粗脂肪とは?ドッグフードの成分表示を見てみよう

ドッグフードの成分表示「粗脂肪」

ドッグフードのパッケージには、原材料やエネルギー量(カロリー)の他に、粗脂肪や粗タンパク質など、ワンちゃんの生命維持に必要な栄養素がどの程度含まれているのかが、保証成分として表示されています。
「使用されている食材や添加物などはしっかりとチェックしているけれど、保証成分はいつも流し見で済ませている」、という飼い主さんもいらっしゃるのではないでしょうか。
ここでは、保証成分のひとつである粗脂肪にスポットを当てて、「粗」という文字が付いている意味や、ドッグフードに脂肪(脂質)を添加する必要性などについてご説明したいと思います。

保証成分のひとつ「粗脂肪」とは

粗脂肪の「粗」は悪い意味ではない

ドッグフード中の「粗脂肪」、「粗タンパク質」、「粗灰分(ミネラル)」、「粗繊維」、「水分」の含有割合は、フードのパッケージに「保障成分」として必ず記載されている項目です。
水分以外の各種栄養素の頭に付いている「粗」という漢字は、「そ」と発音し、「祖脂肪」であれば「そしぼう」と読みます。
この「粗」は、「粗い」、「粗悪」、「粗末」など、マイナスのイメージを持つ言葉に多用される文字です。
そのため「粗脂肪」も、「質の悪い脂肪分」を意味しているのではないかと勘違いされがちです。
しかし、ドッグフード表示における「粗」は、決して悪い意味の言葉ではありません。
「粗脂肪」とは、「純粋な脂肪以外の成分も含んだ値ですよ」ということを示しているに過ぎないのです。

保証成分値の表示が義務付けられている5種類の栄養素は、それぞれの持つ性質に適した手法でフードから抽出され、含有割合が計算されます。
粗脂肪の場合は、ジエチルエーテル(※1)という有機化合物を用いてドッグフードから脂肪分を取り出し、その重量を測定します。
また、フードによって脂肪の抽出が困難な場合には、下処理として、塩酸を使ってフードを加水分解するという工程が加わります。
こうして取り出された脂肪には、脂肪に溶け込んだビタミン類などの成分も一緒に含まれています
そのため、測定した重量は、脂肪とその他の成分を合わせた値になるのです。

つまり、「粗脂肪」は、「他の成分も若干含まれてはいますが、脂肪の割合はだいたいこの程度ですよ」ということを表現しています。
「粗」という漢字の意味の中で最も近いものを挙げるとするならば、「大ざっぱ」といったところでしょうか。

※1 ジエチルエーテル・・・強力な引火性を持つ有機化合物の一種です。透明な液体ですが、独特な甘いニオイを放ちます。主に溶剤や試薬などに利用されており、単純に、「エチルエーテル」や「エーテル」と呼ばれることもあります。

粗脂肪の保証成分は「以上」で表される

粗脂肪の保証成分値は、「粗脂肪・・・13%以上」のように、「以上」という言葉を用いて表されます。
ワンちゃんの体を作る材料となったり、活動するためのエネルギー源となる脂肪やタンパク質は、ある程度の量をしっかりと摂取しなければ体を維持することができません。
動物が生きていく上で最も基本的な成分であり、重要な働きをするこのふたつの栄養素は、「最低でもこれ以上の割合で含まれていることは保証しますよ」ということを示すため、「以上」が使用されるのです。

反対に、灰分と繊維、水分は、「粗灰分・・・6%以下」というように、含有割合が「以下」で示されます。
これら3種類の栄養素は、ワンちゃんの健康維持にとって大切な成分ではありますが、フードに過剰に含まれていると、さまざまな悪影響も及ぼします。
例えば、鉄と亜鉛、カルシウムとリンなどは、過剰摂取することでお互いの吸収を邪魔し合うミネラル類です。
また、お腹の健康に役立つ食物繊維も、量が多すぎると便秘を誘発したり、さまざまな栄養素の消化吸収を妨害します。
水分の多いドッグフードは、必然的に他の栄養素の量が減るため、1日に必要な栄養素を摂取するにはたくさんの量を食べなくてはなりません。
このように、多すぎず少なすぎずの繊細な配合が求められる栄養素は、「どんなに多くても、これ以上の量は含まれていません」ということを「保証」するために、「以下」が付いているのです。

