの体内をサビ付かせ、ガンや高血圧、心臓病、老化の促進などの悪影響を及ぼすことも懸念されています。
そのため、可能な限り摂取させないようにすることが大切です。
イワシはなるべく新鮮な状態のものを購入し、早めに使い切ることを心がけましょう。

ドッグフードの原料となるイワシミールなども、もちろん酸化を起こしやすい素材です。
しかし加工時の加熱を最小限に留めたり、抗酸化剤を添加するなどして、各フードメーカーも酸化を抑える工夫をしています。
酸化しやすい魚を原料としたドッグフードには、ほとんど抗酸化物質が使われています。
その抗酸化剤にも種類があり、安全性の高いものと危険なものとに分かれていますので、しっかりと見分けるようにしましょう。
ビタミンCやミックストコフェロール(ビタミンE)、ローズマリー抽出物など、比較的安全性が高いとされている抗酸化剤が添加されたドッグフードを選ぶことが大切です。

エトキシキンBHT(ジブチルヒドロキシトルエン)、BHA(ブチルヒドロキシアニソール)といった抗酸化剤は、ワンちゃんの健康に関する悪影響が懸念されています。
エトキシキンは日本において、農薬や食品添加物としての利用が禁止されている物質です。
しかし限定的に、家畜や魚の飼料としての使用のみが許可されているのです。
エトキシキンにはガンや皮膚炎、異常行動、内臓機能の障害などを誘発する可能性があると、アメリカのFDA獣医医療センターが警告を発しています。

BHTには腎臓や肝臓の機能障害や奇形児の出生リスクなどが、BHAにはラットやハムスターの実験において発ガン性が確認されています。

ワンちゃんの健康を考えるのであれば、これら3つはいずれも避けたい抗酸化物質です。 エトキシキンとBHTの詳細に関しては、こちらの記事をご確認ください。
 →ドッグフードの酸化防止剤「エトキシキン」の危険性とは?
 →ドッグフードの酸化防止剤「BHT」の危険性

 

ヒスタミンによりアレルギー様症状を起こすことがある

イワシにはヒスチジンという成分が含まれています。
このヒスチジンは時間経過とともに増殖する細菌の働きによって、ヒスタミンへと姿を変えます。

ヒスタミンは肌や粘膜のかゆみや腫れ、嘔吐、下痢といったアレルギー症状を起こす物質です。
通常であれば体内にアレルゲンが入ってきた場合に放出されるのですが、ヒスタミンが増えた状態のイワシを摂取した場合には、直に体内に取り込むことになります。
したがって、食品にアレルギーを持っていないワンちゃんでも症状を起こす可能性があるということなのです。

ヒスタミンが大量に増殖したイワシをたとえ冷蔵したとしても、細菌のヒスタミン合成は止められないというデータも出ています。
また、一度作られてしまったヒスタミンは加熱しても簡単には壊れません。
ヒスタミン中毒から愛犬を守るためには、鮮度の落ちた魚は与えないことにつきます。
新鮮な魚を購入し、素早く冷蔵、なるべくであれば冷凍保存した方がよいでしょう。
冷凍と解凍を繰り返すことも、鮮度を落とす要因となるので要注意です。

煮干しの摂取は賛否両論

主にカタクチイワシが原料となっている煮干しは、ワンちゃん用のおやつとしても多くの種類が販売されています。
しかし煮干しを犬に与え過ぎると結石の原因になるともいわれているのです。

結石とは骨に似た組成を持つ石が、腎臓や膀胱、尿路などの各臓器の中で作られてしまった状態です。
結石ができるとワンちゃんによっては痛みを伴う場合もありますし(全く痛がらない子もいるようです)、排尿がしにくくなったり、臓器が傷付き出血するケースもあります。

煮干しにはカルシウムを始め、マグネシウムやリンなどの栄養素が凝縮されており、これらは結石の構成成分となるのです。
そのため、煮干しは絶対に与えてはいけないと考える方もいますし、たまに1~2本与える程度ならよいのではないかという方もいます。
愛犬に煮干しを与えるか否かに関しては、「必ずこうしなければいけない」というハッキリとした指標がなく、私たち飼い主の判断にゆだねられています。
もしも栄養素の補給のために煮干しを与えたい場合には、ワンちゃんの健康のため、添加物を使っておらず無塩と表記されているものを選ぶようにしましょう。

まとめ
イワシにはイワシペプチドやカルシウム、DHAやEPAなど、犬の体に必要な栄養素がタップリと含まれています。
肉類にアレルギーのあるワンちゃんも含め、若い子からシニアの子まで、多くのワンちゃんに積極的に食べさせたい魚です。
しかし脂肪酸の酸化や小骨、ヒスタミンなど注意すべき点の多い食材でもあります。
ワンちゃんに与える際にも「新鮮なものを使う」、「危険な骨は取り除く」など、人間が食べる時と同じように気を配ってあげることが大切です。