ドッグフードの酸化防止剤「BHA」の犬への健康リスク

ドッグフードの酸化防止剤「BHA(ブチルヒドロキシアニソール)」

BHA(ブチルヒドロキシアニソール)は、ドッグフードの酸化防止剤として利用されている添加物です。
フードの品質低下を防ぎ、長く保存することを目的として利用されています。
人間用の食品でも、油脂やバター、魚介類の冷凍品、乾製品、塩蔵品、乾燥裏ごしイモなど、限られた種類にのみ、「食品1kg当たり1g以下」という条件付きで利用が許可されています。
食品への使用用途が厳しく制限されていることからも分かる通り、BHAには動物実験によるさまざまな毒性が確認されているのです。

ペットフード安全法におけるBHAの使用量制限

BHAは強力な抗酸化作用を持った、人工的に合成された化学物質です。
正式名称はブチルヒドロキシアニソールといい、ドッグフードに使用されている場合には、原材料欄にはこの正式名称か略称(BHA)が記載されています。

特に油脂に対して優れた抗酸化作用を表すため、ペットフードや人用の食品の他、ファンデーションや口紅、乳液、トリートメントなど、油分を含み品質が劣化しやすい化粧品やヘアケア製品にも幅広く使用されています。
食品や飼料への添加が認められる以前は、ガソリン、石油、車のエンジンオイルなどを酸化から守るためのみに使われていました。

日本において、犬や猫用のフードにBHAを使用する場合、その他の酸化防止剤であるBHT(ジブチルヒドロキシトルエン)とエトキシキンとの合計量が、フードの重さ1tにつき150g以下(1kgならば150mg以下)でなければならないと、ペットフード安全法(※1)によって定められています。
この基準は国ごとに若干異なり、アメリカではフード1kg当たり200mgと、日本よりもやや多めの値が設定されています。

※1 ペットフード安全法・・・ペットフードの安全性を確保し、愛がん動物の健康を守ることを目的とした法律です。正式名称は「愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律」といいます。「愛がん動物」の範囲は、「日本で最も多くペットとして飼育されており、フードの消費量も多い」犬と猫に限られています。環境省と農林水産省により公布され、2009年6月より施行されました。

BHAの発ガン性について

動物実験で発がん性が確認されるも、使用禁止には至っていない

BHAには、ラットやハムスターを対象に行った動物実験によって、ガンの発生が確認されています。
この結果は名古屋市立大学の伊東教授らの研究チームによって1982年に報告され、各国の専門家によってデータの信ぴょう性も認められました。
しかしBHAは使用禁止までには至らず、使用用途や量に制限が設けられ、現在(2017年11月)まで使われ続けています。

動物実験によって発ガンリスクがあることが確認されているにも関わらず、国がBHAの使用を認めている理由には、以下のようなものがあります。

まず、この実験では、飼料中に0.5%と2%という非常に高濃度のBHAが含まれていました。
これは、通常の食事から摂取することは不可能に近いほどの量です。
そのため、BHAの使用量を守ってさえいれば、健康への安全性は保たれると考えられています。

また、ラットやハムスターに確認されたガンは前胃(※2)にのみ発生していました。
しかし、人間は前胃を持ちません。
そこで、胃の構造が人間と似ている犬、豚、猿を用いて検証実験が行われましたが、明らかな発ガン性は確認されなかったのです。
この結果を受けて、BHAの発ガン性は、前胃の存在しない動物においては根拠がみられないと考えられるようになりました。
しかしこの考え方には「動物実験で発ガン性が確認されているにも関わらず、前胃のあるなしだけを理由にして、人にとってのリスクは低いと結論付けるのは早計である」と疑問視する声もあります。

※2 前胃・・・げっ歯類や鳥類、昆虫類などに存在します。これらの生き物は二つの部分に分かれた胃を持っており、前にある方を「前胃」と呼称します。

国際がん研究機関における発ガン性評価

国際がん研究機関(IARC)(※3)の発ガン性評価では、BHAは「グループ2B」に分類されています。
グループ2Bとは、「人間に対する発ガン性が疑われる」という項目です。
発ガン性に関して、「動物実験による限定的、あるいは不充分な根拠がある」、「人間への発ガン性を示す根拠が限定的である」という条件を満たす物質が主に分類されます。
他にも、「人間への発ガン性に関しての根拠は不充分(または根拠なし)であるが、動物実験においては確かな証拠がある」物質も含まれるため、BHAの場合はこちらであると考えられます。

※3 国際がん研究機関(IARC)・・・WHO(世界保健機関)が1969年に設立した専門機関であり、さまざまな物質に対する発ガン性のリスクや発ガンの仕組みなどの調査・研究を行っています。本部はフランスのリヨンに置かれています。

心配されるさまざまな健康リスク

内分泌かく乱物質としての作用が確認されている

げっ歯類の前胃に対する発ガン性以外にも、BHAには体へのさまざまな悪影響が指摘されています。
経済産業省の作成したBHAの有害性評価書には、次のような健康リスクが記されています。

  • 少量のBHAを長期的(半年間)に摂取させることで、犬の肝臓と甲状腺の重量(脂肪量)が増加した。
  • BHAが皮膚に触れると炎症を起こす。
  • ラットへのBHAの投与(体重1kg当たり1日500mg)により、生殖器の重量が減り、ステロイドホルモン(※4)の減少もみられた。

