ドッグフードの酸化防止剤「ローズマリー抽出物」の作用と安全性

ドッグフードの酸化防止剤「ローズマリー抽出物」

ドッグフードを酸化から守る食品添加物のひとつに、ローズマリー抽出物があります。
その名の通り、肉料理などに使われることで有名なハーブであるローズマリーから作られた酸化防止剤です。
ハーブが原料の添加物というと、爽やかで安全性が高そうな印象を受けますが、実際のところはどうなのでしょうか。早速みていくことにしましょう。

ローズマリー抽出物とは

ローズマリー抽出物は、「ローズマリー」という植物の花や根から抽出された天然の酸化防止剤です。
形状は粉末で、黄色味がかった淡い茶色をしたものが一般的です。
ドッグフードや人間用の食品、化粧品などの酸化を抑える目的で幅広く添加されています。

ローズマリーは地中海沿岸原産のハーブ

ローズマリーはシソ科に属するハーブの一種で、原産地は地中海沿岸地方です。フランスやユーゴスラビアなどで多く栽培されています。
「ローズマリー」という呼び名の由来は、ラテン語で「海のしずく」を表す「ros marinus」から取られているといわれており、その名が示す通り、海に近い場所で多く見ることができます。
ちなみに日本では「マンネンロウ」という名前で知られているため、ローズマリー抽出物は「マンネンロウ抽出物」と呼ばれることもあるのです。

ローズマリーは主にヨーロッパにおいて、昔から肉や魚料理をする時には欠かせない名脇役として利用されてきました。
肉や魚の下ごしらえや、煮たり焼いたりする際にローズマリーを添え、材料の臭み消しや風味付けとして用いられてきたのです。
しかしローズマリーの使用理由はこれだけではなく、出来上がった料理を日持ちさせるという目的もありました。
ローズマリーの成分が科学的に解明されていなかった時代においても、人々は日々の経験から、ローズマリーに酸化防止効果や抗菌効果があるということに気付いていたのです。

ローズマリー抽出物の酸化防止効果は強力

ローズマリー抽出物にはロスマリン酸(ロズマリン酸ともいいます)や、カルノソール、カルノシン酸など複数のポリフェノールが含まれています。
ポリフェノールとは植物が光合成をする際に、紫外線から身を守るために自ら生成する物質の総称です。
私たちが野菜を食べた時に感じる「渋い」「苦い」といった味のもとになっているのも、このポリフェノールです。
数種類のポリフェノールを含むローズマリー抽出物の抗酸化力は強く、ビタミンEやBHT(ジブチルヒドロキシトルエン)といった酸化防止剤よりも効果は上であるといわれている程なのです。

ローズマリー抽出物は動物油脂、植物油脂両方の酸化を防ぐことが可能であり、食材の味や匂いを邪魔することもありません。
熱にも強く、高温で調理した食品においても安定した酸化防止効果を発揮します。
肉類や魚類がメインの材料であり、高熱で加工することの多いドッグフードとは非常に相性の良い酸化防止剤であるといえるでしょう。

そしてローズマリー抽出物は、ビタミンEやビタミンC(L-アスコルビン酸)といったその他の酸化防止剤と併用することによって、更に強力な抗酸化効果が期待できます。
ビタミンE やビタミンCも、ドッグフードに頻繁に添加されている成分ですよね。

ローズマリー抽出物のさまざまな効果

ロスマリン酸やカルノシン酸といったポリフェノール成分を含むローズマリー抽出物には、抗菌、抗酸化作用以外にもさまざまな効果があると指摘されています。

例えば、食材を120度以上の高温で調理した場合に発生するアクリルアミドという物質があります。
アクリルアミドとは、食材に含まれる糖類やアミノ酸が熱に反応することにより合成される有害な化学物質です。
過剰な摂取により、細胞内の遺伝子を傷付けガンの原因となったり、感覚麻痺や体の震えなどといった神経毒性のリスクが指摘されています。

