ドッグフードの保存料「ソルビン酸カリウム」の働きと安全性

ドッグフードの保存料「ソルビン酸カリウム」

ソルビン酸カリウムとは、私たち人間用の食料品や化粧品を始めとして、ワンちゃん達が口にするドッグフードやジャーキーなどにも頻繁に使用されている保存料です。
多くの食品に添加されているという事実からも想像できるとおり、ソルビン酸カリウム単独での健康リスクは低いと考えられています。

しかし、ソルビン酸カリウムと亜硝酸ナトリウムという添加物を一緒に使用したケースにおいては、発ガン性が認められているのです。
このことから、愛犬の健康にとってソルビン酸カリウムは「注意すべき点のある添加物」であるといえます。

ソルビン酸カリウムとは

ソルビン酸カリウムの具体的な働き

ソルビン酸カリウムは、ジャーキーを始めとした犬用おやつやドッグフードなどに、保存料として幅広く添加されています。

ソルビン酸カリウムには、食品を腐らせる原因となる菌類を直接殺す効果はありません。
その代わりに、カビや好気性菌、酵母菌の代謝を阻害する働きがあります。
ソルビン酸カリウムによって代謝を妨害された菌類は発育することができなくなり、じわじわと死滅していくか仮死状態となるのです。

上記の通り、ソルビン酸カリウムに殺菌効果はありませんので、すでに菌類が増えすぎてしまっている不衛生な原料に使っても意味がありません。
もともと細菌量の少ない原料に対して、衛生面がしっかりと管理された環境で使用しないと、最大限の効果を発揮することはできないのです。

ソルビン酸カリウムはpH(アルカリ性や酸性の度合いを示した数値)の状態により、防腐効果が左右されます。
ソルビン酸カリウムを添加した食品が「酸性」の場合には抗菌作用が強く発揮され、逆に「アルカリ性」に傾くとその働きが弱まってしまうのです。
そのため、ソルビン酸カリウムを使用する際にわざわざpH調整剤を添加して、食品のpHを酸性にするケースさえもあります。
ソルビン酸カリウムを利用したいがために、さらに別の添加物を加えなければならない状態というのは、とてもいびつな構造であるといえるでしょう。

ソルビン酸カリウムはこのように、さまざまな食品に使われている便利な保存料でありながら、使用条件が厳しくデリケートな面を持っている物質なのです。

ソルビン酸カリウムとソルビン酸の違い

ドッグフードや人間用食料品のパッケージには、「ソルビン酸カリウム」と書いてあるものと「ソルビン酸」と書いてあるものがありますよね。
「ソルビン酸カリウム」と「ソルビン酸」とはどう違うのかと、疑問を持たれた方もいるのではないでしょうか。
ここでは2つの違いをご説明していきます。

ソルビン酸カリウムとソルビン酸は、効果としてはほぼ同じです。
しかしソルビン酸は、アルコールなどには溶けても水には溶けない性質を持っています。
水に溶けないことから物質と均等に混ざりにくいソルビン酸は、添加する原料によっては非常に扱いにくい保存料となってしまいます。
そこで、不溶性というソルビン酸の弱点を補った「ソルビン酸カリウム」の登場となるわけです。

ソルビン酸を水酸化カリウムや炭酸カリウムで中和して、水によく溶けるようにしたものがソルビン酸カリウムです。
したがって、ソルビン酸カリウムのもとはソルビン酸であるということができます。
2つは同じような働きをしますが、ソルビン酸に比べてソルビン酸カリウムはやや抗菌効果が劣ります。

ソルビン酸はもともとナナカマドというバラ科の木の、熟していない果実から発見された成分です。
ナナカマドの木は、東北地方や北海道などの地域にお住まいの方にはなじみ深い植物なのではないでしょうか。
これらの地域では街路樹として植えられていることが多く、秋になると可愛らしい真っ赤な実を付け、鳥たちがついばむ姿を見ることができます。
ロシアや北欧など寒さの厳しい国においては、冬用の貴重な食物としてナナカマドの実を備蓄していました。

ソルビン酸という呼び名も、ナナカマドの学名「 Sorbus commixta」からとられています。
しかし、ソルビン酸がナナカマドの実から抽出されることはほぼなく、ほとんどは化学的に合成されたものが使用されています。

