ドッグフードの栄養素「イノシトール」の働きを解説

ドッグフード栄養添加物「イノシトール」

イノシトールは、ビタミンB群と同様の働きを持つ、ビタミン様物質と呼ばれる栄養素です。
子犬の健やかな成長に欠かすことができない栄養素である他、ワンちゃんの被毛や脳のコンディションの維持、脂肪燃焼の促進効果などを持つ、全ての年代のワンちゃんにとっても大切な成分であるイノシトールについてご紹介します。

ビタミンBと同様の働きを持つ炭水化物である

イノシトールは、動物(哺乳類)の筋肉から見つかった物質であり、発見当初はビタミンB群の一種(ビタミンB8)であると考えられていました。
しかし、ほとんどの動物の体内で合成できるということが判明したため、2018年2月現在ではビタミン様物質に分類されています(※1)。

イノシトールは、炭水化物(糖アルコール)の一種であり、食品の栄養強化を目的とした添加物として利用されています。
栄養添加物としてのイノシトールは、無臭の白い粉末であり、食べた後にしつこい味が残らない、さわやかな甘みを持つことが特徴です。
イノシトールの甘さは砂糖の二分の一程度であるといわれ、食品に甘みを付けるためにも用いられることがあります。

※1 ビタミン様物質・・・一般的に「ビタミン」と呼ばれる栄養素は、生物の生命維持に不可欠な存在ではあるものの、体内で作り出せない、もしくは合成可能量が著しく少量であり、必要量に満たないため、食べ物などからの摂取が必要な有機化合物のことを指します。
イノシトールは、動物の体内でグルコース(ブドウ糖)やガラクトース、キシロースなどの糖を原料として、腸内細菌などによって合成されます。
したがって、このビタミンの定義には当てはまりません(ただし魚類にとっては、食事からの摂取が必要なビタミンであるといわれています)。
ビタミンと似た働きをするものの体内で賄うことができ、通常であれば欠乏の心配がないイノシトールのような栄養素を、ビタミン様物質と呼びます。

市販されている多くのドッグフードには、栄養素の補強を目的として、イノシトールが添加されています。
また、ワンちゃんの主食だけではなく、卵ボーロなどのお菓子類、歯磨きガム、サプリメント(いずれもワンちゃん用のもの)などに幅広く使用されています。
イノシトールは子犬の正常な発育にも必要な栄養素であるため、母乳にも多く含まれている栄養素です。
そのため、さまざまな事情から母犬のお乳を飲むことができない子犬たちに向けて作られた粉ミルクにも含まれています。

犬の体内におけるイノシトールの働き

皮膚や被毛の健康を維持する

イノシトールには、構造の異なる9種類の異性体があります。
その中のひとつであるミオイノシトールは、9つの中で唯一、動物の体の中で働くことが可能だと確認されている栄養素です。
このことから、ただ単に「イノシトール」という場合には、「ミオイノシトール」を指すことが一般的です。

ミオイノシトールの「ミオ」とは、英語の医学用語で「筋肉」を表します。
その名の通り(ミオ)イノシトールは、動物の体の中では特に筋肉や神経細胞に多く含まれていることで有名です。
特に、ミエリン鞘(みえりんしょう)や髄鞘(ずいしょう)と呼ばれる、神経伝達を行う繊維の周囲を覆う鞘状の物質の構成成分として知られています。

またイノシトールは、細胞膜を構成するリン脂質の原料ともなります。
イノシトールから作られるリン脂質は、神経が速やかに情報のやり取りをするために必要です。
リン脂質の働きによって、被毛の成長や発毛に関する指令の伝達もスムーズに行われます。
この働きが、ワンちゃんの抜け毛を抑え、生き生きとした美しい被毛を保つことに繋がるのです。

さらにイノシトールは、パントテン酸やナイアシン、コリン、ヒスチジンといった栄養素と協力して、セラミドを作り出す働きも持ちます。
セラミドは皮膚細胞のすき間を埋める細胞間脂質と呼ばれ、皮膚を構成する重要な物質です。
主に、皮膚を外部刺激から保護する役割を担います。
セラミドに守られていない皮膚は、水分が蒸発しやすくなったり、アレルゲン(アレルギー症状を誘発する物質を表すドイツ語です)に対する防御力が低下してしまいます。

皮膚の水分量低下は、肌のカサつきやアトピー性皮膚炎の悪化を招くリスクもあります。
特にアトピー性皮膚炎は痒みが強いことが特徴です。
私たち人間でも、皮膚に激しい痒みが起こった時には、「掻いてははいけない」と分かっていてもついつい掻きむしってしまうものです。
皮膚を掻くと余計に痒みが悪化する、ひどい場合には出血したり、跡が残ってしまうなどといったリスクが分からないワンちゃんたちは、なおさら我慢することはありません。
飼い主さんが止めても、目を離した隙に掻いてしまうことでしょう。
常に注意をしていなければいけない飼い主さんも大変ですが、ワンちゃんにとっても非常に苦痛なことです。
こうした事態を避けるためにも、上に挙げたイノシトールを始めとする栄養素をバランス良く摂取させ、皮膚のコンディションを維持してあげることが大切です。

脂肪肝の抑制、便秘解消にも役立つ

イノシトールには、皮膚や被毛を健康に保つ働き以外にも、以下のようなさまざまな作用が認められています。

  • 脂肪の代謝を促進し、肝臓へ余分な脂肪が蓄積することを抑制する。その結果、脂肪肝や動脈硬化を防ぐ(抗脂肪肝ビタミンと呼ばれることもある)。
  • 腸の収縮性を高めて、便通をスムーズにする。
  • 脳の働きを良好に保つ。
  • 人間においては、パニック障害やうつ病、PTSD(心的外傷後ストレス障害)、強迫性障害などの症状をやわらげる作用があるといわれている。

