ドッグフードに硝酸カリウム(発色剤)を添加する目的と安全性

ドッグフードの発色剤「硝酸カリウム」

硝酸カリウム(硝酸K)は、ドッグフードの原料となる肉や魚の変色を防ぎ、食品をきれいに見せる発色効果や、食中毒予防の目的で利用されている添加物です。

ワンちゃんの主食となるドライフードやウェットフードなどへの使用頻度は高くありませんが、犬用ジャーキーのようなしっとり柔らかな食感のおやつに使われていることがあります。
また、私たちが口にする食品では、ハムやソーセージ、サラミ、ベーコン、ウインナーなどに添加されています。
パッケージの原材料欄には、「硝酸カリウム」の他、「発色剤(硝酸K)」などと表記されていることが一般的です。

硝酸カリウムは食品へ添加される以外にも、野菜の肥料や歯磨き粉の研磨剤、マッチの発火剤など、さまざまな目的でも使用されています。
このように、ワンちゃんも私たちも、知らず知らずのうちに硝酸カリウムを口にしたり利用したりしている可能性が高いのです。
私たちの身近な存在である硝酸カリウムの働きや危険性について、詳しく解説していきます。

硝酸カリウムの働き

硝酸カリウムは細菌によって還元されることで、亜硝酸ナトリウム(亜硝酸塩)という物質に変化します。
亜硝酸ナトリウムとなった硝酸カリウムは、以下のような作用を示します。

  • 肉や魚を使った食品の変色を防ぐ
  • ボツリヌス菌の繁殖を抑制する
  • 原料の臭みを消し、独特な風味をプラスする

ドッグフードを始めとした食品に硝酸カリウムを添加する目的は、主に上記の3つです。
ひとつずつ詳しくみていきましょう。

肉や魚を使った食品の変色を防ぐ

肉や魚には、ヘモグロビンミオグロビンといった、肉の赤さの源である成分が含まれています。

ヘモグロビンは赤血球の中に存在し、血液の色のもとともなる血色素です。
血液の流れに乗ってワンちゃんの全身を巡り、体の隅々にまで酸素を運ぶという重要な役割を持っています。

一方ミオグロビンは、筋肉の中で待機し、酸素を受け取り蓄える働きを持つ色素です。
運動中、体内に酸素が不足すると、ミオグロビンが自分の抱えている酸素を放出し、酸欠を防いで長時間動き続けることを可能にしてくれます。
魚の血合い肉(血合筋)は赤黒い色をしていますが、あの部分にはミオグロビンが大量に含まれているのです。

ヘモグロビンやミオグロビンには、体に吸収されやすいヘム鉄と呼ばれる種類の鉄分が多く含まれており、ワンちゃんの貧血予防には最適です。
しかし、時間の経過や加熱などによって鮮やかな赤色が黒ずみ、茶色がかった色へと変化してしまうというデメリットもあります。

当然この色の変化は、これらの色素を多く含んだ肉や魚を原料としたフードの色にも影響を及ぼします。
硝酸カリウムは亜硝酸ナトリウムに変化することにより、ヘモグロビンやミオグロビンを安定させ、酸化や熱に強くします
そのため、時間が経ってもフードのきれいな赤色が維持されるのです。
これは食材がもともと持っている赤みをキープしているだけであり、硝酸カリウム自体には食品への着色効果はありません

ワンちゃんの食欲の増進や減退に色が影響するという研究結果は現在のところ(2018年1月現在)ありませんが、人間は赤色を見ると自律神経が刺激され、食欲を掻き立てられるといわれています。
また、茶色っぽいフードよりも、鮮やかな赤やピンク色をしたフードの方が新鮮そうに見えるものです。
「無添加で自然なままの色をしたフードの方が、安心して愛犬に与えられる」という意見の飼い主さんも増えてはいますが、まだまだきれいな色をしたフードの売り上げが多いことが現状です。
そのため各ドッグフードメーカーでは硝酸カリウムや着色料などを使い、彩り豊かなフードを販売しているのです。

発色剤や着色料を使用したフードを見て、ワンちゃんたちは決して「おいしそう」とは思いません。
しかもこうした添加物には、犬の健康に及ぼすさまざまなリスクが指摘されています。
フードの見た目だけのために、本来は必要でない添加物を入れることは、メーカー側のコスト増大にも繋がり、フードの値段にも反映されます。
しかし、現代では見栄えに配慮されたカラフルな食べ物がもてはやされ、茶色などの素朴な色は「地味」、「まずそう」と避けられる傾向にあります。

