ドッグフードの栄養素「ビタミンA」の働きとは?過剰摂取に注意

ドッグフードの栄養素「ビタミンA」

古くから「目にいい成分」として広く知られているビタミンAは、ワンちゃんたちの体調維持にとっても欠かすことのできない栄養素です。
しかしビタミンAについて調べると、「β-カロテン」や「レチノール」といった単語が必ずといってよいほどに出てきます。
そのため、「これらは果たして同じ成分なのか、別物なのか?」と混乱されている方も多いことでしょう。
ここでは、ビタミンAの種類や健康効果、ワンちゃんの摂取量の目安、含有量の高い食材などについて多角的にご説明していきたいと思います。

ビタミンAの働きと種類

眼や皮膚、粘膜の健康を保つビタミンA

正常な視力や暗順応性を保つ

ビタミンAはさまざまな作用を持ちますが、最も有名なものは目に対する効果ではないでしょうか。
「ビタミンAが欠乏すると鳥目(暗い場所で物が著しく見えなくなる症状。夜盲症)になる」ということを聞いた経験のある方は多いと思います。

動物が物を見るためには、網膜にあるオプシンと呼ばれる光を感じる物質(視細胞)が必要です。
このオプシンの構成成分となるのがビタミンAなのです。

ビタミンA不足になると光を感じにくくなり、暗闇での視力が落ちたり、目が慣れるまでに時間がかかってしまいます。
ビタミンAをしっかりと摂ることによって視力や暗順応(暗闇に目が慣れること)を正常な状態にキープすることができます。

よく「ビタミンAを摂ると目が良くなる」ともいわれますが、決して視力がアップするわけではありません。
あくまでも、現状の中で最も良い状態が維持できるということです。

皮脂量の調節を行い、皮膚や被毛に潤いを与える

ビタミンAには皮膚細胞の生まれ変わりを助けたり、皮脂量を調節する働きもあります。
ビタミンAの適度な摂取は、皮膚の健康な状態を維持したり被毛に潤いを与え、愛犬を外見からも美しく整えてあげることに繋がるのです。
皮脂の生成をコントロールする作用により、脂漏症(※1)のワンちゃんの症状を和らげてくれる働きも期待できます。

これらの作用はビタミンAとメチオニンやシスチン、亜鉛など他の成分が組み合わさることによってもたらされるため、色々な栄養素をバランスよく摂取することが大切です。

※1 脂漏症・・・皮膚炎の一種です。栄養バランスの悪い食事やアレルギー、遺伝、細菌、ホルモン異常などが原因で発症するとされる病気ですが、ハッキリした発病の原因はまだ解明されていません。脂で被毛がべた付き強いニオイが発生したり、表皮が剥がれ落ちてフケが大量に出るなどの症状がみられます。

粘膜を強化し、感染症やガンの予防になる

ビタミンAには、粘膜を丈夫にする作用もあります。
粘膜は、口や鼻の中、食道、気管、胃、腸などワンちゃんの体中に存在します。
ビタミンAは粘膜を強化し、細菌やウイルスによる感染症を防いでくれるのです。

また、粘膜への刺激が繰り返されると炎症を起こし、発ガンのリスクが上がるといわれています。
粘膜が丈夫であれば多少の刺激にさらされても炎症を起こしにくくなるため、結果的にガンの予防にも繋がるのです。

ビタミンAは抗酸化作用を持つことや、免疫機能を維持する働きがあることでも知られています。
粘膜の強化作用と合わせて、ワンちゃんをさまざまな病気からも守ってくれる頼もしい成分なのです。

ビタミンAはレチノールとβ-カロテンに大きく分けられる

ビタミンAは、動物性食品に多く含まれるレチノールと、植物性食品に含まれるβ-カロテンの2種類に大まかに分けられます。
二つの大きな違いは、レチノールはそのままでもビタミンAとして働くことができ「活性型」と呼ばれるのに対して、β-カロテンは体内でビタミンA(レチノール)へと変換されることによって、初めてビタミンAとしての作用を持つという点です。

β-カロテンに比べてレチノールは強い働きを持ち、単に「ビタミンA」といった場合には、このレチノールのことを指す場合がほとんどです。
β-カロテンのように、体内でワンクッション置いてからビタミンAとして働く栄養素は「プロビタミンA」と呼ばれます。
プロビタミンAには50ほどの種類が確認されていますが、最も効果が高く代表的なものがβ-カロテンです。

ビタミンAはドッグフードにも頻繁に添加されている栄養素ですが、酸化しやすいという弱点を持ちます。
そのため、フードに添加する際にはカプセル状に加工したり、抗酸化剤を共に添加することが一般的です。

