ドッグフードの栄養添加物「塩化カリウム」の働きと欠乏症・過剰症

ドッグフードの栄養添加物「塩化カリウム」

塩化カリウムは、カリウムの補給のためにドッグフードに使用されることのある添加物です。
カリウムの働きのうち最も有名なものといえば、「塩分の排出作用」ではないでしょうか。
しかし、この他にもカリウムは、全身の細胞が正常に働ける環境を整えたり、心臓を始めとする筋肉を伸縮させるなど、ワンちゃんの命に直結する重要な役割を担っているのです。

ここでは、塩化カリウムとはどのような添加物なのか、塩化カリウムから摂取できるカリウムの働きや、欠乏症や過剰症などについてご説明していきたいと思います。

塩化カリウムはカリウムの補給目的で添加される

塩化カリウム(化学式:KCl)は、塩素とカリウムからなる化合物です。
燃えにくく、水に溶けやすい性質を持ち、口にすると苦みとともに塩辛さを感じます。
豆腐の凝固剤として知られる「にがり(苦汁)」にも、塩化カリウムが含まれています。
にがりの主成分である塩化マグネシウムに次いで、2番目に多く含まれる成分が塩化カリウムです。

塩化カリウムは、ドッグフードを始めとするペットフード類、牛や豚などの家畜に与える飼料、また、指定添加物として人間用の食品(赤ちゃん用の粉ミルク、清涼飲料水など)にも添加されています。
添加の目的は、ミネラルの一種であるカリウムの補給です。
また、塩辛い味を持つ塩化カリウムは、高血圧の人などが口にする減塩食に、ナトリウム(塩)の代わりに使用されることもあります。
食品以外でも、医薬品や試薬、殺菌作用を持つ電解水(農薬の代わりとして使われています)の材料としてなど、幅広い用途で利用されています。

カリウムは、ワンちゃんや私たち人間の生命維持に必須のミネラルですが(「カリウムは細胞機能を正常に保つ」にて後述します)、植物の成長にも欠かすことができません
病気に対する植物の抵抗力をアップさせる他、茎や根が育つために重要な働きを持つカリウムは、塩化カリウム、または硫酸カリウムの形で作物用肥料にも配合されています。
このカリウムと窒素、リン酸の3種類の栄養素を合わせて、肥料の「三大成分」と呼びます。
いずれも不足することで、植物の成長や健康が阻害される大切な栄養素です。

塩化カリウムは、自然界に存在するカリ鉱石から得ることが可能です。
カリ鉱石には、シルビン(カリ岩石)や、カイナイト(カーナリット)、ハルトザルツなど、構成成分の違いによっていくつかの種類が存在します。

しかし産出できる地域は限定的であり、希少な資源です。
カナダやロシア、ベラルーシ、ドイツを始め、カリ鉱石が埋蔵されている土地を持つ国は、世界中で12ヶ国しかありません。
海水が蒸発することによって形成されるカリ鉱石は、大昔に海や塩湖が存在し、現在は陸地になっている場所にしか存在しないのです。

日本は海に囲まれた国ですが、カリ鉱石はほぼ産出されません。
そのため、主にカナダから輸入し、塩化カリウムを製造しています。

カリウムは細胞機能を正常に保つ

前述通り、塩化カリウムから摂取できる栄養素はカリウム(元素記号:K)というミネラルです。
カリウムは、ワンちゃんの健康にとって不可欠な「必須ミネラル」であり、比較的体内に多く存在する「多量ミネラル」でもあります。
刃物で簡単に切断できるほど柔らかい金属であるカリウムは、白みを帯びた銀色をしています。

ワンちゃんの体内において、9割以上のカリウムは細胞に存在します。
特に、細胞の内側の体液である「細胞内液」にほとんどが含まれており、外側の「細胞外液」の成分であるナトリウムとバランスを取りながら、細胞機能の維持を担っています。

