歯垢・歯石の付着を防ぐドッグフードの選び方と注意点

犬のデンタルケアの基礎知識

私たち人間は毎日歯磨きをしますが、わんちゃんはどうでしょうか。
動物に歯磨き、というとあまり馴染みがないかもしれませんが、実は犬にとっても毎日の歯磨きは非常に大切なのです。
かつては「犬は虫歯にならない」「デンタルケアは必要ない」などとされてきましたが、そんなことはありません。

確かに犬は、人間と比較すると虫歯にはなりにくいです。
犬の口内はアルカリ性ですが、虫歯菌は酸性下で糖をつくるため、アルカリ性である犬の口内では増殖しにくいのです。
(逆に人間の口内は弱酸性ですので、犬と違い虫歯になりやすいです。)

しかし犬も人間と同様に、ものを食べれば歯が汚れ、歯間には食べかすがたまっていきます。
犬の場合は虫歯になりにくい反面、歯垢が歯石に変化しやすいという特徴を持っています。
たかがデンタルケア、と軽く見てそのまま放置していると、重症化して思わぬ病気を引き起こす可能性があるのです。
飼い主さんが正しい知識を持ち、しっかりと予防してあげるようにしましょう。

歯垢・歯石とは

そもそも「歯石」や「歯垢」とはどのようなものでしょうか。
歯医者によく行く人はなんとなく耳にすることもあるかもしれませんが、違いを正確に説明することのできる人は少ないのではないでしょうか。

それぞれの定義・特徴は以下の通りです。

歯垢
食べかすや歯の垢ではなく、「細菌と代謝物の塊」です。
別名「プラーク」とも呼ばれますが、こちらのほうが聞き馴染みがあるかもしれません。
歯の表面をひっかくと白色または黄色のねばねばしたものが付きますが、これが歯垢です。
唾液などのネバネバによって歯にくっつき、どんどん増殖していきます。
これを放置すると、虫歯の原因になってしまいます。
この段階では歯磨きで除去することが可能なので、毎日しっかりと歯磨きをしてあげることが大切です。
歯石
歯垢が固まった(石灰化した)ものです。
非常に固く、歯石になってしまうと歯磨きで取り除くことができなくなってしまいます
歯垢を放置しておくと、個体によってはたった2~3日で歯石になってしまうと言いますから、早急なケアが必要になることがわかります。

歯石がたまると…

歯垢が固まると歯石になりますが、その歯石がたまったまま放置してしまうと、どのような弊害が発生するのでしょうか。

歯石を放置した口内は、決して衛生的とはいえません。
そのままにしていると歯周病や口内炎などのトラブルを引き起こしてしまいます。
口内に疾患があると噛む力が弱くなるため、頻繁にフードを丸呑みしてしまったり、食欲が低下したりします。

また、口内の問題のみにとどまらず、心臓や腎臓などの臓器に重篤な健康被害をもたらす可能性もあります。
歯石を放置しておくと、歯石中の細菌が歯ぐきから体内に入り込み、そのまま血液に乗って臓器に侵入します。
臓器に侵入した細菌により、心臓や腎臓に大きなダメージが与えられ、場合によっては命に関わる可能性もゼロではありません。

先述した通り、歯石になってしまうと歯磨きでは取り除くことができないので、歯石を除去するためには動物病院を受診する必要があります。
歯石の付着具合がひどい場合は、全身麻酔による手術が行われることもあり、わんちゃんの身体に負担をかけてしまいます。
日頃からデンタルケアを心がけて、こういった事態を防げるようにしましょう。
食後にガーゼなどで歯を拭いてあげるだけでも、だいぶ違います。

体調改善のためのドッグフード(歯垢・歯石)の特徴

歯石予防に関しては日々の歯磨きが最も効果的ですが、食事からある程度改善することは可能です。
歯にトラブルを持つワンちゃんは多いようで、歯石が付きにくいフードや歯磨きガムなど、食べることで歯石付着を予防できる商品には、様々なラインナップがあります。
特に、子犬のうちに歯磨きに慣れさせなかった子は、いざ歯磨きをしようとしても激しく抵抗することもありますので、食事によってケアができるというのは朗報なのではないでしょうか。

しかし100%歯石を除去・予防できるわけではないので、歯磨きも並行して行うことが大切です。

日々の食事(総合栄養食)から改善する

ドライフード(総合栄養食)の中には、「歯石予防のためのフード」があります。
丸呑みしやすい犬でもしっかりと噛めるような特殊な形状をしていたり、抗菌化成分などの、歯に良いとされる成分が含まれているドッグフードです。
毎日の食事からデンタルケアができるというのは、とても手軽で効率的なことだと思います。