以下に、レチノールとβ-カロテン、それぞれの特徴を整理しました。

レチノール β-カロテン
多く含まれる食品 動物性食品
(レバー、魚介類など)
植物性食品
(緑黄色野菜、果物など)
活性化の条件 そのままでビタミンAとしての効力を持つ。 体内に取り込まれた後に、ビタミンA(レチノール)への変換が必要。
体内への吸収率 70~90%程度。 10%以下~60%程度。調理法により大きく変動する。
過剰症のリスク 肝臓に蓄積されやすいため、過剰症に注意。 脂肪の中で待機しており、ビタミンAが足りなくなると必要な分だけが使われる。過剰症の心配は少ない。

AAFCO(米国飼料検査官協会)(※2)の栄養基準によれば、犬のビタミンAの最小必要量は、ドッグフード乾燥重量1kg当たり5000IU(1650μg /1.65mg)、最大量は250000IU(82500μg/82.5mg)とされています。

IUとは国際単位「International Unit」の頭文字で、体内でどの程度ビタミンAとしての効力を発揮するかを示す値です。
ビタミンAにはレチノールやβ-カロテン、その他の多くのプロビタミンAといった複数の物質が存在し、それぞれ生体内での作用の強さに差があるため、IUという基準となる値が用いられています。
1IUはレチノールの量に換算すると0.33μgとなります。
μg(マイクログラム)は1mgの1000分の1を表す、とても小さな単位です。

ワンちゃんに1日当たりどの程度のビタミンAが必要かはあまり研究がなされておらず、ハッキリとしたことはわかっていません。
しかし、ある程度の目安はあります。
ワンちゃんの1日当たりのビタミンA必要量の目安は以下のようになっています。

  • 成犬→体重1kg当たり約75~110IU (24.75μg~36.3μg)
  • 子犬、妊娠(授乳)中の犬など→体重1kg当たり約220~250IU (72.6μg~82.5μg)

とはいえ、ワンちゃんがどれくらいのビタミンAを必要とするかは、その時の年齢、病気の有無、妊娠中か否か、活動量などによって変動するといわれていますので、あくまでも参考程度にお考え下さい。

※2 AAFCO(米国飼料検査官協会)・・・ペットフード業界によって作られた、アメリカにある組織です。2017年現在、日本の多くのペットフードメーカーは、AAFCOの公表しているフードの栄養基準をもとに製品作りを行っています。

栄養バランスの悪い食事や妊娠で欠乏症リスクが上がる

ワンちゃんは私たち人間と同じように、体内でβ-カロテンをビタミンA(レチノール)へと変換することが可能です。
すなわちワンちゃんは、動物性食品からも植物性食品からもビタミンAを補給できるということになります。
対して猫ちゃんは、β-カロテンを摂取してもビタミンAへと変換できないため、活性型であるレチノールなどが含まれた食品からしかビタミンAが摂取できません。
これが、肉食寄りの雑食という性質を持つ犬と、完全に肉食である猫との大きな違いです。

しかし、栄養バランスが考えられていない手作り食や、必要な栄養素が満たされていないドッグフード(一般食など、総合栄養食以外のもの)を食べさせ続けていると、ビタミンAの欠乏を起こす可能性があります。
また、妊娠中のワンちゃんは、赤ちゃんの胚の成長にビタミンAが消費されるために必要量が増加します。
同時に尿として排泄される量も増えるため、ビタミンAの欠乏を起こしやすい状態です。

ワンちゃんがビタミンAの欠乏を起こすと、さまざまな症状が現れます。

  • 暗闇において物が見えにくくなる、目が慣れるまでに時間がかかる
  • 眼球が乾燥する(ドライアイ)
  • 皮膚が乾燥しフケが増える
  • 毛ヅヤが悪くなったり、被毛が細く切れやすくなる
  • 免疫力が低下し、感染症にかかりやすくなる
  • 食欲がなくなり、体重が落ちる
  • 肝機能が低下する
  • 精子が形成されなくなり、繁殖障害の原因となる
  • 骨や神経の発育不良により、子犬の成長が遅れる
  • 頭痛が起こる(目立った異変が出にくく、飼い主には分かりにくい症状)

レチノールの過剰摂取に注意

前述の通り、ビタミンAの中でもレチノールは肝臓に溜まりやすいため、過剰症に注意しなければなりません。
ビタミンAの過剰摂取でワンちゃんにみられる症状には以下のようなものがあります。

  • 脚や筋肉に痛みが出る
  • 皮膚に赤い発疹が現れる
  • 歯が抜け落ちる
  • 肝臓、腎臓機能が低下する
  • 脱毛を起こす
  • 骨折しやすくなる
  • 赤血球の数が減少する
  • 食欲がなくなり、体重が減る