細胞の中と外の水分量の均衡が崩れると、細胞は満足に働けなくなり、最終的には機能を停止してしまいます。
ご存知の通り、生き物の全身を構成しているのは細胞です。
この細胞が正常に働かなくなることは、生命の維持ができなくなることを意味しています。
カリウムとナトリウムは、動物が生きていく上で非常に重要な役割を持っているのです。

また、カリウムには、筋肉が正常に伸縮することを助けたり、神経伝達がスムーズに行われるようにサポートする働きもあります。

カリウムとナトリウムは、互いに協力し合って細胞の正常な状態をキープしています。カリウムの相棒ともいえるナトリウムの働きや、過剰症・欠乏症などについての詳細は、こちらのページでご確認ください。
ドッグフードの栄養添加物「塩化ナトリウム」の働きとは?

カリウムとナトリウム、これらふたつのミネラルは、どちらか一方が多すぎても少なすぎても体調に影響を与えます。
2種類とも、生命活動に欠かすことのできない栄養素であるため、簡単にバランスが崩れてしまうようでは、動物が健康的に生きていくことはできません。
そのため体内では、各種臓器が協力し合って、カリウムとナトリウムの均衡が保てるようにコントロールしています。
例えば、「どちらか片方が増え過ぎたらその量を減らす」、「体内濃度が低くなってきたら、尿から出ていかないようにする」など、さまざまな対策を取りながら、ふたつのミネラルのバランスを取っているのです。

また、カリウムに、ナトリウム(塩分)の排泄を促進する作用があることは有名です。
これは、ナトリウムが過剰となり、カリウムとのバランスが崩れることを防ぐための仕組みのひとつですが、この働きが健康に有益なことを証明するエピソードがあります。

東北地方は、日本の中でも高血圧や脳卒中などの患者さんが多い地域です。
寒い地域に暮らす人々は、昔から、塩分をたくさん摂って体温を維持してきました。
また、雪で農作物が採れなくなる時期には、塩をたっぷりと使った保存食が重宝されたことでしょう。
食に不自由がなくなった現代でも、こうした食傾向や味の好みは受け継がれています。
そのため東北地方では、その他の地域に比べて塩分摂取量が多く、循環器系の疾患が起こりやすいのです。

しかし、東北地方に属しているにもかかわらず、塩分過剰による疾患での死亡率が低い県があります。
それは青森県です。
青森県といえば、リンゴの一大産地です。
リンゴにはカリウムが豊富に含まれているため、他県よりも多くのリンゴを食べている青森県の人達は、血圧も低く、脳卒中で亡くなるケースも少ないと考えられています。

カリウムの欠乏症と過剰症

長期に渡る下痢や、食欲不振で欠乏リスクが上がる

AAFCO(米国飼料検査官協会)(※1)では、ドッグフードに含有されるカリウムの割合は0.6%~1%が最適であるという見解を発表しています。
世界のペットフードメーカーの多くは、このAAFCOの栄養基準をフード作りに生かしているため、AAFCOの基準を満たしている「総合栄養食」(※2)表記のあるドッグフードであれば、ワンちゃんが必要とするカリウムはしっかりと摂取できるように設計されていることでしょう。

またカリウムは、リンゴやジャガイモ、サツマイモ、納豆、カツオ、ササミなど、さまざまな食品に含有されている栄養素です(※3)。
健康なワンちゃんであれば、よほど偏った食生活をしていない限りは、カリウムが不足するリスクは低いと考えられています。

※1 AAFCO(米国飼料検査官協会)・・・アメリカの各州と連邦政府が合同で運営している組織です。ペットフードの栄養素の表示についての規定や、ワンちゃんや猫ちゃんの栄養摂取の基準量などを公開しています。

※2 総合栄養食・・・犬の健康を維持する上で、必要とされる栄養素を全て網羅しているフードです。このフードを決められた量だけ食べ、新鮮な水を飲んでいれば、健康的に生きていくことができると考えられています。総合栄養食は、ワンちゃんに主食として与えることを想定して作られています。

