ドッグフードの原材料「マグロ」の栄養素は?与え方の注意点も解説

ドッグフードの原材料「マグロ」

マグロ(まぐろ・鮪)を使ったペットフードといえば、猫ちゃん用のものを連想する方が多いでしょう。
しかし意外にも、マグロを使ったドッグフードも色々な種類の商品が売られています。
動物たちだけでなく私たち日本人にも大人気のマグロですが、味が良いのはもちろんのこと、タンパク質やビタミンB群、タウリンなど多くの栄養素が詰まった食材なのです。
そんな優秀なマグロですが、肉食の大型魚であるために水銀などの有害物質が体内に溜まりやすいという欠点もあります。
ここでは、マグロの栄養素と愛犬に摂取させる際に気を付けたいポイントを重点的にご紹介していきたいと思います。

ドッグフードや犬用おやつに幅広く利用されているマグロ

日本で最も食べられているのはメバチマグロ

サバ科マグロ属に分類されるマグロは、海の食物連鎖の上位に位置する大型魚です。
マグロにはいくつかの種類がみられますが、日本において最も多く消費されているものがメバチマグロ(目鉢マグロ)です。
メバチマグロは目が大きく、でっぷりと太めの体を持っています。
このことから、「めぶと」や「めっぱち」といった名前で呼ばれることもあります。
高級魚として名高いクロマグロやミナミマグロと同じくらい味の良い個体も存在し、身は鮮やかな赤色をしているのが特徴です。

一方、ツナ缶や回転ずしで多く利用されている種類は、キハダマグロやビンナガマグロです。
この2種類は、キレイな紅色をしたメバチマグロと比べると、ピンクに近い薄めの身の色をしています。

さまざまな犬用フードに利用されている

マグロを使ったドッグフードは、缶入りやレトルトパウチのウェットフードに比較的多く確認できます。
ウェットフードには、水分を含んだマグロの身がそのまま利用されています。
ドライフードや半生タイプのフードにもマグロは使われており、こちらは日本産のものが多いです。
ドライや半生フードには、乾燥させたマグロの身や骨までもが使われていることがあります。

また、マグロを利用した犬用のおやつの種類も多く、ジャーキー(角切りやスティックタイプ、チップス状など)、削り節、中骨を乾燥させたもの、ツナ缶などさまざまです。
人間用のツナ缶は塩分や油分が多いためワンちゃんには不向きですが、無塩・添加物無添加といった犬用のツナ缶であれば安心して与えることができるでしょう。

マグロに含まれる栄養素

マグロの赤身は高タンパクで低カロリー

メバチマグロと肉類の栄養素比較
(可食部100g当たり)
タンパク質(g) カロリー(kcal)
メバチマグロ 22.8 108
鶏肉 16.2 200
牛肉 14.4 371
豚肉 14.2 386

マグロは高タンパク質な食材です。
部位によって含有量に差はありますが、メバチマグロの赤身には100g当たり22.8gものタンパク質が含まれています。
この量は、牛肉や豚肉、鶏肉のいずれよりも多い値です。 反対にカロリーは4つの食材の中で最も少ないため、太り気味のワンちゃんにも安心して与えることができます。 ただし、トロの部分には脂肪が非常に多く、カロリーも赤身の3倍程に跳ね上がります。
人間よりも活動量が多く、脂質からもしっかりとエネルギーを得る必要があるワンちゃんといえども、やはり高カロリーの食事は肥満のもととなります。
愛犬に与えるマグロはトロよりも赤身を選ぶようにしましょう。

とはいえ、養殖のマグロは高脂肪の餌を与えられ、天然マグロよりも運動量も少ないため、全体的に脂質が多くなっています。
本来であれば赤身であるはずの部分にまで脂肪が入っており、ここからが赤身、中トロ、トロ、といった厳密な区別が付けにくいのが現状です。

赤身とトロの栄養素比較
(可食部100g当たり)
赤身 トロ
カロリー kcal 108 344
タンパク質 g 22.8 20.1
脂質 g 1.2 27.5
ナイアシン mg 13.5 9.8
ビタミンB6 mg 0.46 0.82
ビタミンB12 μg 4.5 1
リン mg 330 180
mg 1.4 1.6
セレン μg 67 -

マグロの赤身にはヘム鉄が豊富

マグロの身の赤さはミオグロビンという色素の色です。
ミオグロビンは酸素を体に供給する役割を持ち、鉄分も多く含んでいます。

マグロの体内にミオグロビンが多い理由は、その生態にあります。
マグロは泳ぐことを止められない生き物です。
口を開けて泳ぐことで、エラを通じて海水中の酸素を取り込んでいるマグロたちは、泳ぎをストップすると酸欠で死んでしまうのです。
さらにはエサとなる魚を追って、南から北へと長い距離を泳ぎます。

