ドッグフードの栄養添加物「炭酸亜鉛」の働きと欠乏症・過剰症

ドッグフードの栄養添加物「炭酸亜鉛」

亜鉛は、体内のさまざまな酵素を構成し、被毛や皮膚の生まれ変わりを助ける重要な栄養素です。 そんな亜鉛を補給するため、ドッグフードには炭酸亜鉛と呼ばれる栄養添加物が配合されていることがあります。 ここでは、炭酸亜鉛についての概要と、亜鉛というミネラルの具体的な働き、欠乏症や過剰症はあるのかなどについてご説明していきます。

飼料用添加物として認可されている炭酸亜鉛

炭酸亜鉛は、人以外の動物の口に入る飼料への添加が認められている飼料用添加物です。 また、工業的に用いられることも多く、顔料やメッキ(※1)、ゴムへの添加、薬(軟膏)への配合などにも利用されています。 しかし、日本においては、人間の口に入る食品添加物としては認可されていません。

※1 メッキ・・・亜鉛を用いて鋼材の表面を覆い、錆が発生することを防ぐ処理を意味します。

常温では白い粉末状を保つ炭酸亜鉛は、酸には溶けやすいですが、水には溶解しにくいという特徴を持ちます。 炭酸亜鉛を飼料やペットフードに添加する目的は、動物たちに亜鉛というミネラル(無機物や灰分という呼び方もあります)を補給するためです。

炭酸亜鉛は自然界にも存在する物質です。 スミソナイト(日本では菱亜鉛鉱(りょうあえんこう)と呼ばれます)は、炭酸亜鉛を主成分とする鉱石です。 スミソナイトはボコボコ、ごつごつとした形状で産出されることが多く、その形は「ブドウの房のようである」と形容されます。 純粋なスミソナイトは透明か白い色をしていますが、含まれる不純物の種類によって、黄色や紫、ピンク、青、オレンジ、茶色など、さまざまな色のものが存在します。 スミソナイトは原石を磨くと、まるで絹の織物をまとったかのような美しい光沢が現れることが特徴です。

200種類以上の酵素の構成成分として働く

「炭酸亜鉛は、亜鉛補給のためにペットフードに配合される」とお話ししましたが、ここからはその亜鉛についてご説明していきます。

亜鉛は、健康維持のために食品から必ず摂取しなければならない必須ミネラルの一種です。 必須ミネラルには、多量ミネラルと微量ミネラルがあります。 「多量」と「微量」は、動物が1日にどれだけ必要とするかや、生体内にどの程度含まれているかなどによって、便宜的に分けられているものであり、明確な基準はありません。 必要量や生体内の割合が多めのミネラルが「多量ミネラル」、少なめのものが「微量ミネラル」(※2)と呼ばれており、亜鉛は後者の微量ミネラルに属します。 量は少ないながらもワンちゃんの全身に分布しており、特に被毛や皮膚に多く含まれていることが特徴です。

※2 多量ミネラルには、カルシウムやナトリウム、カリウムなどがあります。対して、微量ミネラルには亜鉛の他、鉄や銅、ヨウ素などが属しています。

亜鉛は、体内に存在する200種類以上の酵素を構成する成分のひとつです。 新しい細胞やタンパク質の合成をサポートしてくれる亜鉛は、体の状態を維持するために欠かせません。 特に、肌の炎症や傷が治っていく過程において、亜鉛が多く消費されることが分かっています。

また、ワンちゃんの毛が生え変わる時期(=換毛期)にも、多くの亜鉛が必要です。 特に、長い被毛を持ったワンちゃんは亜鉛の要求量が高くなります。 亜鉛は被毛の生まれ変わりを助け、ケラチン(※3)やコラーゲン(※4)の合成にも関与します。ワンちゃんの丈夫で艶やかな被毛を維持するためには、きちんと亜鉛を摂取させることが大切なのです。

さらに亜鉛は、脂質や糖の代謝、骨の形成のサポートや、ビタミンAを血流に乗せて運ぶ際にも必要となります。

※3 ケラチン・・・皮膚や被毛、爪などを構成しているタンパク質の一種です。

※4 コラーゲン・・・皮膚や骨(軟骨も含む)、血液などを作るために必要な材料であり、ケラチンと同様、タンパク質に分類されます。

亜鉛の欠乏症と過剰症

AAFCO(米国飼料検査官協会)(※5)が設定している基準では、ドッグフード1kg当たり120mg以上の亜鉛が入っていることが望ましいとされています。 ちなみに、フードが100gであれば12mgが必要ということです。 対して、人間(成人男性)の亜鉛必要量は1日当たり10mgとされています。 豊かな被毛を持ち、換毛期もあるワンちゃんたちは、亜鉛を人間よりも多く必要とするのです。

※5 AAFCO(米国飼料検査官協会)・・・アメリカの連邦政府と州政府が合同で運営している組織です。ドッグフードやキャットフードの栄養素の含有量や、表示方法を規定しています。日本の多くのペットフードメーカーも、このAAFCOの栄養基準を参考に、製品作りを行っています。