日本人は「茶色」に馴染みが深いため、茶色い食品に対する嫌悪感や抵抗感が薄いといわれています。
確かに日本では昔から、味噌や醤油、蕎麦、ゴボウ、玄米など、茶色や黒い色をした食品がたくさん食べられてきました。
私たちが自然なままの食材の色を受け入れ、「素材そのものの色をした食品も悪くない」といった考え方がもっと広まれば、発色や着色目的のみでドッグフードへ添加物が使われるケースは更に減っていくことでしょう。

ボツリヌス菌の繁殖を抑制する

ボツリヌス菌は非常に強い毒性を持った、食中毒菌の代表格ともいえる細菌です。
硝酸カリウムが変化した亜硝酸ナトリウムには、このボツリヌス菌の増殖を強力に抑制する作用があります。

ボツリヌス菌は土壌中に広く分布している細菌であり、7種類もの型(A型~G型)に分類されています。
このうち、C型~E型の3種類が、人間以外の哺乳類に対して中毒症状を起こすといわれています(犬に限っては、C型のみで中毒症状が確認されています)。
ちなみに人間の食中毒の原因となるのはA・B・E・F型の4種類です。

芽胞(がほう)と呼ばれる頑丈な殻のようなものに守られた状態のボツリヌス菌は、たとえ100℃のお湯で加熱したとしても死滅させることはできません。
この芽胞がドッグフードの素材となる魚や肉類に付着し、フード内に混入したとします。
ボツリヌス菌は、酸素の少ない状況下で発芽するという性質を持つ嫌気性菌です。
すなわち、品質保存のためにしっかりと空気を抜かれて密閉されたフードパッケージは、ボツリヌス菌が発芽し毒素をまき散らすのにうってつけの環境なのです。

ドッグフード以外にはハチミツの摂取も、ワンちゃんへのボツリヌス菌の感染経路に挙げられます。
また、家庭で手作りされた瓶詰め食品などからも、ボツリヌス菌が検出されたケースもあります。

ワンちゃんがボツリヌス菌に感染すると、

  • 元気がなくなり、弱々しく鳴くようになる
  • 四肢に力が入らず、正常に歩けなくなる
  • 瞼を上げたり下ろしたりがうまくできなくなり、目の乾燥(ドライアイ)や傷による角膜炎、目やに、充血などがみられるようになる
  • (飼い主からは分からないが)物が二重に見えるようになる
  • のどや食道の力が弱まり、物が飲み込めなくなったり、よだれを垂らすことが増える

などといった症状がみられるようになります。 これらの症状はすべて、ボツリヌス菌が産生する神経毒素によってもたらされるものです。 最悪の場合には呼吸ができなくなって亡くなるケースもあるため、万が一愛犬にこうした症状がみられる場合には、早急に動物病院を受診することが大切です。

「こんなに恐ろしい菌が、そうそうドッグフードに入っているわけはないだろう」と思われる方も多いことでしょう。
しかし過去にはアメリカにおいて、ボツリヌス菌混入の可能性があるとして、ドッグフードが出荷停止となった事例が数回あるのです。
アメリカ産のドッグフードは、日本にも多くの種類が輸入されています。
また、たとえ日本国内で製造されたフードであったとしても、同様のことが起こらないという保障はどこにもありません。

自社製のドッグフードによって、ワンちゃんにボツリヌス菌中毒を出してしまうことは、フードメーカーにとっては信用にかかわる大事件です。
そのため、硝酸カリウムの危険性(硝酸カリウムには発がん性が指摘されています。「3.硝酸カリウムのもたらす発がん性について」で、詳しくご説明します。)に目をつぶってでも、ボツリヌス菌中毒を出してしまうよりはマシだという考えから、硝酸カリウムが使用されているという側面もあるのです。

原料の臭みを消し、独特な風味をプラスする

ハムやソーセージなどの加工肉は、ステーキや焼き肉など肉をそのまま食べた時とはまた違った、独特の風味を持ちます。
この風味はキュアリングフレーバーと呼ばれ、硝酸カリウムの変化した亜硝酸ナトリウムの作用によってもたらされるものです。
キュアリングフレーバーは、硝酸カリウムを添加した加工肉を4日から1週間以上しっかりと熟成させることによって生まれるという、手間暇のかかる香りです。
しかし、同時に肉類の獣臭いニオイも消えてしまうため、肉食性の強いワンちゃんたちにとってはこれは残念な働きであると考えられます。

また、硝酸カリウムには、脂質の酸化による加工肉の香りや味の劣化を抑制する作用も確認されています。
キュアリングフレーバーの生成、肉のニオイ消し、風味のキープといった効果は、加工肉をおいしくするためには欠かせない硝酸カリウムの作用です。
とはいえ、ワンちゃんにとって必要なのは、脂質の酸化抑制の働きくらいなものでしょうか。