ちなみにドッグフードにおける保証成分値の表示義務は、日本独自の決まりではなく、世界共通です。
英語圏では、「粗」は、「自然のまま(ありのまま)」を意味する「crude」に置き換わります。
「粗脂肪」であれば「crude fat」などのように記載されています。
また、「以上」は「max.」で、「以下」は「min.」でそれぞれ表示されます。

栄養学において、脂肪は脂質と呼ばれる

学術的に「脂肪」とは、動物性食品の脂身や植物オイルなどに含まれている「中性脂肪(トリグリセリド)」(※2)を指すことが一般的です。
しかし、肉や油には中性脂肪の他にも、コレステロールやリン脂質なども含まれています。
これらをまとめて表現した言葉が「脂質」です。
また定義は曖昧ですが、栄養学上での「脂質」は、「脂肪」のことを意味しているケースもあります。
したがってここからは、「動植物由来の油脂全般」のことを「脂質」と表現して、お話していきたいと思います。

※2 中性脂肪・・・普段は内臓の周りや皮下などに貯蓄されており、体内のエネルギーが不足した際に燃料として供給されます。動物の体にとって必要な存在ですが、過剰になると脂質異常症(高脂血症)などの原因にもなります。

ドッグフードには、動植物性のさまざまな脂質が含まれています。
動物由来であれば、牛や鶏、豚、羊などの脂身(もしくは脂身から抽出された牛脂や豚脂、チキンオイル)、フィッシュオイル(魚油)、バターなどがあります。
植物由来のオイルには、オリーブオイルや菜種油、亜麻仁油、大豆油など、列挙しきれないほどの種類が作られており、フードによって色々な脂質が使用されています。
脂質は、「ダイエットの敵だ」といわれて避けられがちですが、ワンちゃんの健康の維持には欠かすことのできない栄養素です。

犬の体内での脂質の働き

効率の良いエネルギー源となる

脂質のメインの役割は、エネルギーの補給です。
多くの動物の生命維持に必要な栄養素である、「脂肪(脂質)」と「タンパク質」、「炭水化物(糖質」の3つを総称して、三大栄養素と呼ぶことがありますが、この中で脂質は最も多くのエネルギー量を秘めているのです。
タンパク質と炭水化物はどちらも1g当たり4kcal程度のエネルギーを生み出します。脂質はその倍以上の約9kcalという高エネルギーです。
エネルギー量が多いということは、当然摂り過ぎると肥満の原因ともなります。
しかし、私たち人間に比べてワンちゃんたちは運動量が多く活発な動物であり、その分多くのエネルギーを必要とします。
少量でも多くのエネルギーを補給できる脂質は、ワンちゃんたちにとってはとても重要な栄養素なのです。

ホルモンや細胞膜の原料になる

コレステロールと聞くと、「健康に悪いから、愛犬にはあまり摂らせたくない」と考える飼い主さんは多いことと思います。
しかし、コレステロールには、ステロイド系のホルモンや細胞膜の材料になるという大切な役割があるのです(脂質の一種であるリン脂質も細胞膜の構成成分です)。
ステロイドホルモンは大きく分けて3つの種類が存在し、それぞれ、性ホルモン、糖質コルチコイド、鉱質コルチコイド(電解質コルチコイド)と呼ばれます。

性ホルモン
プロゲステロンやエストロゲン、アンドロゲンなどの種類があり、それぞれ生殖器の発育や、正常な妊娠をサポートするなど、主に子孫を残す機能の維持を司ります。
糖質コルチコイド
強力な免疫抑制作用や抗炎症作用を持つホルモンです。血糖値を上昇させる働きもあります。
鉱質コルチコイド(電解質コルチコイド)
ワンちゃんや人間の細胞の外側には、ミネラルの一種であるナトリウムが、内側にはカリウムが存在し、これらのバランスが一定に保たれることで、細胞が維持されています。
鉱質コルチコイドは、血圧を上げる、喉の渇きを覚えさせるなどの反応を起こし、細胞内外のミネラルバランスをコントロールする働きを持ちます。

ちなみに、ビタミンDの原料となるのもコレステロールです。
人間を始めとする多くの哺乳類は、皮膚に存在するコレステロールと紫外線を反応させることにより、体内でビタミンDを合成します。
しかしワンちゃんは、このビタミンDの材料となる7-デヒドロコレステロールというコレステロールの量が少ないため、体内合成だけでは十分なビタミンDを作り出すことができません。
ワンちゃんは、食品などからビタミンDをしっかりと摂取する必要があります

