ドッグフードの酸化防止剤「BHT」の危険性

ドッグフードの酸化防止剤「BHT(ジブチルヒドロキシトルエン)」

BHT(ジブチルヒドロキシトルエン)とは、ドッグフードや人間の食料品、化粧品などに添加されている合成酸化防止剤です。
このBHTは、もともと石油の酸化防止に限定されて使用されていました。
その後、食品への添加も認められるようになったといういきさつを持つ物質なのです。

そのような経緯を辿ってきた添加物です。
勘が鋭い人でしたらピンときているかもしれませんが、BHTには様々な健康リスクの可能性が指摘されています。

BHT(ジブチルヒドロキシトルエン)とは

BHT(ジブチルヒドロキシトルエン)とは、パラクレゾールという有機化合物を化学的に合成して生成される酸化防止剤の一種です。別名をブチル化ヒドロキシトルエンともいいます。

BHTは上述の通り、日本では1940年頃に石油の酸化防止のために利用され始めました。
1954年にはアメリカで食品への使用が認められ、それを追いかけるかのように日本でも1956年より食品添加物としての利用がスタートしました。

BHTはドッグフードの他、人間用のマーガリンやバターなどの油脂、ガム、生食以外の魚介冷凍品(煮干しなど)、脂質を多く含んだ医薬品やサプリメント、ジャンプーやボディーソープなどへ酸化防止目的で添加されていることがあります。
BHTは優れた抗酸化作用を持ち、高温でもその効果が低下しにくく値段も安いため、メーカー側にとっては利用しやすい添加物だといえるでしょう。

また、海外の土葬文化の地域では、遺体の腐敗を防ぐ目的からBHTを使用するケースもあるのです。
BHTの酸化防止効果によって常温保存でも遺体が腐りにくくなり、長距離輸送なども可能となります。
また、埋葬後に遺体が腐敗することによる感染症の発生や蔓延を抑える効果も期待できます。
このことからも、BHTが強力な防腐効果を持っているということがお分かりいただけるのではないでしょうか。

BHTが犬の体に与える影響

BHT(ジブチルヒドロキシトルエン)の危険性

BHT(ジブチルヒドロキシトルエン)にはさまざまな毒性があると指摘されています。 具体的には、

  • コレステロールの増加
  • アレルギーの誘発
  • 脱毛
  • 腎臓や肝臓の機能障害
  • 染色体やDNAの遺伝子に異常が起きる危険性(「変異原生」といいます)がある
  • 妊婦が摂取した場合は奇形児が生まれる可能性がある
  • 膀胱がん、甲状腺がんの原因となる可能性が示唆されている(アメリカにおける実験結果)
など、非常に深刻な危険性が数多く示されています。

犬を用いた実験結果の報告は少ないのですが、唯一確認できた1955年発表のデータによると、4週間、犬に体重1kgあたり1.4~4.7gのBHTを2~4日置きに投与した結果、軽度から中程度の下痢症状が確認された、という結果があります。
また、上記の実験よりも少ない量のBHTを3ヶ月、週5日間犬に与え続けた結果では異常は出なかったということです。

妊娠中のラットにBHTを投与したところ、単眼症の子どもが生まれたケースもあるのですが、発生件数自体が少ないために問題はないであろうと考えられたようで、深く追跡はされていません。
ちなみに単眼症というのは、眼球をひとつしか持たずに生まれてくる先天性の奇形で、脳の形成異常が原因とされています。

また、マウスの子どもにBHTを継続投与した結果、学習能力が低下し攻撃性が上がる、睡眠時間が減るなどの症状が見られたというデータもあります。
なにやら「スナック菓子やテレビゲームの影響だ」と騒がれる人間の子どもたちの行動を連想してしまいますが、この実験結果はBHTが脳へと悪影響を及ぼす可能性を示唆しています。

BHTが不安視されている理由には、こうした実験結果の他にもうひとつあるのです。
BHTの酸化防止のメカニズムは、
「BHT自らが酸化し別の物質へと姿を変えることにより、その他の物質を酸化から守る」
というものです。 自身が犠牲となって他の物質を守ろうとするとは、なかなか献身的な添加物だと思わないでもないですが、このBHTが酸化後に変化した物質についての毒性試験は行われていません
いわば、安全性がベールに包まれている状態なのです。

使用を取りやめる国が増えてきている

こうしたBHTの危険性の指摘を受けて、オーストラリア、スウェーデン、ルーマニアなどの国では、BHTの食品への使用が禁止されています。
日本よりも2年早くBHTを食品添加物として認めたアメリカでさえ、2017年現在は乳幼児食品に限って添加することを禁じているのです。

1970年代以降は、日本国内でも使用を自粛するメーカーが増えました。
BHTを取りやめて、代わりに比較的安全性の高いBHA(ブチルヒドロキシアニソール)という酸化防止剤を使おうという流れになってきているのです。
しかしこのBHAも、ラットやハムスターを用いた実験において発ガン性が確認されており、安心して利用できる食品添加物であると断言できるものではありません。
そしてドッグフードにおいては、BHTとBHAが併用して添加されていることも多いのです。

「化学的に合成された酸化防止剤は犬の体に悪い」という考えに対して、「酸化して腐敗したドッグフードを与えるほうが犬の体にはるかに悪影響である」という意見もよく耳にします。
また、ドッグフードを悪条件下(直射日光、高温、多湿、開封後の長期保存など)で保存していると、ドッグフード内に豊富に含まれる脂質が劣化してしまいます。
すると、愛犬の皮膚や被毛の健康維持に欠かせない「必須脂肪酸」といった栄養素が充分に摂取できなくなる可能性もあるのです。
必須脂肪酸が不足すると、ワンちゃんの毛ヅヤが悪くなったり、皮膚に潤いがなくなり乾燥したりフケが増えたりします。

このように、ドッグフードが酸化することによるワンちゃんの健康への悪影響は、決して無視できるものではありません。
しかしだからといって、健康被害が指摘されている危険な酸化防止剤を安易に使うことには疑問を感じます。

もしもドッグフードの酸化を防ぐためには、BHTやBHAを使用するしか方法がないのであれば、多少の危険性には目を瞑らざるを得ないかもしれません。
ですが、酸化防止剤にはBHTなどよりも安全性の高い物質が色々とあります
よく知られているビタミンC(アスコルビン酸)や、ビタミンE(トコフェロール)、緑茶やローズマリーなどの抽出物などでも、充分にBHTの代用が可能なのです。

こうした天然の酸化防止剤を使用したドッグフードは、BHTなどの合成された添加物を使ったものに比べると、多少値段が張るかもしれません。
それを高いと解釈するか、安心料と解釈するかは飼い主さん次第です。

もちろんワンちゃんは生き物ですから、いくら安心安全を謳ったドッグフードを食べていても病気になってしまうことはあるでしょう。
そして、健康被害の可能性のある危険な添加物がたっぷり含まれているフードを食べ続けていても、老衰で亡くなるまで一度も病気をしなかったという犬だっているかもしれません。

ですが、普段から愛犬の食生活に気を付けてあげていれば、もしもワンちゃんが病気になったときに、「やっぱり安全なフードをあげていれば良かった」と後悔することはなくなるのではないでしょうか。
ワンちゃんに与えるドッグフードを選ぶ際のひとつの基準として、
「自分だったら食べたいと思うか」
「自分が犬だとしたら食べられるか」
という観点から考えてみることもよいのではないかと思います。