しかし、中にはパッケージに漠然と「歯によい」と書かれているだけで、具体的に何が良いのか、どのように予防するのかをきちんと表記していない商品も存在します。
フードの売り上げを伸ばすために、明確な効果を提示しないままデンタルケアを謳った商品も、残念ながらあるようです。

それでは、フードによるデンタルケアはどのようなメカニズムで行われ、どのような商品が歯垢除去に効果的なのでしょうか。

まず、以下の4点を満たしていることが条件となります。

  • 適度な固さがあること(歯垢より固く、歯よりも柔らかい)
  • 丸呑みをしない、適度な大きさであること(咀嚼と唾液分泌を促すため)
  • 歯の表面との接触面積が大きいもの
  • 歯の表面との十分な接触時間の保てるもの

「適度な固さ」が求められる理由としては、歯垢除去は「歯と噛んだものがこすれることで、歯垢を削る」というメカニズムにあります。
それなりの固さがなければ、歯垢が削られる前にフードが砕けてしまうのです。

しかしかといって、固ければいいというものではありません。
デンタルケアを謳った固すぎる商品を口にして、わんちゃんの歯が折れてしまったという事例は少なからず存在するようです。
あまりに固すぎるものだと、歯が折れてしまうこともあるのです。

歯の健康のために歯垢予防用のドッグフードを与えていたのに、それによって逆に歯を悪くしてしまっては、意味がありませんよね。
やはり、歯が折れない程度の「適度な硬さ」はデンタルケアに必要不可欠であるといえるでしょう。

また、デンタルケア商品は噛むことで効果を発揮しますので、丸呑みしてしまうほど小さな粒ものは適していません。
歯石予防用のドッグフードを購入した際は、まずはわんちゃんがしっかりと噛めているか、よく観察してあげるようにしましょう。

デンタルガムなどを与える

ペットショップなどでよく見かけるデンタルガムも、歯垢予防に効果的なツールです。
時間を忘れて噛むことに夢中になるワンちゃんも多いですし、ご褒美のおやつとして活用することもできます。

総合栄養食をデンタルケア用フードに切り替える場合は、胃腸に負担をかけないように時間をかけてゆっくりと切り替えてあげる必要があります。
しかしこれらは、特に切り替えの準備を行う必要もなくすぐにワンちゃんに与えることができます。
主食ではないので一日にそう多くは与えられませんが、主食でないからこそ手軽に与えられるというメリットがあるのです。

しかし、ごくまれにガムを丸呑みしてワンちゃんが窒息死してしまう事故も報告されていますので、ガムを与える際は目を離さないようにしましょう。

また、ガムの中には「歯に良いもの」としてキシリトールが配合されている商品も存在します。
ところが、キシリトールは犬にとって有害な物質です。
キシリトールの含まれる食べ物を犬が口にした場合、低血糖症状を引き起こし、場合によっては死亡してしまう恐れがあります。
(キシリトールガム1~2枚で、致死量になりうることもあります。)
研究が進み、犬にとってキシリトールが有害であることが知られてきましたが、それでも未だキシリトールを含む犬用ガムを販売しているメーカーもあります。
パッケージにキシリトールの文字がある商品を目にしたら、購入は見送るようにしましょう。

フードによる予防の限界

ドッグフードや歯磨きガムで歯垢除去ができるというのは心強いですが、決して万能ではありません。
歯磨きガムを与えているからうちの子は安心…なんてことはなく、フードによるデンタルケアには限界があります。

理由として、ガムや歯石予防フードを噛む際に使用する歯はごく一部ですので、すべての歯の部分に効果があるわけではないということが挙げられます。
柔らかいウェットフードなどを口にしていれば、食べかすや歯垢が広範囲に渡って付着してしまうことは十分に考えられます。
そうなれば一部の歯が清潔でも、磨けていない部分に歯石がたまってしまいます。
特に根元の部分は歯肉炎を引き起こしやすい場所ですが、肝心の根本付近の歯は噛むときにはあまり使用しないのです。

そして犬は食事の際に「しっかり噛む」という習性を持っていないため、食べ物は基本的に丸呑みです。
噛んだ部分には歯石予防効果を発揮するかもしれませんが、それは一部であることを念頭に置いておくようにしましょう。

くどいようですが、わんちゃんにとってのデンタルケアは飼い主さんによる歯磨きが最も効果的です。
デンタルケア用フードを過信せず、「歯磨きのサポート的存在」という認識でうまく活用していきましょう。

注意

※この記事の内容は、様々な「デンタルケア用ドッグフード」の銘柄の特徴をまとめたものです。
商品によって特徴は多少異なりますので、すべての皮膚病用フードに上記の特徴が当てはまるわけではありません。