アクリルアミドが原材料を高温で熱した際に生成される物質であるということは、高温調理で製造されることが多いドッグフードも安心はできません。
飼い主さんの中には、ドッグフードに含まれるアクリルアミドを警戒して、手作りフードに切り替える人も出てきています。

ローズマリー抽出物には、このアクリルアミドの発生を抑える可能性があるという研究結果があります。
2014年に発表されたデータによると、ヒマワリ油に限った話ではあるのですが、ジャガイモをヒマワリ油で揚げる際にローズマリー抽出物を加えた場合において、完成したフライドポテトに含まれるアクリルアミドの量が少なかったというのです。

また、ローズマリー抽出物の成分のひとつである「ロスマリン酸」は、もともと動脈硬化や花粉症を抑制する力があるといわれていました。
更にロスマリン酸には、アルツハイマー病を始めとした認知症を抑える働きがあるのではないかと期待されています。
2016年より金沢大学において、ロスマリン酸の認知症予防効果を検証するための臨床試験が開始されたのです。(こちらの試験ではローズマリーではなく、レモンバームというハーブから取り出されたロスマリン酸が使用されています)

また、同じく2016年に、東京工科大学応用生物学部の研究チームによって、ローズマリー抽出物に含まれるカルノシン酸に、アルツハイマー病を抑える効果があると確認されました。
カルノシン酸が作用することにより、アルツハイマー病の主な原因となる「ベータアミロイドたん白質」の脳への蓄積を防ぐことができると報告されています。

ドッグフードへの使用と犬への影響

ドッグフードの酸化はなぜ体に悪いのか

ローズマリー抽出物などの酸化防止剤を添加する理由は、もちろんドッグフードを酸化から守るためです。
そもそも、ドッグフードが酸化すると、体にどのような悪影響が出るのでしょうか。

「ドッグフードの酸化」とは、フードの中に含まれる脂質が空気と触れることにより、過酸化脂質という物質に変化した状態のことをいいます。

酸化が軽度の場合には、ドッグフードのニオイが油っぽい嫌な臭いに変わったり、変な味がするようになり、ワンちゃんが嫌がってフードを食べなくなることがあります。
ドッグフードの手触りも、ベタベタと不快な感触に変化していきます。

さらに酸化が進んだものをワンちゃんが口にしてしまった場合、体質的にデリケートな子などは嘔吐や下痢を起こす可能性もあるのです。
また、過酸化脂質には動脈硬化やアレルギー、心疾患、皮膚炎、ガンなど、さまざまな病気の原因となる可能性も指摘されています。

肥満や生活習慣病の原因ともなりうる油は、人からすれば極力減らしたい成分かもしれません。
しかし、人間よりも活動的で消費カロリーも多い犬にとっては、脂質も大切なエネルギー源となるのです。
皮膚の潤いや毛ヅヤを保つためにも油分は重要です。
そのため、一般的にドッグフードには脂質も多く含まれています。(肥満犬や高齢犬用のドッグフードなどの例外はあります)
過酸化脂質による健康のリスクからワンちゃんを守るためには、脂質が豊富なドッグフードへ酸化防止剤を添加することは大切な工程のひとつなのです。

ローズマリー抽出物の安全性

古来よりヨーロッパ地方を中心として、人々に愛されてきたローズマリーから作られているということからも想像できるとおり、ローズマリー抽出物の安全性は高いといえます。
しかし、いくつか気になる点があることも事実です。

犬の飼い主として知っておきたい最重要ポイントは、「てんかん」の持病のあるワンちゃんは、ローズマリー抽出物には注意したほうがよいという点です。

ローズマリーの中には「カンファー」という成分が含まれており、血行を良くして冷え性や肩こりの改善効果が期待できるとされています。
カンファーは、カンフル剤と呼ばれる心臓の動きを活発にする薬にも使用されている成分です。
心臓の動きが良くなるということは、当然血液の巡りも良くなります。

