ドッグフードの着色料「赤色102号」の用途と犬に対する安全性

ドッグフードの着色料「赤色102号(ニューコクシン)」

ドッグフードやワンちゃん用のおやつを鮮やかに彩る着色料には、多くの種類が存在します。
今回は、さまざまな色を持つ着色料の中でも、パッと目をひく赤い色を付ける目的で使用される赤色102号(ニューコクシン)の概要や、安全性などについて解説していきたいと思います。

赤色102号は食品から化粧品などに幅広く利用されている着色料

合成着色料である赤色102号は、石油を原料として作られる、自然界には存在しない色素です。
「ニューコクシン」や「アシッドレッド18」、「スカーレット3R」など、異なった名称で呼ばれることもあります。

赤色102号は明度の低い赤色をした粉末状の着色料ですが、希釈具合によって、明るく鮮やかな赤から、オレンジがかった赤までさまざまな色味を出すことが可能です。

無臭で水によく溶けることも、赤色102号の特徴のひとつです。
油やアルコールには溶けにくいですが、熱や光、酸などに強いというメリットもあります。
そのため、ドッグフードやワンちゃん用のおやつを始め、人間用のお菓子、漬物、佃煮、清涼飲料水、化粧品など幅広い商品の色付けに使用されているのです。

赤色102号を使用した商品の原材料欄には「赤色102号」の他、「食用赤色102号」や「着色料(赤102)」などと表記されることもありますが、全て同一の着色料のことを指しています。

現段階で発ガン性は確認されていないが懸念事項もある

海外では使用禁止の国もある

赤色102号は、日本においては1948年に食品添加物として指定を受けました。
2017年11月現在までに、赤色102号における発がん性の報告はなく、それを根拠として日本では今も添加物としての使用が許可されています。
しかし世界を見渡してみると、赤色102号の安全性を疑問視し、使用禁止や使用自粛の対策を取っている国々もあるのです。

マウスを使った実験によると、赤色102号には結腸(※1)のDNA(デオキシリボ核酸)(※2)の損傷を引き起こす作用が確認されています。
人間でのデータではありませんが、赤色102号には遺伝毒性※3)が認められているわけです。
また、発ガン性への疑いを完全に拭い去ることができないという理由から、アメリカでは人間用の食品に対する赤色102号の使用が禁じられています。
また、ベルギーやカナダでも、赤色102号を使用してはいけないことになっています。

また、イギリスの英国食品基準庁(※4)は2007年に、赤色102号と安息香酸ナトリウムを同時摂取した場合に、注意欠陥・多動性障害(ADHD)へ影響を与える(症状を悪化させる)可能性があると発表しました。
そして翌年の2008年には、各メーカーへ使用自粛の呼びかけを行っています。
一部の大手メーカーは、この勧告が出る以前から赤色102号の使用を停止していた所も多かったようですが、英国食品基準庁が正式に警告を発してからは、その他のメーカーも勧告に従い、商品の製造に赤色102号を用いることを控えています。

EU(欧州連合)各国においては、赤色102号の使用が認められている国も多くあります。
しかし上記のような事情から、2010年より赤色102号を含有した食品には、「子どもの行動に悪影響を与えるリスクがあります」といった警告を表示するよう義務付けられているのです。

さらに赤色102号には、(人間における)じんましんやアレルギー反応も確認されています。
ラットを用いた実験では、赤血球やヘモグロビン(※5)の各数値が減少したという結果や、ラットの体重と比較して、肝臓や心臓のサイズが大きくなるというデータも出ているのです。
こうしてみると、赤色102号は動物の体にとって全く無害な物質であるとは言い切れないことが分かります。

※1 結腸・・・便の水分を吸収して固めたり、反対に粘液を足して滑らかにするなどの調節を行う、大腸を構成する器官です。また、処理しきれなかった食品の分解や栄養素の吸収も行います。S字結腸や横行結腸など、部位によって呼び名は異なります。

※2 DNA(デオキシリボ核酸)・・・生物を形作るための遺伝情報が詰まった物質です。

※3 遺伝毒性・・・DNAや染色体(DNAがヒストンという細い糸状のタンパク質に巻き付いた状態)を損傷させたり、異常を引き起こす作用のことを表します。

※4 英国食品基準庁・・・イギリス国内の食の安全性向上や表示の適正化などを目指し、国民や他機関への啓蒙活動や情報提供などを行う機関です。国によって運営されています。

※5 ヘモグロビンは赤血球の中に存在する、酸素と結びつく作用を持った物質です。ヘモグロビンを含んだ赤血球は、血液の流れに乗って全身を回り、酸素を送り届ける働きをします。これらの数が減少すると、貧血の症状を呈します。