こうした理由から、マグロには長時間酷使しても疲れにくい筋肉が多く存在しているのです。
この持久力に優れた筋肉は血合筋と呼ばれ、私たちが「血合肉」と呼ぶ赤黒い部分に当たります。
血合筋にはミオグロビンが多く含まれ、マグロが泳いでいる途中で酸欠とならないようにサポートしているのです。
運動量が激しいということはそれだけ酸素を使うということでもあります。
酸素を蓄えておく役割のあるミオグロビンは、体内で酸欠が起こる前に自分の持つ酸素を放出するのです。

ミオグロビンはヘム鉄の含有量が多いことで知られています。
鉄分にはヘム鉄と非ヘム鉄の2種類がありますが、動物性食品に多いヘム鉄は体内での吸収効率に優れています。
ヘム鉄の多いマグロは貧血に悩んでいるワンちゃんにとってうれしい食材なのです。

体調を一定にキープするタウリン

マグロの血合筋には、ヘム鉄の他にタウリンも含まれます。
タウリンには、ワンちゃんの体調を常に一定の状態にキープするという働きがあります。
具体的には、寒い場所でも体温が下がり過ぎないようにしたり、血圧の上昇下降をコントロールしてくれているのです。
こうした作用のことを「恒常性(ホメオスタシス)」といいます。

一部の犬種(アメリカン・コッカー・スパニエルやキャバリア・キング・チャールズ・スパニエルなど)はタウリン不足から心疾患を起こしやすいといわれています。
タウリンはワンちゃんの体内でも作られていますが、食品からの補給も必要な栄養素です。
マグロなどのタウリンが豊富な食材を上手に利用して欠乏が起こらないように気を付けてあげましょう。
タウリンについて詳しくはこちらの記事をご確認ください。
 →ドッグフードの栄養素「タウリン」の健康効果とは?

抗酸化物質を構成するセレン

マグロにはセレンも含まれていますが、「セレン」と聞いてもどのような栄養素なのか、あまりピンと来ない方も多いのではないでしょうか。
セレンは別名を「セレニウム」といい、グルタチオンペルオキシダーゼという酵素を構成しています。
この酵素は抗酸化作用を持ち、ワンちゃんの老化の進行を遅らせたり免疫力を高める働きをします。

セレンは人間に対する研究において、肺や皮膚、前立腺ガンの発症率を減少させるというデータが出ていますが、そのメカニズムはまだ解明されていないのです。
また、ワンちゃんや猫ちゃんに対するガン抑制効果は、2017年10月現在においては確認されていません。
セレンが健康に有益であることが分かったのも1900年代後半であり、比較的新しい栄養素なのです。
これからさらなる健康効果が明らかになっていくことが期待される成分です。

ビタミンB6とビタミンB12

マグロに多いビタミンはビタミンB6とB12です。

ビタミンB6は、ワンちゃんが取り込んだタンパク質がアミノ酸へと分解され、再びタンパク質へと合成される際に働く酵素を助ける補酵素としての役割があります。
タンパク質の摂取が多ければ多いほど必要となる成分であるため、高タンパクなマグロとは非常に相性の良いビタミンなのです。
他にも、貧血予防や免疫機能の正常化、余計な塩分の排出などさまざまな働きをします。

ビタミンB12は葉酸と協力し合いながら赤血球を作り出すことから「造血のビタミン」という別名があります。
末梢神経を修復し、中枢神経に働きかけることによって、ワンちゃんの眠りの質を高める作用も認められています。
ビタミンB6とB12に関しては、こちらの記事で詳しくご説明しています。
 →ドッグフードの栄養素「ビタミンB6」の働きについて知ろう
 →ドッグフードの栄養素「ビタミンB12」の働きと欠乏のリスクとは?

DHAとEPAに富む

マグロの脂肪には、DHA(ドコサヘキサエン酸)とEPA(エイコサペンタエン酸)が豊富に含まれています。

DHAには、よく知られている中性脂肪や悪玉コレステロールの数を低下させる働き以外にも、脳の働きを活発にして記憶力や学習能力を維持したり、視力の低下を抑制する働きなどもあるといわれています。

EPAにもDHAと同様、中性脂肪と悪玉コレステロールを減らす作用があります。
また、血液をサラサラな状態に保つことから血栓の予防に効果的です。

DHAやEPAは魚を焼いて調理すると20%ほど減少するといわれています。
そのため、栄養素を愛犬に無駄なく摂取させるには、本来ならば生食が最も良いということになります。
しかし、ワンちゃんに生のマグロを与えることはあまりオススメできません。
理由は次の項目(4.マグロを犬に与える際の注意点)でご説明します。

マグロを犬に与える際の注意点

メチル水銀の中毒に気を付ける

マグロには鉄分が豊富なため、貧血を起こしやすい妊娠中のワンちゃんにも与えたいと思われる飼い主さんもいらっしゃることと思います。
しかし、妊娠中のワンちゃんにはマグロを食べさせることは控えたほうがよいでしょう。
マグロにはメチル水銀などの有害物質が蓄積しやすいという欠点があります。
これらの物質は、摂取した母犬にも、お腹の赤ちゃんにも悪影響を与える可能性があるのです。