体調を整える

脂質には、さまざまな種類の脂肪酸が含有されています。
脂肪酸は種類ごとに働きが異なり、それぞれがワンちゃんの体調を整えてくれます。
この脂肪酸の供給も、ドッグフードに脂質を添加する大きな目的のひとつです。

飽和脂肪酸は酸化に強いエネルギー源

脂肪酸は、元素構造の違いによって、飽和脂肪酸不飽和脂肪酸に大別されます。

飽和脂肪酸は、安定性に優れており、空気に触れても酸化しにくい、融点(※3)が高く溶けにくいことなどが特徴です。
パルミチン酸やステアリン酸、酪酸、ラウリン酸などが存在し、ワンちゃんの体を動かす効率の良いエネルギー源としての役割を持ちます。
しかし、体内で過剰になると脂質異常症や肥満を招くリスクもあるため、過剰摂取には注意が必要です。
飽和脂肪酸は、主に肉類や乳製品などの動物性食品に多く含まれています(不飽和脂肪酸の含有量が多い魚類は除きます)。

※3 融点・・・固形物が溶け出し、液体へと変わる温度のことです。

多様な健康効果を持つ不飽和脂肪酸

不飽和脂肪酸は、植物性オイルや魚などに多く含有されている脂肪酸です(一部、肉類から摂取できる不飽和脂肪酸もあります)。
飽和脂肪酸に比べて不飽和脂肪酸は、不安定で変質しやすい構造を持っており、酸化や熱に弱いことがデメリットです。
脂肪酸の酸化はドッグフードの品質劣化に直結するため、フードへ添加される不飽和脂肪酸は、酸化防止剤によって保存性が高められているケースがほとんどです。

しかし、酸化防止剤の効果も絶対ではありません。
フードパッケージを一度でも開封してしまえば、空気と接触し、中身の酸化が始まってしまいます。
この酸化をできるだけ緩やかにするためには、日光が当たる、温度や湿度が高い場所にフードを保管しない、なるべく空気が入らないようにフードの袋の口をしっかりと閉じる、塗れた手や汚れた手でフードの出し入れをしない、といった基本的なことを面倒くさがらずに行うことが大切です。

このように、不飽和脂肪酸は取り扱いに気を遣わなければならない反面、ワンちゃんの体にとって非常に役立つ成分でもあります。
主な不飽和脂肪酸の種類とその働き、含有量の多い食材を一覧にまとめてみました。

不飽和脂肪酸の主な種類と働き
脂肪酸の名称 含有量の多い食材 主な働き
α-リノレン酸 (アルファリノレン酸)
  • 亜麻仁油
  • えごま油(シソ油)
ワンちゃんにとっての必須脂肪酸※4)です。体内でEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)に変換され、血液をスムーズに流れるようにしたり、血栓を防止するために働きます。
しかし、α-リノレン酸がどの程度EPAやDHAに変わるかはワンちゃんの体質によって異なるといわれ、中にはほとんど変換されないケースもあると考えられています。
確実な方法は、フィッシュオイルなどから直接EPAなどを摂取させることです。

※4 必須脂肪酸・・・健康維持に不可欠でありながら、ワンちゃんの体内では合成することが不可能か、ごく微量にしか作り出すことができないため、食品などから摂取しなければならない脂肪酸を意味します。