最後のラットを用いた実験結果は、BHAが内分泌かく乱物質である可能性を示唆しています。
内分泌かく乱物質は、体内に侵入するとそれがごく少量であっても、体の中の各種ホルモンと同様の作用を表す特性を持った物質のことです。
環境ホルモンという名でも知られており、生物やその子孫の健康に対して悪影響を及ぼすリスクのある物質と定義されています。
動物実験による発ガン性や神経・生殖機能・免疫などへの毒性が指摘されているダイオキシンも、内分泌かく乱物質の一種です。

※4 ステロイドホルモン・・・体内で分泌される「副腎皮質ホルモン」や「エストロゲン」・「アンドロゲン」など各種性ホルモンなどの総称ですが、特に副腎皮質ホルモンのことを指すケースが多くみられます。副腎皮質ホルモンは、タンパク質や脂肪の代謝、血糖値の上昇(脳の機能低下の抑止)、免疫力の抑制、抗炎症作用など重要な働きを持ちます。

注意・欠陥多動性障害との関連性が疑われている

またある論文においては、妊娠中のマウスへBHAを投与した際、生まれてきた子どもに、人間の注意・欠陥多動性障害(ADHD)や学習障害に似た異常行動が確認されたという報告があがっています。
現にイギリスでは、BHAにはアレルギーや多動性を悪化させる可能性があるとして、小児病棟の入院患者への食事に、BHAを含有する食材を使用しないよう通達が出されているともいわれているのです。

注意・欠陥多動性障害(ADHD)とは、集中力や注意力、感情のコントロールなどに影響がみられる脳の発達障害です。
この障害は人だけではなくワンちゃんにも確認されており、しつけや散歩に苦慮するほどの落ち着きのなさや身の周りの物への破壊性、誰彼構わず飛びつくなどの衝動性といった問題行動がみられます。
また、呼吸数、心拍数、よだれが増加するなど、健康面での影響も懸念されています。

BHAが犬のアレルギーや多動性へも関与するのか、ハッキリとしたことは分かりません。
しかし、 注意・欠陥多動性障害が疑われていたり、すでに診断されているワンちゃん、アレルギーを起こしやすいワンちゃんの万が一を考えるのであれば、BHAを含むフードの給餌には注意をした方がよいでしょう。

BHTとの併用リスクは調査されていない

BHAは、BHT(ジブチルヒドロキシトルエン)と併用されているケースも多くあります。
BHTもBHAと同様に、物質の酸化を防ぐ目的で使用される添加物であり、アレルギーや脱毛、腎・肝機能の障害など多くの毒性が指摘されています。
このふたつの物質を一緒に摂取した場合のリスク調査はあまり行われておらず、専門家からも安全性を心配する声が出ています。
BHTに関する詳細はこちらの記事をご覧ください。
 →ドッグフードの酸化防止剤「BHT」の危険性

BHAの健康リスクに関しては、「悪影響を及ぼす可能性がある」という程度のものが多く、確実に分かっていることは多くありません。
ドッグフードにBHAを使用しているメーカー各社も、「ペットフード安全法による使用基準値を厳守しているため、犬に与えても健康上の問題は考えられない」、「経口摂取したBHAは、2~4日のうちに排出されるため、体内には(ほとんど)残らない」と、安全性を主張しています。
さらに少量のBHAには、ガンの抑制作用がみられたという研究データまでもあるのです。

とはいえ、げっ歯類の前胃への発がん性やホルモン様の働きなど、BHAの安全性にさまざまな懸念があることも事実です。
この先、BHAの内分泌かく乱物質としての作用がさらに解明され、再び安全性が大きく問われる可能性もゼロではありません。

実験に使われたラットやハムスターの平均寿命は短く、およそ2~3年程度です(長いものでは4年ほど生きる個体もいるようです)。
対してワンちゃんたちは、犬種にもよりますが10年~15年、時には20年と長く生きるケースもあります。
10年以上という長期間に渡ってBHAを摂取し続けた場合の健康被害も、判明してはいないのです。

ドッグフードは、一度袋を開けて空気に触れさせてしまえば酸化が始まってしまいます。
ワンちゃんの健康を考えて配合されているDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)(※5)などの成分も、酸化してしまえば過酸化脂質へと変化し、体内をサビ付かせます。
体内のサビ付きは、老化やアレルギー、ガン、高血圧などさまざまな疾病の要因となるのです。
そのため、ドッグフードへの酸化防止剤添加そのものは避けられません。

しかし酸化防止剤には、BHA以外にもさまざまなものが存在します。
ビタミンCやミックストコフェロール(ビタミンE)、ローズマリー抽出物、緑茶抽出物など、ワンちゃんへの安全性が比較的高いと評価されている抗酸化剤を使用したドッグフードも、各メーカーから多くの種類が発売されています。
愛犬に長く健康的な生活を送ってもらうために、安心できる原材料を使ったフードを選んであげたいですね。

ローズマリー抽出物の安全性や注意事項はこちらの記事をご覧ください。
 →ドッグフードの酸化防止剤「ローズマリー抽出物」の作用と安全性

※5 DHA(ドコサヘキサエン酸)/EPA(エイコサペンタエン酸)・・・青魚に多く含まれていることで知られる、脂肪酸の一種です。どちらも血液を流れやすくする働きやアレルギーの炎症を抑える働きを持っています。健康に有益な栄養素ではあるのですが、安定性に欠け、非常に酸化しやすいという欠点を持ちます。