ドッグフードの原材料「チーズ」の種類と栄養素

ドッグフードの原材料「チーズ」

ミルクの匂いが強く、濃厚な味のチーズは、ワンちゃんが好みやすい食品のひとつです。
チーズを食べようと袋を開けたら、それを嗅ぎつけた愛犬が「自分も食べたい」とばかりに飛んできた、といった経験を持つ飼い主さんもいらっしゃるのではないでしょうか。
ワンちゃんも喜び栄養も豊富なチーズですが、「高脂肪高カロリーで太りやすいのでは?」と心配する声が多いことも事実です。
はたして実際のところはどうなのでしょうか。詳しく見ていくことにしましょう。

ナチュラルチーズとプロセスチーズの違い

日本においてチーズは、ナチュラルチーズプロセスチーズとに大別されます。
しかし、チーズに特別な拘りを持つ人以外は、食べる時に両者の違いを意識することは少ないのではないでしょうか。
そこでまず、ナチュラルチーズとプロセスチーズの違いを簡単にご説明します。

熟成具合によって味が変わるナチュラルチーズ

動物の乳に微生物を加えて発酵させたものをナチュラルチーズと呼びます。
それぞれに適した製法で作られた、「自然(ナチュラル)」のままのチーズです。
乳酸菌や酵母なども生きたまま含まれているため、製品化された後も熟成が進みます
熟成具合によって味が変化するため、好みの問題もありますが、ナチュラルチーズにはそれぞれに「最もおいしい」といわれる時期が存在します。

ヨーロッパでは1000種類を超えるナチュラルチーズが存在し、それぞれの味や香り、柔らかさ、形、サイズは千差万別です。
こうしたナチュラルチーズの個性は、製造方法や作られた土地の気候や環境、どのような微生物(乳酸菌や酵母、カビ菌など)を用いるかなどによって変化します。

また、搾乳する動物の種類も大きく関わってきます。
チーズは私たち日本人にとってなじみ深い牛乳を始め、ヤギやヒツジ、水牛、珍しいところではラクダなど、さまざまな動物の乳を用いて作られています。
それぞれの乳に含まれるタンパク質や脂肪分の量には違いがあり、それが味や食感に影響を及ぼすのです。
また、同じ牛乳を原料としていても、牛の品種や食べている餌によっても乳の成分量にバラつきが出ます。

このように、チーズは全てのものを同じ風味で統一することが難しく、ひとつひとつ微妙に異なった味わいを持つ食品であり、そこが魅力のひとつとして愛されています。

ナチュラルチーズにはパルメザンやモッツァレラ、カッテージ、カマンベールなど数多くの種類がありますが、日本で最もポピュラーなのはゴーダチーズとチェダーチーズです。
どちらもチーズ特有のクセが少なく、後述するプロセスチーズの原料としても広く用いられています。

日本人人気の高いゴーダチーズ

クセの少ないゴーダチーズは、チーズの独特な香りが苦手な人でも食べやすく、日本人からも人気の高いチーズです。
クセはなくてもうま味はしっかりとあり、熟成することでさらにコクのある味わいになります。
13世紀頃、オランダの南ホラント州にあるゴーダという地方で作られ始めたことから、「ゴーダチーズ」と呼ばれるようになりました。
ロウ(ワックス)を塗ることにより表面を保護し、チーズの急速な熟成を抑えて保存性を高めています。

世界で最も生産量の多いチェダーチーズ

イギリスを代表するチーズであり、世界で最も多く生産されているチーズとしても知られています。
ゴーダチーズと同じようにクセを気にすることなく食べることができ、幅広い料理に使用されます。
熟成すると酸味が強くなる点は好みが分かれるところではありますが、加熱することによってマイルドな味にすることが可能です。
イギリスのサマセット州チェダーで、15世紀頃より生産されています。

さまざまな味付けが可能なプロセスチーズ

プロセスチーズとは、その名の通り「加工(プロセス)」して作られるチーズです。
ナチュラルチーズと比べると、完成までに人の手も原材料も多く入っています。
プロセスチーズの主原料はナチュラルチーズです。
細かくしたナチュラルチーズを過熱して一旦溶かし、そこにクエン酸塩や縮合リン酸塩という乳化剤を加えてから色々な形に固め直すのです。

原料となるナチュラルチーズは一種類だけの場合もありますが、味を良くするために複数の種類をブレンドすることもあります。
必要に応じてフレーバーや着色料を加え、色々な味や見た目を持ったチーズが作れることが、プロセスチーズの利点です。
ガーリック、コショウ、アーモンドなどのナッツ類を入れたもの、チョコレートやフルーツ味のものなど、さまざまなプロセスチーズが存在します。
食パンのお供として人気のスライスチーズもプロセスチーズの一種です。