犬の注意欠陥・多動性障害(ADHD)について

上の項目で、赤色102号が 注意欠陥・多動性障害に悪影響を与える可能性があると述べましたが、 ワンちゃんにも関係があるのか疑問に思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
人間の障害として近年広く知られるようになった注意欠陥・多動性障害ですが、どうやらワンちゃんたちにとっても他人事ではないようなのです。

注意欠陥・多動性障害(ADHD)とは、じっとしていられずに衝動的に行動してしまう、感情のコントロールが苦手で興奮しやすい、注意力が散漫で忘れ物や失くし物が多いなどといったさまざまな症状がみられる、脳機能の発達障害の一種です。

ごくまれにではありますが、ワンちゃんの中にも注意欠陥・多動性障害を持つケースがあるという報告があります
こうしたワンちゃんは、

  • ジッとできずに長時間元気に走り回る
  • 周囲にある物を噛んだり引っ掻いたりして破壊する
  • 他の動物や人間に見境なく飛び掛かる

などといった行動を取る傾向があるといわれているのです。

このようなワンちゃんたちのことをしつけの現場では、「ハイパーアクティブ(多動性)」と呼ぶこともあります。
しかし上記のような症状があっても、必ずしも注意欠陥・多動性障害であるとは限りません。
不安感や緊張感などの生活上のストレスや、運動不足でエネルギーの発散が不充分などといった環境が原因となっていることも多いのです。

また、注意欠陥・多動性障害のワンちゃんには、呼吸の回数が通常よりも多い、しっかりと食べていても痩せている、よだれを頻繁に垂らすなど、体調の面でも特徴的な所見が確認できるといわれています。
これらの症状も、他の病気から起こる可能性も充分に考えられます。
すぐに注意欠陥・多動性障害であるとは決めつけずに、獣医さんに相談して見極めることが大切です。

とはいえ、犬でも注意欠陥・多動性障害を持っている子が存在することは事実です。
上記のような症状がみられるワンちゃんには、赤色102号を含んだ食品は避けるに越したことはないでしょう。

食品への使用量はごくわずか

前述通り、健康に害を及ぼすさまざまな可能性が心配されている赤色102号ですが、排泄されやすいという性質も持ち合わせています。
体内に入った赤色102号は、そのほとんどが吸収されることなく、便と一緒に体外へと排出されます。
さらに一部体に吸収されたものも、胆汁の働きによって最終的には排泄されていくといわれています。

また、販売されている商品に入っている赤色102号は、ごく少量であることが一般的です。
赤色102号は非常に色が付きやすい色素です。
そのため、大量に使用した場合には着色され過ぎてしまい、キレイな見た目になるどころか、不自然な色彩の食品が出来上がってしまうのです。

食品製造の現場においては、食品の全体の重さの二十万分の一から一万分の一程度の量の赤色102号しか用いられません。
それに対して、上でご紹介したラットの実験は、飼料中2%以上という大量の赤色102号を含んだものが使われています。
そのため、市販されている食品に含有されるわずかな量の赤色102号では、健康に害を及ぼすリスクは極めて低いのではないかという見方もあります。

まとめ
合成着色料の赤色102号の概要や毒性への懸念事項についてご紹介しました。
赤色102号の毒性に関しては全て、「ラットの実験においては」や「可能性がある」という条件付きで述べられており、ハッキリとした危険性は明らかになっていません。
そのため日本では使用が認められているわけなのですが、諸外国においては禁止されている添加物であるということもまた事実なのです。

赤色102号を使用したワンちゃん用のフードは多くの種類が製造販売されているため、それらを購入するかしないかを決定するのは飼い主さんの意思にゆだねられています。
とはいえ、愛犬の健康を考えると、万が一のリスクでも避けたいと思う飼い主さんも多いことでしょう。
赤色102号は避けることのできない添加物ではありません。
原材料欄をよく確認して選べば、無着色のドッグフードを購入することは容易なのです。

そもそも着色料は、食品をキレイに見せるためだけのものであり、味に影響を与えるものではありません。
人間であれば見た目が華やかな食品に食欲をそそられることもあるでしょうが、ワンちゃんたちは食べ物の色を見て「おいしそう」とは思わないでしょう。
ドッグフードメーカーがわざわざコストをかけてまでフードに着色料を入れる目的は、購入者である飼い主さんたちへのアピール手段にすぎないのです。
カラフルでキレイな見た目に惑わされることなく、たとえ地味で素朴な色味のフードでも安全性の高いものを選んであげたいものですね。