ソルビン酸カリウムの用途

ソルビン酸カリウムは、ドッグフードや犬用ジャーキーだけではなく、私たち人間用の食品や化粧品にもたびたび使用されています。
代表的なものとしてはソーセージやハム、ワイン、漬物、チーズ、化粧水、マスカラ、ファンデーションや口紅など、一度原材料をチェックしてみるとその使用頻度の多さにきっと驚かれることでしょう。
水分含有量の多いものにはソルビン酸カリウムを、水気の少ないものには不溶性のソルビン酸を添加と、用途に応じて使い分けられています。

原材料欄には「ソルビン酸カリウム」と表記されることもあれば「ソルビン酸K」と書かれていることもありますが、どちらも同じものです。

ソルビン酸カリウムが犬の体に与える影響

単体での毒性は低い

ソルビン酸カリウムを単独で使用した場合、その毒性は低いといわれています。

犬にソルビン酸カリウムを混ぜた餌を3か月間与え続けるという実験結果でも、明らかな毒性は認められませんでした。
その他にも何度もラットやマウス、そして犬に対する毒性試験が行われてきましたが、「少量のソルビン酸カリウムを単独で使用する場合においては、健康への重大な危険性は確認されなかった」という結果が出ています。

ただし、短期間に大量のソルビン酸カリウムを動物に投与したケースでは、染色体異常や遺伝子の突然変異などが確認されたというデータもあります。
しかしこれは、通常ではあり得ないほどの量のソルビン酸カリウムを、体の小さなマウスなどに投与した場合の話です。
私たちもワンちゃんたちも、日常生活においてそれほど大量のソルビン酸カリウムを摂取する機会はほぼないと思われますので、この点に関してはあまり神経質にならなくてもよいでしょう。

亜硝酸ナトリウムとの同時摂取には要注意

単独使用においては、比較的安全性が高めだということができるソルビン酸カリウムですが、ひとつだけ注意が必要です。
それは、ソルビン酸カリウムと亜硝酸ナトリウムを一緒に加熱した場合において、エチニル酸という発ガン性物質の生成が確認されるということです。

亜硝酸ナトリウムとは、発色剤として有名な食品添加物です。細菌の増殖を抑制する働きもあります。
亜硝酸ナトリウムそのものの色は薄く、着色する効果はありません。肉類の持つ色素であるミオグロビンやヘモグロビンに作用して、キレイな赤い色を保つ働きをします。
人間用の食品では主にウインナーやハム、明太子やたらこなどの魚卵、魚肉ソーセージなどに使われています。

亜硝酸ナトリウムは肉類と相性が良い添加物です。そして、ドッグフードは肉類が原料となっていることが一般的です。
このことからも予想できるかと思いますが、亜硝酸ナトリウムは犬用フードにもよく使われています。
中でも特に、犬用ジャーキーへの使用頻度は非常に高いです。
そして忘れてはならないのは、犬用ジャーキーにはソルビン酸カリウムが添加されていることも多い、ということです。

亜硝酸ナトリウムでキレイな赤色に見せ、ソルビン酸カリウムとのダブルの静菌作用で菌の増殖を強力に抑え込む……。
この部分だけに着目すると、とてもクリーンで見た目にも保存性にも優れた理想的なジャーキーが思い浮かぶかもしれません。
しかし愛犬にこうしたジャーキーを与え続けることは、ワンちゃんの体にとって「発ガンのリスクが上がる危険な行為」となるのです。

まとめ
以上、ソルビン酸カリウムという添加物の概要と、犬の健康への影響についてご紹介しました。
もちろんソルビン酸カリウムを含まないドッグフードを選べるのであれば、それに越したことはありません。
しかしもし、ソルビン酸カリウムを使用したドッグフードを購入する際には、単独で使用されているのか、それとも亜硝酸ナトリウムと併用されているのかをチェックすることだけは必須だといえます。
もしも原材料欄に、ソルビン酸カリウムと亜硝酸ナトリウムの名前が並んでいたならば、そのフードを避けることにより愛犬への健康リスクを少しでも減らすことが可能でしょう。

そもそも亜硝酸ナトリウムは、単独でも発ガン性が指摘されている添加物です。
こうした毒性のある不要な添加物を、知らず知らずのうちにワンちゃんに与えすぎることのないように、ドッグフードやおやつを購入する際にはパッケージをよく確認して選ぶ習慣を身につけることが大切です。