プロセスチーズは、加熱されることで発酵に使われていた微生物が死滅するため、熟成がストップし、長期間の保存が可能となります。
また、時間の経過による味の変化がなく、いつ食べても同じ味を楽しむことができるのです。

日本やアメリカでは生産量も多く親しまれているプロセスチーズですが、意外にもヨーロッパにはほとんど存在しません
前述通り、ナチュラルチーズだけでも多くの種類があるヨーロッパでは、チーズといえばナチュラルチーズを意味します。

チーズの栄養素

タンパク質と脂質が豊富

チーズは「白い肉」と形容されることもあるほどに、タンパク質を豊富に含んでいます
タンパク質は体内で、ペプチドやアミノ酸という小さな分子に分解されて吸収されます。
チーズのタンパク質は、発酵する中ですでに分解が始まっており、体内での処理が省けるため消化性に優れるといわれています。

また、活動量の多いワンちゃんにとっては大切なエネルギー源となる脂質も、25~30%程度含有されています。
とはいえ全てのチーズでタンパク質、脂質量は一定ではなく、チーズの種類や原料となる乳の種類によっても異なります。

乳の種類ごとのタンパク質と脂質量(g/100g)
搾乳した動物 タンパク質 脂質
3.0~3.5 3.5~4.0
水牛 4.5~6.0 6.0~8.0
ヤギ 3.5~4.0 3.5~4.5
5.0~8.0 4.5~6.0
ヤク 5.0~9.0 4.0~6.5

上記の表を見ると、牛やヤギと比較して、水牛、羊、ヤクの乳はタンパク質と脂質両方の含有量が高いことがわかります。
これらの栄養素は、動物の品種によっても異なります

牛を例に取ると、日本で最も飼育頭数が多く、白と黒のブチ柄が特徴のホルスタイン・フリーシアン種の乳はタンパク質と脂質量が少なく、チーズ向きではありません。
その分さっぱりとした味わいを持ち、そのまま飲むことに適しています。

反対にジャージー種やブラウンスイス種、ガンジー種などの牛乳は濃厚で、そのまま飲むよりもチーズやバター、ヨーグルトなどに加工することでおいしさが引き立つといわれています。

チーズのカルシウムについて

チーズはカルシウムの摂取に最適

丈夫な骨や歯の形成には不可欠なカルシウムは牛乳の代表的な栄養素ですが、チーズにもしっかりと受け継がれています。

100gのチーズを作るためには1000mlの牛乳が必要となることから、比較のために牛乳のみ1032g(100ml当たりの重量)当たりのカルシウム量を表示してみました。
カッテージチーズ以外は、いずれのチーズもカルシウムがしっかりと含まれていることが伺えます。
カッテージチーズは塩分や脂肪分が少なくヘルシーという長所がありますが、カルシウム補給目的ならば、乾燥して栄養素が凝縮されたその他のチーズを選ぶようにしましょう。

カルシウムが脂肪の吸収を防いでいる可能性がある

一般的に、チーズは脂肪分やカロリーが高く、太りやすい食品であるといわれています。
しかし、チーズなどの乳製品の摂取により体重が増加するという説に対する化学的な裏付けは、2017年11月現在までには確認されていません
まだ可能性の段階ではありますが、チーズが太る原因とならない理由には、カルシウムが関係しているのではないかと推測されています。

脂肪とカルシウムが合わさると複雑な化学反応を起こし、脂肪がエネルギーとして消費されやすくなるため、体への蓄積が抑えられる可能性があるといわれているのです。

また、食品として取り込まれた脂肪は胆汁によって小さな塊へと変化し、体内へと吸収されます。
しかし、脂肪と共に大量のカルシウムが存在すると、この変化が阻害され、結果的に吸収率が下がるとも考えられています。

体重の増加を心配して、チーズを愛犬にあげるのを避けていた飼い主さんには朗報ですが、与え過ぎはもちろんよくありません。
チーズは犬にとっては大のご馳走です。
ワンちゃんが喜ぶからといってチーズばかり与えていると、その味を覚えてしまい、普段の食事や他のおやつに口をつけなくなることも考えられます。
チーズはたまにのお楽しみとして与える、フードへの食い付きが悪い時のみ食欲増進目的でトッピングするといった程度に留めるのがよいでしょう。

ビタミン類も多く含まれる

チーズは、ビタミンCと鉄分、食物繊維以外の栄養素はほぼ網羅しているといわれる程に栄養価の高い食品です。
その中でも特にビタミンAとビタミンB2、ビタミンB12を豊富に含まれています。
それぞれの栄養素が健康に与える影響を簡単にご紹介します。