EPA(エイコサペンタエン酸)
  • 魚肉
  • フィッシュオイル
  • イノシシ肉
血液が固まることを防ぎ、血栓の形成を強力に抑制します。
さらに、アレルギー反応による体内の炎症を抑え、症状を和らげることにも役立つ脂肪酸です。
不飽和脂肪酸の中でも、このEPAとDHAは特に酸化に弱いため、保管には注意が必要です。
DHA(ドコサヘキサエン酸)
  • 魚肉
  • フィッシュオイル
  • イノシシ肉
  • 鹿肉
暗闇において、始めは何も見えなくても次第に目が慣れてきて、周囲の様子が把握できるようになりますが、これを暗順応といいます。
網膜に多く存在する脂肪酸であるDHAは、この暗順応が正常に行われるようにサポートする働きを持ちます。
また、血管を柔らかくすることで、血液がスムーズに流れるようにもしてくれます
さらに、記憶力を良い状態に維持し、学習効率をアップさせてくれますが、知能指数自体が向上するわけではありません。
リノール酸
  • 大豆油
  • ごま油
  • サフラワー油
  • 牛、豚、鶏の脂
  • クルミ
α-リノレン酸と同様、犬の必須脂肪酸です
血圧やLDLコレステロール(悪玉コレステロール)の値の上昇を防ぐ作用を持ちます。
また、細胞間脂質の主成分であるセラミドの原料ともなり、ワンちゃんの皮膚や被毛に潤いを与え、健康な状態をキープしてくれます。
γ-リノレン酸 (ガンマリノレン酸)
  • 月見草油(イブニングプリムローズオイル)
  • ボラージ油(ルリチシャ油)
  • 麻(ヘンプ)オイル
  • 馬肉
ドイツやフランスなどの一部の国では、人間のアトピー性皮膚炎の治療に使用されている脂肪酸です。
LDLコレステロールを低下させ、アレルギーの炎症を抑えてくれる働きを持ちますが、特殊な油脂以外からはほとんど摂取できないことがデメリットです。
リノール酸を使ってワンちゃんの体内で作り出すことが可能な脂肪酸ですが、シニアになると合成能力が落ちてしまいます。
アラキドン酸
  • 肝臓(レバー)
  • 卵黄
  • 肝油
お腹の中の赤ちゃん犬や、成長期の子犬の脳細胞の健全な発育に関与する脂肪酸です。
さらに、細胞膜の構成成分として、食道や胃の粘膜を刺激から守る作用も持ちます。
しかし、過剰摂取による抵抗力のダウンや、アレルギー症状の悪化などのリスクも指摘されています。
オレイン酸
  • 牛、豚の脂
  • エミュー肉
  • ニシン、ナマズ
  • オリーブオイル
  • キャノーラ油
HDLコレステロール(善玉コレステロール)の数は保ったまま、LDLコレステロールの数値のみを低下させてくれる作用を持ちます。
また、皮膚の常在菌(アクネ菌や表皮ブドウ球菌など)を適切な数に保ち、悪玉菌が増えにくい環境に整えてくれます

このように、ワンちゃんの健康維持に貢献してくれる脂肪酸は多岐に渡ります。
総合栄養食のドッグフードであれば、必須脂肪酸はもちろんのこと、それ以外の脂肪酸についても、各メーカーごとの理論に基づいてバランス良く配合されていることが期待できるでしょう。
しかし、偏食なワンちゃんや、栄養の偏った手作り食などを食べているワンちゃんの場合には、必要な脂肪酸が摂取しきれていないケースもゼロではありません。
色々な肉類や魚、油脂類などを組み合わせて、バリエーション豊かなごはんを作ってあげることは、ワンちゃんの健康管理にも、食事に対する飽きを防止するためにも役立ちます。

上の表の中でご紹介した脂肪酸の具体的な働き、構造などの詳細については、こちらのページをご覧ください。
ドッグフードに含まれる脂肪酸の種類と特徴
ドッグフードの原材料「動物性油脂」の役割と危険性とは?
ドッグフードの原材料「植物性油脂」の種類と働き

まとめ
脂質(脂肪)は、ワンちゃんのエネルギー源や各種ホルモンの原料となるばかりでなく、体の調子を維持するためにも欠かすことのできない栄養素です。
さらに、適度な脂質がドッグフードに存在することにより、ワンちゃんの食い付きアップも期待できます(特に動物由来の油脂が有効です)。
犬にとってメリットの多い栄養素である脂質ですが、もちろん摂取のし過ぎは体に蓄積し、肥満や脂質異常症を招きます。
特に、今現在すでに体重調整が必要なワンちゃんや、脂質異常症を起こしやすい遺伝的な体質を持っている可能性のある犬種(※5)の子たちなどが食べるフードを選ぶ際には、粗脂肪の値をよくチェックしてあげましょう。

※5 ワンちゃんは、HDLコレステロールよりもLDLコレステロールの値が高く、血管内にコレステロールや中性脂肪が異常に増えてしまう脂質異常症にはなりにくい動物です。しかし、遺伝的な体質によって、比較的脂質異常症を起こしやすい犬種も存在します。該当する犬種には、シェットランド・シープドッグ、シーズー、ロットワイラー、ミニチュア・シュナウザー、ドーベルマン・ピンシャー(いわゆるドーベルマン)などが挙げられます。