レチノールと比べてβ-カロテンの過剰摂取の健康被害はほとんど報告されていません。
β-カロテンは、多く取り過ぎてもそのままの形で脂肪の中に貯蔵されます。
体内でビタミンAの不足が起こると、その都度必要量だけがビタミンA(レチノール)へと変換されて利用されるのです。
そのためβ-カロテンはレチノールほど摂取量に気を遣う必要はありません。

とはいえ、ひとつ心配な事例もあります。
ガン患者(人間)が病気への対抗策として、β-カロテンを高濃度に含むサプリメントを大量に服用した際に、ビタミンAのガンに対する効果が全く現れなかったり、反対に体調に悪影響が出たりするという研究報告が出されているのです。
これは人に対する研究であり、ワンちゃんにも当てはめられるかは不明です。
しかし、いくら過剰症のリスクが低いβ-カロテンとはいえ、サプリメント、食品ともに過剰に摂取させることは注意をしたほうがよいでしょう。

ビタミンAを多く含む食材と効率的な摂取方法

油、ビタミンEと一緒の摂取がオススメ

ビタミンAは水に溶けにくく熱に強いため、しっかりと加熱をしても壊れにくいというメリットがあります。
さらに、脂溶性(油によく溶ける)であるビタミンAは、油と一緒に摂取すると吸収率が上がります。
だからといって、油をたっぷりと使った炒め物や揚げ物をワンちゃんに与えることは、脂質の取り過ぎとなりオススメできません。
ゆでた食材の仕上げに、オリーブオイルやサーモンオイル、ごま油、亜麻仁油などを少量垂らしてあげるとよいでしょう。
これらの油はワンちゃんの皮膚に潤いを与え、被毛を美しく保つ効果が期待できます。

またビタミンEは、消化管内でのビタミンAの分解を防ぐことにより、ビタミンAの損失を抑え、無駄なく吸収させる作用を持ちます。
愛犬にビタミンAを摂取させたい時には、ぜひビタミンEを多く含む食材を組み合わせてみましょう
大根の葉やカボチャ、卵黄や鮭などは、ビタミンE含有量の高い食品です。

ビタミンEについての詳細はこちらの記事をご参照ください。
ドッグフードの栄養素「ビタミンE」の働きと過剰・欠乏について

レバーやニンジンなどに多く含まれるビタミンA

レチノールはレバーや魚介類、卵などに、β-カロテンは緑黄色野菜や果物にそれぞれ多く含まれています。
そもそも緑黄色野菜とは、可食部100g当たりに600μg以上のβ-カロテンを含んでいる野菜のことを指しているのです。
対して、β-カロテンの含有量が600μg未満のものは淡色野菜と呼ばれます(※3)。

以下のグラフは、ビタミンAを多く含有する食材を比較したものです。
ワンちゃんが食べられる食材のみを掲載しています。

グラフ内の「μgRE」という単位は「レチノール活性当量」といいます。
レバーにはレチノールが、野菜類にはβ-カロテンが多く含まれていますが、どちらも体内ではビタミンA(レチノール)として働きます。
そのため「μgRE」は、各種栄養素が体の中で「ビタミンA(レチノール)として」どの程度働くことができるかを表した単位となります。

野菜類はβ-カロテンの含有量は多いのですが、レチノール活性当量は低めになっています。
「ニンジンにはビタミンAが多いと思っていたけれど、大したことないんだな」と思われた方がいらっしゃるかもしれませんが、それはこうした理由によるものです。

β-カロテンは変換過程でのロスなどにより、人においては半分(50%)程度しかビタミンA(レチノール)へと変化しないといわれています。
ワンちゃんの体内ではどの程度変換されるのかは明らかになっていませんが、食材に含まれるβ-カロテンがすべてビタミンAとして働くわけではないということは覚えておきましょう。

※3 緑黄色野菜には例外もあり、トマトやピーマンなどはβ-カロテンの含有量が100g当たり600μg未満にもかかわらず、緑黄色野菜の仲間に入っています。

まとめ
ビタミンAは愛犬の眼や皮膚のコンディションを保ち、感染症やガンなども防いでくれる重要な栄養素です。
犬にとっての絶対的な必要量が判明していないというのは、いささか心もとなくはありますが、総合栄養食表示のあるドッグフードをしっかりと食べている健康な成犬であれば、欠乏する心配はあまりないでしょう。
ワンちゃんが末永く元気でいられるように、過剰摂取に気を付けながら適度な量を摂取させてあげることが大切です。