ドッグフードの原材料「羊(ラム)」の栄養素とアレルギー

ドッグフードの原材料「羊(ラム)」

ラム肉とは、子羊の肉のことを指します。肉質が柔らかく、くさみが少ないために食べやすいことが特徴で、多くのドッグフードの主原料としても頻繁に利用される食材のひとつです。
日本においては、飼い主さんよりもワンちゃんの方がラム肉をよく食べているというご家庭も多いのではないでしょうか。
ここではラム肉と他の羊肉との違いや安全性、ワンちゃんへの健康効果やアレルギーとの関連などについてご説明していきます。

ラム肉に関する基礎知識

生後1年未満の子羊肉がラム肉と呼ばれる

私たち日本人は、羊の肉といえばラム肉を思い浮かべがちです。
しかし世界の国々を見渡してみると、羊肉は「ラム」を始め「ホゲット」や「マトン」など、数種類の名称に呼び分けられることが多いのです。
これらの呼び名は、羊の状態によって線引きが行われます。
具体的には、生後どの程度経過しているか、永久歯が何本生えているかなどの条件がかかわってきます。
以下に、それぞれの名称と特徴を表にしてみました。

名称 羊の月齢・永久歯の数 肉の特徴
ラム まだ永久歯が生えていない、生後1年未満の子羊の肉。 羊肉特有のくさみが少なく、柔らかい肉質を持つ。脂肪分が少なめ。羊肉の中では、最も高い価格が付けられる。
ホゲット 生後1年以上2年未満で、1本か2本の永久歯を持つ羊の肉。メス、または去勢されたオスのみが食肉用となり、こう呼ばれる。 マトンほどではないが、ややクセのある味で肉質も硬め。淡白なラムよりも、深みのある味わいを持つ。
マトン 生後2年以上経過した、永久歯が2本以上あるメスと、去勢されたオスの羊肉。 牧草のような独特な香りを持ち、慣れていない人では食べにくいともいわれる。くさみが強く、肉質も3種類の中では最も硬い。

「マトン」は割と有名かと思われますが、「ホゲット」という名称は初めて目にする人もいることでしょう。
何をもってホゲットと呼ぶかの区別は曖昧であり、国や地域によっては定義が異なったり、羊肉の名称として用いない国もあります。
日本においても、「ラム」と呼ばれる時期を過ぎた羊肉は「マトン」として一括りにされることが一般的です。

安全性が高いのはニュージーランドとオーストラリアのラム肉

ラム肉は、羊肉の中でも一番クセが少なく柔らかい肉質を持ちます。
そのため非常に食べやすく、日本では最も人気のある羊肉です。
羊肉を使用したドッグフードにおいても、ラム肉をベースとしたものが大半を占めています(マトンはごく一部のドッグフードで使われていますが、ホゲット表示のものは確認できません)。

羊の飼育頭数が多いニュージーランド産オーストラリア産のラム肉が使われているフードも、多くの種類が販売されています。

ニュージーランドやオーストラリアでは国や業者が一丸となり、羊を始めとする家畜の健康状態から輸送体制、食肉への加工、検査など全てに渡って厳しい基準と管理体制を敷いています。
そのため2017年10月現在までに、口蹄疫(※1)やスクレイピー(※2)が発生したことがありません。こうした病気がこれから発生するリスクも非常に低いとされているのです。

また、この二ヵ国では一部を除き、ほとんどの羊が放牧(放し飼い)で育てられています
放牧は、狭い小屋の中での飼育に比べて羊がストレスを感じにくく、健康に育ちやすいというメリットがあります。
さらに自然に生えている草を食べて育つため、肉骨粉(※3)や遺伝子組み換えの心配のある飼料を与える必要もありません。

これらの事実から、ニュージーランドとオーストラリア産のラム肉を原材料としたドッグフードは、特にワンちゃんに安心して与えられる食事だということがわかります。
もちろんその他の条件(人間が食べられる食材を使っているか、添加物の種類など)もしっかりと確認するようにしましょう。

※1 口蹄疫・・・ウイルスによって引き起こされる伝染病です。感染した動物には発熱やよだれの増加、食欲の低下などがみられ、進行すると口周りやのど、蹄などさまざまな箇所に水疱が発生します。大人の羊の死亡率は低いものの、感染力が非常に強い病気です。

※2 スクレイピー・・・羊が「異常プリオン」と呼ばれる病原体に感染することによって発症する病気です。脳神経が変質し、皮膚の異常な痒みや歩行困難、性格の異変(攻撃的になる、ぼんやりとするなど)などが起こります。致死率が極めて高いことでも知られています。