※3 含有量の差はありますが、カリウムは多くの食品に含まれています。しかし、小麦粉や白米、砂糖など、精製された「白い食べ物」にはあまり含まれていません。

しかし、ひどい嘔吐や下痢の症状が長期間続いた場合には、カリウムが大量に体外へと排出されてしまうため、欠乏症を起こす可能性があります。
また、病気などで食欲が落ち、あまりごはんが食べられないワンちゃんも、カリウム不足となるケースがあるため、食事の管理には注意してあげましょう。

カリウムが十分摂取できず、血中濃度が低下してしまうことを「低カリウム血症」といいます。
低カリウム血症になった時、ワンちゃんにみられる主な症状は、以下の通りです。

  • 不整脈が起こる
  • 心臓が血液を送り出す力が弱まる
  • 血圧が大幅に低下する
  • 活動性が落ちる
  • 疲れやすくなる
  • 筋力が落ち、後ろの足が広がってくる
  • 筋肉の麻痺が起こる(子犬のカリウム不足で報告あり)
  • 精神的な不安が増大する(子犬のカリウム不足で報告あり)

不整脈とは、通常は一定のリズムで打ち続けているはずの心臓の拍動が乱れ、心拍数にも変化がみられる状態です。
カリウムは、筋肉の伸縮運動にもかかわるミネラルであるため、不足すると心臓の機能に異常が生じやすくなります。

内臓疾患による過剰症の心配

水溶性のミネラルであるカリウムは、たとえ少々摂取し過ぎたとしても、腎臓で処理されて尿と一緒に排泄されます。
このカリウムの排泄量などを管理しているのは、副腎から分泌されているホルモンです。
また、排泄されなかったカリウムは、一時的に細胞の中に蓄えられます。

このように、ワンちゃんの体内では、カリウムの過剰症が起こらないよう常にコントロールされているのです。
そのため、体重10kgのワンちゃんであれば、1日のカリウム摂取量が20gまでであれば健康被害は起こらないと考えられています。

しかし、カリウムやナトリウムの体内濃度を調節する機能を持つ腎臓や肝臓、副腎皮質などの機能低下によって、排泄されそこなったカリウムが体内に蓄積し、過剰症が誘発される可能性があります。
ワンちゃんの血液中のカリウム濃度が異常に高くなった状態を、「高カリウム血症」と呼びます。
ワンちゃんの高カリウム血症には、次のような症状がみられます。

  • 心不全
  • 不整脈が起こる
  • 心拍数が異常に上がる
  • 元気がなくなる
  • 吐き気をもよおし、嘔吐することもある
  • 足が痺れ、ヨロヨロとフラつくように歩く
  • 筋力が衰える

カリウムの過剰症でも、やはり心臓や足などの筋肉に異変が起こります。
特に不整脈は、時に心臓を止めてしまう危険性もはらんでいる、侮れない症状です。
愛犬に上記のような症状がみられた場合には、なるべく早めに動物病院を受診し、適切な治療を受けることが大切です。

まとめ
動物にも植物にも大切なミネラルである塩化カリウムと、カリウムについてみてきました。
カリウムは、摂り過ぎても不足しても、重篤な症状を引き起こしかねない栄養素です。
しかし、健康なワンちゃんであれば、バランスの良い食事を適量摂取できている限り、過不足の心配は少ないでしょう(カリウムの欠乏症・過剰症に繋がる疾患などを抱えている場合には、しっかりと治すことが必要です)。

栄養バランスの偏りが心配されがちな手作りフードでも、その日ごとに食材を変えて調理してあげていれば、さまざまな食材から自然とカリウムが摂取できることでしょう。
たとえ白米や小麦粉などのように、カリウム含有量が少ない素材が使われていても、その他の野菜や魚、肉類などから十分補うことが可能です。
私たち人間の間では、「色々な食材を食べることが健康に役立つ」などとよくいわれますが、これはそのまま、ワンちゃんのカリウム摂取にも当てはまるのです。