以上のことからイノシトールは、体脂肪や肝臓の働きに心配のあるワンちゃんや、便秘がちのワンちゃんの健康管理にも嬉しい成分であることが分かります。
また、不安感などを静め、ワンちゃんが心穏やかに毎日をすごすためにも役立つ可能性があるのです。

ちなみに、ワンちゃんの脳の働きをアップさせるには、イノシトールと同時にコリンを摂取させると、更なる効果が期待できるといわています。
コリンは、アセチルコリンという神経伝達物質のもととなる栄養素です。
アセチルコリンは、筋肉の収縮や自律神経・中枢神経の調節を司る物質でもありますが、正常な学習能力や記憶力を保つためにも必要であるといわれているのです。
コリンは、各種レバーやラム肉、卵黄などに豊富に含まれています。

コリンについては、こちらの「塩化コリン」の記事の中で詳しくご説明しています。
→f2(12)ドッグフードの栄養添加物(塩化コリン)

イノシトールの過剰と欠乏の可能性

体内で合成されるため、欠乏するリスクは低い

前述通り、イノシトールはワンちゃんの体内でグルコースやガラクトースなどから作り出すことが可能な栄養素です。
また、総合栄養食※2)と表示のあるドッグフードであれば、イノシトールが大量に消費された場合に備えて、きちんと摂取できるように栄養設計がなされています。
そのため、しっかりと毎日の食事が摂れているワンちゃんであれば、欠乏を心配する必要はそれほどないでしょう。

※2 総合栄養食・・・そのフードを毎日適正量摂取していれば、あとは水を与えるだけで、ワンちゃんが生きていくうえで必要な栄養素が賄えるように調整されたフードを意味しています。

ただし、イノシトールが不足しやすい状況もいくつか存在します。 イノシトールが不足する(=消費量が増える)リスクが高まる状況には、

  • 長期に渡る高脂肪食の摂取
  • 激しい運動
  • カフェインを含む飲料(コーヒーやお茶など)の大量摂取
  • アルコール類の過剰摂取

などが挙げれらます。
この中でワンちゃんに関係するのは、高脂肪食と過剰な運動でしょう。
体内でも作ることが可能なイノシトールが、実際に不足した事例はあまりありません。
しかし実験においては、マウスの脱毛や、ラットの眼の周りの皮膚の異常などが確認されています。
また、脂肪の代謝能力が落ちることによって肝臓に脂肪が付き、肝機能の低下が起こる確率が上昇する可能性もあるといわれています。

ただし、イノシトールの作用(脂質の代謝促進など)は、他のビタミン類などでも同様の働きをするものが存在します。
そのため、イノシトールが多少不足しても、すぐさま重篤な症状には繋がらないであろうと考えられています。

カフェインやアルコールは、ワンちゃんの体には害となります。
コーヒーやお酒はもちろんのこと、私たちにとっては健康的なイメージの強いお茶も、ワンちゃんが摂取するとカフェイン中毒を起こす可能性があるといわれているため、誤飲させることのないように注意しましょう。

過剰症は、軽度の胃腸障害が確認されている

イノシトールは水に溶けやすい性質(水溶性)を持つため、体に貯めておくことが難しく、尿と一緒に排出されやすい栄養素です。
そのため、過剰摂取による害は出にくいといわれています。
人間での事例ですが、1日当たり12gという大量のイノシトールを服用した際に、吐き気や下痢、オナラの増加などがみられたというデータがあります。
しかしいずれの症状も軽く、命に係わるような事態には繋がりにくいといわれています。

イノシトールを多く含む食品

総合栄養食であるドッグフードには、きちんと含まれているイノシトールですが、愛犬に手作り食を与えているご家庭もあることでしょう。
下の表は、各食品のイノシトール含有量を比較したものです。
いずれもワンちゃんに与えても問題のない食材です。手作りフードの献立の参考にご利用ください。

野菜の中では特に、グリーンピースのイノシトール含有量が高いことが分かります。
グリーンピースは、ビタミンB1や不溶性食物繊維、必須アミノ酸のリジンなど、イノシトール以外の栄養素も豊富です。
しかしカロリーが高めであり、ワンちゃんにとっては、種子の周りの薄皮の消化も簡単ではありません。
グリーンピースを与える際には、フードの色どり程度に1日数粒を上限とし、薄皮を除き細かく潰すなどしてから与えるようにしましょう。

グリーンピースの詳細についてはこちらの記事をご覧ください。
ドッグフードの原材料「グリーンピース」の栄養素と犬への与え方

これらの食品の他には、玄米や小麦胚芽などの穀類にも、イノシトールは多く含まれています。

まとめ
イノシトールの作用、過剰症と欠乏症の可能性、多く含む食材などについてご紹介しました。
イノシトールはワンちゃんの被毛の状態や頭の働きから、体脂肪のコントロールなど、さまざまな面に良い影響を与えてくれる栄養素です。
サツマイモやレバーなど、ワンちゃんが喜ぶ食材にも豊富に含まれているため、トッピングや手作りフードに使用することで、愛犬の食欲をアップさせる効果も期待できます。
これらの食材をうまく使って、毎日の食事から無理なくイノシトールを補ってあげましょう。