※3 肉骨粉・・・家畜(牛・豚・鶏・羊・馬など)の食用となる肉部分を除いた内臓や骨、血液などを乾燥、粉砕して粉状にしたものです。
製造過程で加熱殺菌される肉骨粉は衛生的で栄養価も高いとされ、田畑の肥料や家畜の飼料などに利用されます。
しかし原料として、「異常プリオンに感染した家畜」が使用されていた場合、その肉骨粉を食べた他の動物に感染を広げるリスクがあると危険視されているのです。
異常プリオンに感染すると羊やヤギはスクレイピーを、牛は牛海綿状脳症(BSE/狂牛病)を発症します(どちらも同じような症状を呈します)。
肉骨粉の輸入に関しては、ニュージーランドは全面禁止、オーストラリアはニュージーランド以外の国からの輸入を禁止しています。

ラム肉の健康効果

多くのタンパク質と吸収されにくい脂肪を持つ

ラム肉は多くのタンパク質を含み、カロリーも控えめなヘルシー食材です。
加えてラム肉の脂肪は融点(溶け出す温度)が高く、体に吸収されにくいという特徴を持っています。
上記の表は、ラム肉と、ドッグフードに頻繁に使われる代表的な3種の肉類の栄養素含有量を比較したものです。
ラム肉が最も高い数値を持っている項目は赤で色付けをしました。

この表を見ていただくと分かる通り、例えば鶏肉の脂肪は30~32℃になると溶け出します。
対してラム肉の脂肪の融点は44~55℃という高い温度となっています。
ワンちゃんの直腸温(※4)の平均は大型犬で37.5~38.6℃、小型犬では38.6~39.2℃程度です。
この温度では、鶏肉の脂肪ならばすぐに溶けていってしまうでしょう。
しかしラム肉の脂肪は、ワンちゃんの高い体温にも強く、溶けて吸収される前に大部分が排泄されてしまうと考えることができます。
そのため脂肪が体内に蓄積しにくく、肥満のもとになりにくいというメリットがあるのです。

また、ラムは非常に消化吸収性に優れた食肉です。
素早く消化されてエネルギーへと変わるため、体を温める作用が高いといわれています。
寒さに弱いワンちゃんや、冷えからくるお腹の不調、足腰や神経の痛みなどに悩んでいるワンちゃんにとって、ラム肉はピッタリな食材なのです。

※4 犬の体温は、肛門に体温計を差し込んで測定することが一般的です。この方法で測られた温度は直腸温となります。

体重減少効果が確認されているL-カルニチンが豊富

ラム肉に多く含まれているL-カルニチンとは、脂質がエネルギーへと変換される際に不可欠な栄養素です。
体内で脂肪酸へと分解された脂質は、細胞内にあるミトコンドリアの中に入り、エネルギーへと合成されます。
この時に、脂肪酸をミトコンドリア内へと運ぶ役割を持つのがL-カルニチンなのです。
実験によっても、L-カルニチンがワンちゃんの体脂肪を減少させ、体重を落とすことに繋がることが確認されています。

L-カルニチンが体内で不足すると、脂肪酸が燃焼しにくくなり、体への蓄積量が増します。
したがって、ダイエット中や体重が気になるワンちゃんは特に充分なL-カルニチン量をキープしなければなりません。

L-カルニチンはワンちゃんの体内でも、メチオニンとリジンという2種類の必須アミノ酸から合成されています。
しかしその合成量は年齢とともに減っていきます。
L-カルニチンは尿から排泄されやすい成分でもあり、体内合成量だけでは不足する可能性もあるため、食事からしっかりと補給してあげることが大切なのです。
ラム肉には100g当たり約80~150mgという多くのL-カルニチンが含まれているため、効率的に補給することができます。

ビタミンB群に富む

ラム肉はビタミンB群の含有量も多く、中でもビタミンB2とナイアシン(ビタミンB3)、ビタミンB6が豊富です。

ビタミンB2

タンパク質、脂質、炭水化物の代謝に欠かせないビタミンです。
ビタミンB2は、これら3つの栄養素がエネルギーへと変換される際に使われる「フラビン」という酵素の働きをサポートします。
このため、ビタミンB2はリボフラビンとも呼ばれています。

ビタミンB2は脂質を燃やす際に大量に消費されるため、活動的で多くのエネルギーを必要とするワンちゃんや、太り気味のワンちゃんにとっては特に重要な成分です。
ビタミンB2には、皮膚や爪、被毛、粘膜などを丈夫にし、ケガの治りを早める作用もあります。