ビタミンA
喉や鼻、食道などの粘膜を丈夫にし、ウイルスや細菌の感染からワンちゃんをガードしてくれる栄養素です。
免疫力の維持効果や抗酸化作用も認められており、虚弱体質のワンちゃんや体力の落ちてきたシニア犬などには心強い味方となってくれます。風邪をひきやすくなる冬場には特に積極的に摂取したい成分です。
ビタミンAには、正常な視力や、暗闇に目がスムーズに慣れる機能を維持する働きもあります。
ビタミンB2
脂質を体内で分解しエネルギーを生み出す際に重要となるビタミンです。
ビタミンB2が十分に足りていると、脂肪がスムーズに燃焼されます。
前の項目で、チーズが肥満の原因とはならない理由にカルシウムの存在を挙げましたが、このビタミンB2の作用も関係しているのではないかといわれています。
ワンちゃんの皮膚や爪を丈夫にし、滑らかで艶のある被毛を保つにも大切な栄養素です。
ビタミンB2の不足は皮膚炎や不整脈の原因となり、子犬の場合には成長が停滞することもあるため、しっかりと摂取させることが大切です。
ビタミンB12
体内で酸素の運搬を司る赤血球の合成に欠かすことのできない栄養素がビタミンB12です。
赤血球はビタミンB12と葉酸が協力し合って作られるため、どちらかが欠乏しても貧血に繋がります。
ビタミンB12は末梢神経の修復作用も持ち、ワンちゃんにも悩んでいる子が多いといわれる肩こりや首こりの軽減にも役立ちます。

これら3種類の栄養素についての詳細は、以下の記事をご確認ください。
 →ドッグフードの栄養素「ビタミンA」の働きとは?過剰摂取に注意
 →ドッグフードの栄養素「ビタミンB2」の働きと欠乏の危険性
 →ドッグフードの栄養素「ビタミンB12」の働きと欠乏のリスクとは?

チーズは乳糖に弱い犬のお腹にも優しい

「ワンちゃんに牛乳をあげるとお腹を壊す」という話は、犬の飼い主さんであれば一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
個体差はありますが、ワンちゃんが牛乳を苦手とする傾向にあることは事実です。
しかしチーズであれば、問題なく食べられるケースが多いのです。

ワンちゃんは、牛乳の中に含まれる乳糖を分解する酵素「ラクターゼ」をあまり分泌できません。
お母さんのお乳を飲みながら育つ時期にはある程度分泌されますが、成長と共にその量は減少していきます

ラクターゼの分泌が少ないワンちゃんが牛乳を飲むと、分解されそこなった乳糖が腸の中に溜まります。
すると乳糖を好む腸内細菌が増えすぎてしまい、腹痛や下痢、お腹が張りコロコロと鳴る、オナラが頻繁に出るといった症状が出てくるのです。
これは乳糖不耐性と呼ばれ、私たち日本人の中にもこうした体質を持つ人が1割程度存在します。

しかしこの乳糖は、チーズの製造工程において、水分とともに排出されます。
チーズに残存する乳糖はわずかなため、食べても大丈夫なワンちゃんが多いのです。

例えば、牛乳100gには4.8gという乳糖が含まれていますが、そこから作られた10gのゴーダチーズの乳糖含有量は0.14gにまで減少します。
その量は、牛乳に含まれる乳糖のおよそ3%程度です。
チーズは、牛乳に不安を抱えるワンちゃんにも安心してあげることができる食品なのです。

とはいえ、乳糖をどの程度まで分解できるかは、犬の体質によって異なります。
チーズを初めて与える時には少なめの量から始め、体調に変化はないかよく観察してあげましょう。

犬の主食にもおやつにも頻繁に利用される

ワンちゃんでも問題なく食べられるうえに豊富な栄養素を持つチーズは、栄養強化はもちろんのこと、嗜好性アップの目的でもさまざまな犬用フードに使われています。
主食となるドッグフードでは、特に半生タイプやウェットフードにチーズを使用したものが多く確認できます。

チーズを使った犬用おやつも、プレーンなものからチキンやビーフ味のもの、サツマイモやホウレンソウなどと組み合わせたもの、ササミで巻いたものなど、実に多くの種類が販売されています。
形状もバラエティに富んでおり、細長いスティックタイプや小型犬の口に合いそうな小さなサイコロ状や丸形のもの、三角形にカットしたものなどさまざまです。
また、ドッグフードにトッピングできるように、ふりかけのように細かくしたチーズもあります。
チーズといえばしっとりとした質感が一般的ですが、フリーズドライ加工して乾燥させ、携帯性を高めたチーズなども売られていますので、用途に合わせて選びたいですね。

これらのチーズは原材料欄には「ナチュラルチーズ」と表記されていることもありますが、「原料にナチュラルチーズを使っていますよ」という意味であり、ナチュラルチーズがそのまま使われていることは多くありません。
大抵は人の手によって加工が施されたプロセスチーズとなります。