カンファーの血行促進作用は、犬の脳へも影響します。
カンファーによって脳へと流れる血液量が増えることにより、脳内が活性化するのです。
この脳の興奮が、てんかん発作の引き金となる可能性が指摘されています。

ただし、ローズマリー抽出物がてんかん発作にどの程度影響するのかという研究は、ほとんど行われてはいません。
アロマテラピーなどに使われるローズマリーから採れた高濃度のオイルは、てんかん患者には禁忌であるとされています。
しかし、ローズマリー抽出物に関しては、そのようにハッキリとした周知はされていないのです。
ローズマリー抽出物を含んだドッグフードのパッケージを確認しても、てんかんに関する注意事項は書いてありません。

とはいうものの、今までの経験を通して「愛犬のてんかん発作には、ローズマリー抽出物の入ったドッグフードが関係している」と実感している飼い主さんもいますし、ローズマリー抽出物の入った犬用サプリメントについて「てんかんの持病のある犬には食べさせないように」という趣旨の注意書きをしているメーカーもあります。
また、ローズマリーにはこのように心臓の働きを強めるといった作用があることから、ローズマリー抽出物は「高血圧」の犬にも使用しないほうがよいとする意見もあるのです。

生のローズマリー、ローズマリーオイル、そしてローズマリー抽出物。これらは同じ植物から作られてはいますが、含まれる成分の濃度やバランスには差があります。
もちろん、ローズマリー抽出物が確実にてんかんの犬の発作を誘発するということではありません。
しかし自衛という観点から考えれば、てんかんを持っている犬にはローズマリー抽出物を含有していないドッグフードを与えたほうが安心だということはできます。

また、ローズマリー抽出物に関する健康リスクの報告は他にもあります。
例えば、人間用の化粧品に添加されているローズマリー抽出物(ローズマリーエキスとも呼ばれます)には、アレルギーを起こす可能性が指摘されています。
多くの野菜や果物と同じく、ローズマリーもアレルゲン(アレルギー発症の原因物質)となる可能性があるということです。

そして、アロマテラピーなどに使われるローズマリーから採れたオイルは、妊娠中や授乳中の女性への使用は適さないとされています。
ローズマリーの子宮収縮作用による早産や流産、子どもの発育障害などが懸念されるとのことですが、これらの影響について積極的な研究はあまり行われてはおらず、危険性のデータなども出揃ってはいません。

ローズマリーの犬に対するガン予防効果が検証されている

2017年現在、岐阜大学において、ローズマリーと緑茶の成分を用いて犬のガンを予防できないかという検証実験が行われています。

検証の期間は2015年9月より3年間です。人間に飼育され、毎日定期的に食事を与えることのできる家庭犬が対象です。
選ばれた犬種は、5~6歳以降になると発ガン確率が高くなるといわれているゴールデンレトリバーで、100頭にはローズマリーやお茶を加えたドッグフードを与え、もう100頭には通常のドッグフードを食べさせ、ガンの発症率を比較するという方法がとられています。

この実験から、犬に対するローズマリーのガン予防効果が明らかとなることが期待されているのです。

まとめ
ローズマリー抽出物は数ある酸化防止剤の中においては、比較的安全性の高い添加物であることは間違いありません。
しかし、てんかんや高血圧の持病のある犬にとっては、健康に害を及ぼす可能性のある物質ともなります。

ローズマリー抽出物以外にも、酸化防止剤として利用されている成分は数多くあります。
中でも、エトキシキン、BHT、BHAと呼ばれるものは、犬の健康に対して数々の危険性が指摘されているため、できる限り避けたほうがよい添加物です。
危険性の低い天然酸化防止剤としては、ビタミンC(L-アスコルビン酸)やビタミンE、ミックストコフェロール、緑茶抽出物などが挙げられますので、ローズマリー抽出物を避ける場合には、これらの成分を使用したドッグフードを利用されることをオススメします。