ナイアシン(ビタミンB3)

ビタミンB群の仲間であるナイアシンも、栄養素からのエネルギー産生を助ける働きを持ちます。
またセラミド(皮膚の構成成分のひとつ)の合成にも関与しており、ワンちゃんの被毛にツヤを与えたり、皮膚を外的ダメージから守ってくれるのです。

ナイアシンには血管の拡張作用も認められており、血行不良からくる肩こりや首こりの改善にも効果的です。
飼い主さんを見上げることの多いワンちゃんは、肩や首がこっていることが多々あります。
ナイアシンを摂取させることにより、こり固まった愛犬の体が楽になることが期待できます。

ビタミンB6

ビタミンB6は他のビタミンB群と同じように補酵素(酵素の働きを助ける成分)としての役割を持ちます。
ビタミンB6の助けを必要とする酵素の数は、なんと100種類以上にものぼります。

その中でもビタミンB6のメインとも呼べる働きは、体内に取り込まれた食品内のタンパク質を、体に適したタンパク質へと作り変える酵素のサポートです。
タンパク質を多量に摂取する動物ほど、必要とするビタミンB6の量も増加します。
もちろん、肉食寄りの雑食性を持つワンちゃんたちは多くのタンパク質を取り込んでいるため、ビタミンB6の要求量も高くなるのです。

ビタミンB6には他にも免疫の働きを正常化させ、アレルギー症状を和らげたり、体内に酸素を運搬するヘモグロビンを合成することによって貧血を予防する作用も確認されています。

これら3種類のビタミンB群についての詳細は、こちらの記事をご参照ください。
ドッグフードの栄養素「ビタミンB2」の働きと欠乏の危険性
ドッグフードの栄養素「ナイアシン」の働きとは?欠乏は命の危険も!
ドッグフードの栄養素「ビタミンB6」の働きについて知ろう

牛肉にアレルギーを持つ犬はラム肉にも注意

ラム肉は、他の肉類にアレルギーを持つワンちゃん用に作られているアレルギー対策用フードの主原料としても多く利用されています。
それだけラム肉はアレルギーを起こしにくい食材であると考えられているのです。

しかし、実際のところはどうなのでしょうか。
アレルゲン(アレルギーを起こす原因となる物質)となる可能性のある食品を摂取する機会が増えれば増えるほど、その食品に対するアレルギー発症の確率は高まります。
確かに以前はラム肉を使用したドッグフードの種類も少なく、ワンちゃんが日常的にラム肉を口にする機会はあまりありませんでした。
食べる機会が少ないのですから、犬がラム肉に対してアレルギーを起こしにくいというのは自然なことだったのです。

しかし時代とともに、輸入ものを含めさまざまなドッグフードが登場し、ラム肉を使ったフードも日常的に利用されるようになりました。
毎日の食事がラム肉メインのフードであるというワンちゃんもたくさんいます。
ドッグフードだけでなく、生肉などもスーパーや通販で手に入るようになり、手作り食にも広く使われるようになっています。
こうした理由から、2017年現在において、ラム肉はすでにアレルギーを起こしにくい素材ではなくなってしまったといわれているのです。

さらに牛肉にアレルギーを持つワンちゃんは、ラム肉でもアレルギーを発症しやすいということも分かっています。
これは交差反応(交叉反応)と呼ばれます。
別々の食材でも分子の構造が似通っているケースなどでは、免疫抗体が正確に判別できずに誤った食材に攻撃してしまうことがあるのです。
食物に対してアレルギーを起こしやすいワンちゃんは特に、ラム肉を与える際にも体調に変化がないかよくチェックすることが大切です。

まとめ

ラム肉は体を温める食品とされ、吸収しにくい脂質やL-カルニチン、脂質を効率よく燃やすビタミンB2など、ダイエット中のワンちゃんにとって必要な栄養素がこれでもかというほどに詰まっています。
さらにはタンパク質が豊富でエネルギーに変わりやすいため、しっかりと筋肉を付けたいスポーツドッグや活発なワンちゃんなどにもピッタリです。
ただしいくら良い食材だといっても、頻繁な摂取でアレルゲンとなる確率が上昇するという点は他の食べ物と同様です。
巷で囁かれている「ラム肉はアレルギーを起こしにくい」という言葉に安心せずに、愛犬の体調に注意を払いながら与えるようにしましょう。