工業廃水や自然界に存在する水銀は、プランクトンに取り込まれ、プランクトンを食べた小魚、さらにその小魚を食べたマグロへと蓄積が連鎖していきます。
こうした有害物質は、体が大きく寿命の長い魚(※1)ほど多く溜め込むため、どちらの条件も満たしているマグロは摂取に気を付けたい食材でもあるのです。

ワンちゃんが水銀中毒を起こした時には以下のような症状がみられます。

  • 被毛が抜ける
  • 体が震える
  • 吐血、下痢や血便
  • 足の感覚が麻痺する
  • 腎機能の障害からお腹が膨らんだり、尿が出にくくなる
  • 失明

厚生労働省は妊婦さんに対して、マグロの摂取を制限するようにと注意喚起を行っています。
メバチマグロ、クロマグロは1週間に80g(刺身一人前程度)、ミナミマグロは160g程度までに留めるようにという具体的な指標が出ているのです(※2)。
しかし犬に対しては、マグロの摂取がどの程度まで安全なのかは分かっていません
そのため、妊娠中に限らずワンちゃんへのマグロの給餌は慎重に行った方がよいでしょう。

※1 マグロの寿命・・・マグロの寿命は種類によって差がみられます。メバチマグロは10~15年以上、キハダマグロは7~10年、ビンナガマグロは生息場所によって異なり、10~16年以上と幅があります。クロマグロやミナミマグロはもっと長く20年以上生きるとされ、過去には推定45歳の個体も確認されています。ちなみに鮭は種類によって3~7年程度、イワシは3~4年(長くても7年程度)であるため、マグロの寿命がいかに長いかが分かります。

※2 キハダマグロとビンナガマグロ、ツナ缶に関しては通常通り食べても問題ないとされています。

アレルギー発症のリスクがある

マグロに取り込まれた魚介類に対するアレルギー

ワンちゃんの中には、マグロに対するアレルギーを持つ子もいます。
そのような子はもちろんのこと、他の食品に対してアレルギーを持つワンちゃんも、マグロの摂取には注意をしたほうがよいケースもあります。

マグロは大型の肉食魚であるため、魚類(イワシやアジなど)、甲殻類(カニ、エビなど)とさまざまな海の生物を食べています。
これらの成分がマグロの体内に蓄積され、それに対してアレルギーを起こす可能性があると指摘する声があるのです。

しかし人間用の食品としても、マグロがどのような餌を食べて成長したかまで表示する義務はないことを考えると、あまり過剰に心配する必要はないと判断できます。
とはいえ、多くの食材に対してアレルギー反応が出てしまう体質のワンちゃんの場合は、念のため注意するに越したことはありません。
特に初めてマグロを与える時には、食べ終わってもしばらくは、愛犬が体調の変化を起こしていないか注意深く観察しましょう。

ヒスタミンによるアレルギー様症状

日本人の間ではマグロといえばお刺身やお寿司などの生食が好まれます。
しかし、生のマグロに含まれるヒスチジンが細菌によってヒスタミンに変わると、アレルギー症状を誘発する恐れがあるのです。
ヒスタミンによって引き起こされる症状は、じんましんや粘膜のかゆみ、腫れ、嘔吐や下痢など多岐に渡ります。
これは、体内でアレルギーが発生したわけではなく、マグロの身で増殖したヒスタミンを取り込むことによって起こります。
そのため、アレルギー体質のワンちゃんでなくとも発症する可能性があるのです。

ヒスタミンは加熱でも活性を失わないため、できるだけ発生を押さえることが大切です。
ヒスチジンをヒスタミンへと変化させる細菌は、マグロの鮮度が低下するとともに増えていきます。
できるだけ新鮮なマグロを選び、購入後は速やかに調理し愛犬に与えるようにしましょう。
一度解凍したマグロを再び冷凍するのも、鮮度低下の原因となりますので注意してください。

生マグロのチアミナーゼはビタミンB1を破壊する

生のマグロにはチアミナーゼというビタミンB1(チアミン)分解酵素が含まれています。
チアミナーゼによってビタミンB1が破壊されて欠乏すると、脚が麻痺を起こしたり体がけいれんしたりする症状がみられます。
ワンちゃんの場合は心肥大を起こすこともあるため、ビタミンB1欠乏には特に注意しなければなりません。

火を使って調理をすれば、チアミナーゼの活性はストップできます。
また、加熱することにより生のマグロよりも歯ごたえが出るため、その食感を好むワンちゃんも多いといわれています。
安全のためにも嗜好性を上げるためにも、マグロは火を通してから愛犬に与えるようにしましょう。

まとめ
タンパク質に鉄分、ビタミンB群など、多くの栄養素を含有したマグロは、ワンちゃんの健康維持に有益な食材です。
しかし同時に、水銀中毒やアレルギー、ビタミンB1欠乏の危険性など、色々と注意したい点も見受けられます。
これらのリスクから、マグロは毎日食べさせる主食としての利用法よりも、たまにのご褒美感覚で与える程度に留めておいたほうがよいと考えられます。
愛犬がマグロをおいしく安全に食べられるように、新鮮なものを加熱して与えるという基本事項を徹底していきたいですね。