また、少し変わったおやつとして、ヒマラヤ山岳地帯で暮らすチベット系の民族の伝統的な保存食「チュルピ」をもとにしたチーズも、犬用のおやつとして売られています。
チュルピとは、ヤク()の乳にライム果汁などを合わせて作られる、骨のように硬いことが特徴のチーズです。
寒暖差が激しく、栽培できる植物も限られる厳しい環境の高地において、重要な保存食として古くから親しまれてきました。

このチュルピをワンちゃん用に商品化したものは各メーカーから発売されていますが、いずれもワンちゃんの歯でも噛み砕くには時間がかかり、非常に長持ちします。
歯磨きの代わりやストレス解消にも適しており、ワンちゃんの食いつきも抜群と飼い主さんたちからの評判も上々です。
ただしシニア犬や子犬、歯の悪いワンちゃんなどには硬すぎるため、避けたほうがよいでしょう。

※ヤク・・・標高3000m以上の高地に生息するウシ科の動物です。体長は2~3m程度で、寒さが厳しい気候にも耐えられるように、全身が黒く長い毛で覆われています。チベットの人々の生活と深い関りを持ち、騎乗や荷物運びに使われる他、肉や被毛、糞など捨てる部分なく利用されています。「ヤク」とは正式にはオスのみを指し、メスには「ディ」という呼び名が存在します。そのため厳密にいうならば、チュルピの原料は「ディの乳」となるのです。

犬との生活の中でチーズを使い分ける

他の食品と比べると味が濃厚で乳の匂いの強いチーズは、ワンちゃんの嗜好に非常にマッチした食品です。
そして、形や硬さもバラエティに富んでいます。
これを利用して、犬にまつわる色々なシーンでチーズを便利に活用することができます。
全てのワンちゃんに当てはまるわけではありませんが、チーズを前にすると目の色を変えて喜ぶ子には、ぜひ試してみてください。

投薬にはオーソドックスなチーズを
「薬を飲ませなければいけないのに、愛犬が嫌がって飲んでくれない」という悩みを抱えている飼い主さんは多いことでしょう。
その独特なニオイや苦味から、薬を警戒するワンちゃんは多いです。
食べ物にくるんでも薬だけ器用に吐き出してしまったり、いつものフードに混ぜても食べてくれなかったりと、ワンちゃんへの投薬には苦労が付きまといます。

そんな時に便利なのがチーズです。
チーズは薬に負けないほど強烈な味と匂いを持つため、薬臭さをごまかしてくれます。

キューブ状や丸形のチーズの中に薬を埋め込み、ワンちゃんに与えてみてください。
喜んでペロリと食べてくれるでしょう。

ペースト状のチーズはお留守番時に
お留守番が苦手な寂しがり屋のワンちゃんは、飼い主さんの外出を察すると吠えたり噛んだりして何とか阻止しようと必死になる子もいます。

チューブに入ったペースト状のチーズであれば、しつけ用の知育おもちゃの中に塗りつけて長時間噛ませることが可能です。
チーズを入れたおもちゃを与え、ワンちゃんが夢中で舐めている間に出かけてしまうことで、お留守番にスムーズに移行することができる可能性があります。
知育おもちゃの複雑な構造のお陰で食べ終わるのにも時間がかかり、お留守番中にワンちゃんが寂しさを感じる時間も少なくて済むでしょう。

散歩中のトレーニングには乾燥タイプ
信号を待たせる、飼い主さんを引っ張らずに落ち着いて歩かせるといった、散歩中のトレーニング時にはフリーズドライのチーズがおすすめです。

屋外はさまざまな匂いや音、車、人や動物などで溢れ、ワンちゃんの注意力を妨げやすい環境です。
そうした時にはチーズを与えることで、ワンちゃんの気をひき、トレーニングに集中させやすくすることができます。

乾燥させたチーズなら、ポケットやポーチなどにも入れやすく、飼い主さんの手が汚れる心配もありません。
もともと小さなサイズに加工されていることが多いため、繰り返しご褒美をあげたい場合にも便利です。

ただし、いくら好きな食べ物でも、頻繁にもらっていてはありがたみが薄れてしまいます。
普段は別のおやつを与え、散歩中など特に愛犬に集中してほしい時にのみチーズを使うというように、メリハリをつけて与えることが大切です。

まとめ
栄養も豊富で嗜好性の高いチーズは、愛犬の健康にもしつけにも嬉しい効果が期待できる食材ですが、牛乳に対するアレルギーを持つワンちゃんは、チーズでも症状が出るリスクがあるため注意が必要です。
また、人間用のチーズは塩分が強いため、犬用に作られた商品を利用するようにしましょう。
愛犬の体質と使いどころを見極めて、生活の中で上手にチーズを取り入れてみてください。