被毛や皮膚の異常が亜鉛欠乏のサイン

亜鉛の吸収率は決して高くはありません。 ワンちゃんの体質や、同時に摂取した他の栄養素との兼ね合いなどによっても亜鉛の吸収率は変化します。 しかし、摂取した亜鉛のうち、7~15%程度しか吸収されないとも試算されています。

亜鉛は、鉄や銅、カルシウム、繊維、穀物類の持つフィチン酸などと競合して、小腸での吸収が阻害されます。 フィチン酸は亜鉛とガッチリと結びつき、体への吸収を邪魔します。そのため、穀物類をたっぷりと使ったドッグフードや手作り食を与えている場合には、亜鉛不足が起こりやすくなるのです。

また、遺伝的に亜鉛の吸収が苦手な子が生まれることのある、シベリアンハスキーやアラスカンマラミュートなどは、亜鉛欠乏に注意したい犬種です。

亜鉛が欠乏すると、ワンちゃんに以下のような症状が現れます。

  • 毛にツヤがなくなる
  • 脱毛
  • フケが増える
  • 肉球が硬くなる
  • 皮膚の赤みやかさぶたが目立つ
  • 傷の治りが遅くなる
  • 爪がもろくなる
  • 食欲が低下する
  • 免疫力の低下により、感染症などにかかりやすくなる
  • 生殖能力の不全
  • 発育が遅くなる(子犬や胎児の場合)

亜鉛は、細胞やコラーゲン、ケラチンの合成に欠かせないミネラルであるため、欠乏が被毛や皮膚の異常となって現れやすいのです。

サプリメントの大量服用などにより過剰症のリスクもある

欠乏症に比べて、亜鉛の過剰症は起こりにくいと考えられていますが、サプリメントなどから大量の亜鉛を摂取した際には健康被害が出るというデータがあります。

亜鉛の摂り過ぎには、

  • めまい
  • 吐き気
  • LDLコレステロール(悪玉コレステロール)の値が増加し、HDLコレステロール(善玉コレステロール)の値が低下する
  • 鉄の吸収を阻害することによって、貧血が起こる

などが挙げられます。

前述通り、亜鉛は他の栄養素の影響によって吸収が阻害される物質ですが、亜鉛が過剰になると、今度は逆に鉄や銅の吸収を邪魔するのです。 実験結果によると、ドッグフード1kg当たりに2000mgを超える量の亜鉛が含まれていると、ワンちゃんの体に鉄が吸収されなくなり、貧血が起こると報告されています。

亜鉛を多く含む食材

炭酸亜鉛などの添加により、必要な量の亜鉛を賄えるよう設計された総合栄養食(※6)を食べているワンちゃんであれば、亜鉛不足を起こす心配はあまりないでしょう。 しかし、手作り食を与える場合、食材の選び方や組み合わせ方(亜鉛を含んだ食材が少なく、穀類が多いなど)を間違えると、亜鉛の欠乏症を引き起こすリスクが高まります。 手作りフードの献立を考える時の参考となるように、ワンちゃんが食べられる食材の中で、亜鉛を多く含むものをご紹介します。

※6 総合栄養食・・・ワンちゃんが生きていく上で必要な栄養素が、種類、量ともに全て含まれているドッグフードを意味します。基本的に、そのフードと水さえしっかりと摂取していれば、犬の健康が維持できるように設計されています。

牡蠣(※7)にたっぷりと亜鉛が含まれていることは有名ですが、ビーフジャーキーや馬肉、鶏のササミなど、犬用おやつやドッグフードに頻繁に使用されている食材にも、多くの亜鉛が含有されていることが分かります。 肉類だけでなく、ワンちゃんの嗜好性の高いチーズからも亜鉛は摂取できますので、日常のしつけ時やおやつタイムなどに手軽に取り入れることができるでしょう。

※7 少し意外ですが、牡蠣はワンちゃんに与えることができる食材です。ただし、牡蠣を始めとする魚介類には、チアミナーゼ(アノイリナーゼ)という酵素が含まれています。チアミナーゼはビタミンB1を分解する作用を持つため、ビタミンB1欠乏症を引き起こす可能性があります。このチアミナーゼの活性を失わせる方法は、充分な加熱です。火を通すことで、牡蠣による食中毒も予防できます。ワンちゃんに牡蠣を食べさせる際にはしっかりと加熱し、消化を良くするために細かく刻んでからあげましょう。

まとめ
ドッグフードの栄養強化のために添加される炭酸亜鉛と、炭酸亜鉛から摂取できる亜鉛の働きや欠乏・過剰症などについてみてきました。 同じミネラルに属するカルシウムや鉄、ナトリウムなどに比べて、亜鉛の認知度はそれほど高くありません。 「存在は知っているけれども、どのような働きをする栄養素なのかは気にしたことがなかった」という方も多いのではないでしょうか。 亜鉛は目立たない存在ではありますが、ワンちゃんがいつまでも中身も外見も若々しくいられるようにサポートしてくれる、大切な栄養素なのです。