このように、硝酸カリウムは亜硝酸ナトリウムへと変化することによって、発色や食中毒予防、風味の向上などの効果を表します。
そのため、硝酸カリウムと亜硝酸ナトリウムの働きには重なる部分が多いのですが、亜硝酸ナトリウムに関してはこちらの記事でも詳しくご説明しています。
ドッグフードに亜硝酸ナトリウム(発色剤)を添加する目的と安全性

硝酸カリウムのもたらす発がん性について

硝酸カリウムが還元された亜硝酸ナトリウムは、肉類や魚類に含まれるアミンと反応し合うことによって、強い発がん性を持った物質であるニトロソアミン類を生成します。
この反応は生体の胃の中で行われるため、ラットの実験においてはニトロソアミン類による胃がんの発症が確認されています。

硝酸カリウムはほうれん草や白菜などの野菜類にも多く含まれており、日本人は伝統的にこれらの摂取量が多い民族です。
このことが、日本人に胃がんを発症する人が多いことと関連があるのではないかともいわれています。
しかし2018年1月現在において、硝酸カリウムが人間や犬に対しても発がん性を持つどうか、ハッキリとは分かっていません。
あくまでも現時点では、「動物実験によって、硝酸カリウム(が変化した亜硝酸ナトリウム)に発がん性があることが確認されている」という事実があるのみです。

前述通り、野菜類には硝酸カリウムが多く含有されている傾向があります。
しかもその量は、食品添加物として摂取する量よりも遥かに多いともいわれているのです。

このことから、硝酸カリウムの安全性についてはふたつの意見がみられます。
ひとつには、

「人類は野菜類を長いこと食べてきたが、今の今まで野菜が健康に悪いといわれたことはない。
それどころか、発がん抑制作用や数々の健康効果まで指摘されている。
たっぷりと硝酸カリウムが含まれた野菜でさえ安全なのだから、微量の硝酸カリウムが添加された食品を摂取したくらいで健康被害が出るとは考えにくい」

というものです。

もうひとつは、

「野菜を摂取することによって、大量の硝酸カリウムが体内に取り込まれている。
そこに更に硝酸カリウムを添加した食品を摂取することは、それだけ亜硝酸ナトリウムも多く発生させるということである。
もしも硝酸カリウムに発がん性があるのだとしたら、これは危険な行為である」

という正反対の考え方です。

現段階において、野菜類に含まれる硝酸カリウムの何割が、体内で亜硝酸ナトリウムに変わるのかという具体的な数値は判明していません
亜硝酸ナトリウムは硝酸カリウムだけではなく、体の中に存在するアンモニアなど他の物質からも生成されます。
どの物質がどの程度亜硝酸ナトリウムに変化したかを測定することは困難なのです。
そのため、上記のふたつの意見のどちらが真実であるのかは、この先の研究や実験を通じて明らかになることが期待されています。

まとめ
硝酸カリウムの作用や毒性についてみてきました。
前述のように、硝酸カリウムが添加されたドッグフードはそれほど種類があるわけではありません。
そのため、硝酸カリウムが含まれたドッグフードを、少ないラインナップの中からあえて選ぶ必要はないでしょう。

とはいえ、硝酸カリウムが入っていないフードでも、亜硝酸ナトリウムが添加されている可能性は高いです。
硝酸カリウムが還元されて生まれる亜硝酸ナトリウムも添加物として利用されており、ドッグフードに対する使用頻度は硝酸カリウム以上です。

もしも硝酸カリウムや亜硝酸ナトリウムが使われているフードを愛犬に与える際には、ビタミンC(アスコルビン酸)を多く含んだ食材を一緒に摂取させることをおすすめします()。
ビタミンCは、亜硝酸ナトリウムの発色作用を促進し、亜硝酸ナトリウムを分解することに役立ちます。
そのため、フード内に残存する亜硝酸ナトリウムの量が減少し、ワンちゃんの摂取量が少なくて済むのです。

※ワンちゃんは、体内でビタミンCを作り出すことができます。しかし、さまざまな要因(病気やストレス過多、激しいスポーツなど)によって、体内で合成された量だけでは足りなくなることもあると考えられています。このような時には、食品などから補ってあげることが必要です。

硝酸カリウムのワンちゃんに対する危険性については、いまだベールに包まれています。
正体が分からないからこそ、私たち飼い主は余計に不安になるものです。
安全性に関する最新の情報には常にアンテナを張り、ビタミンCの力を借りつつ、硝酸カリウムの健康上のリスクにうまく対処していきましょう。