ドッグフードの保存料「パラオキシ安息香酸」の働きと安全性

ドッグフードの保存料「パラオキシ安息香酸」

食品や化粧品などを微生物から守り、長期的な保存を可能とする保存料のひとつに、パラオキシ安息香酸があります。

パラオキシ安息香酸は、ドライフードやウェットフードなど、ワンちゃんの食生活上メインとなる食品よりも、

  • サプリメント(各種栄養素の補給、食糞・イタズラ防止などを目的とするぺースト状や液状のもの)
  • 皮膚や被毛の汚れを落とすウェットシート
  • 歯磨きシート、歯磨きペースト
  • シャンプー、コンディショナー、トリートメント

などといった、ワンちゃん用の商品に使用されることの多い保存料です。
パラオキシ安息香酸はワンちゃん用のグッズだけでなく、私たちの身の回りにあふれる化粧品やヘアケア剤、醤油に清涼飲料水などさまざまな物にも入っています。

ワンちゃんたちにとっても飼い主の私たちにとっても、接する機会の多いパラオキシ安息香酸について、詳しくみていくことにしましょう。

パラオキシ安息香酸についての基礎知識

パラオキシ安息香酸の主な種類

ひと口に「パラオキシ安息香酸(別名:パラヒドロキシ安息香酸)」と言っても、いくつかの種類に分かれています。
具体的には、合成に使われるエステルという物質の種類によって、

  • パラオキシ安息香酸イソブチル
  • パラオキシ安息香酸イソプロピル
  • パラオキシ安息香酸エチル
  • パラオキシ安息香酸ブチル
  • パラオキシ安息香酸プロピル

などの種類があり、これらをまとめてパラオキシ安息香酸エステル(類)と呼ばれます。
パラオキシ安息香酸は、この総称を略したものというわけです。

これらはいずれも保存料として利用されていますが、種類によって水への溶けやすさや、どの微生物に対して強い抗菌効果を発揮するかが若干異なります。
そのため、この中のいくつかを組み合わせて利用されることも頻繁に行われているのです(いずれか一種類のみが単独で使用されるケースもあります)。
こうすることで、さらに強固に商品を菌類から守ることができます。

パラオキシ安息香酸はパラベンの正式名称

「パラオキシ安息香酸エステルという言葉を始めて目にした」という方も、「パラベン」といえばピンと来るのではないでしょうか。
パラオキシ安息香酸エステル(類)はパラベン(類)の正式名称です。
パラベンは、私たちが日常的に使用するシャンプーやコンディショナー、洗顔フォーム、化粧品、食品類(※1)などに幅広く利用されています。
ほとんどの方は、一度はパラベン使用の商品を利用した経験があることでしょう。

※1 パラオキシ安息香酸エステル(類)は日本において、使用できる食品が限定されている保存料です。
2018年2月の時点では、清涼飲料水、醤油、お酢、シロップ、果実を使ったソース類に添加する他、果実の表面に塗る目的に対してのみ、使用してもよいとされています。また、用途だけでなく使用量にも上限が設けられています。
もちろんこれは人間用の食品に対する規制であり、ワンちゃんの口に入る物に対する制限は現在(2018年2月)のところありません。

パラオキシ安息香酸エステルは、殺菌ではなく抗菌することによって、食品や化粧品、ヘアケア用品などを保存する性質を持ちます。
2018年2月現在において、「抗菌」という言葉に明確な定義は設けられていません。
しかし、一般的に「抗菌」といえば「微生物の増殖を抑制する」作用を表し、「微生物を殺す」働き(殺菌作用)とは区別されています。
パラオキシ安息香酸エステルは少量でも強力な抗菌効果を発揮し、中でも、カビや酵母菌への抗菌力が強いといわれています。

パラオキシ安息香酸エステルは、酸性やアルカリ性、中性など、どのようなpH(ペーハー)値の環境下でも抗菌作用を発揮できるという強みがあります(※2)。
これは、「pH調整剤などを用いて、商品のpHをコントロールする必要がない」というメリットに繋がります。
パラオキシ安息香酸エステルのように、pH値に影響されない保存料のことを、非解離性保存料と呼びます。

※2 保存料の中には、ソルビン酸や安息香酸ナトリウムなど、酸性下のみでしか作用しない性質を持つものもあります。こうした保存料は、酸型保存料と呼ばれます。また、白子たん白抽出物は、中性からアルカリ性で抗菌力が発揮される保存料です。

商品パッケージの原材料欄には、「パラオキシ安息香酸イソブチル」、「メチルパラベン」などと種類が明記してあるケースと、「保存料(パラオキシ安息香酸)」、「パラベン」とのみ表示されている場合があります。
種類が詳しく示されていない場合は、メーカー側に問い合わせない限り、どのパラオキシ安息香酸エステルが使用されているのか、消費者に判断することはできません。

安全性は高いといわれる保存料だが懸念事項もある

犬に対する実験でも毒性は低いというデータが出ている

パラオキシ安息香酸エステルは、長い歴史を持つ保存料です(医薬品類に対しては1924年から使用されています)。
そのため、安全性についても多くの動物実験が行われており、それらの結果を通じて「生体への毒性が弱い」添加物として位置付けられています。

パラオキシ安息香酸エステルには、犬を対象として行われた実験のデータも存在します。
犬の体重1㎏当たり0.5gと1gのパラオキシ安息香酸(メチルとプロピル)を、1年間以上の長期に渡り経口投与を続けても、毒性による体調の変化はみられませんでした。
現在のところ、1930年に行われた実験結果より、パラオキシ安息香酸メチルの犬の致死量は、体重1kgにつき2gであるとされています(経口投与の場合)。

さらにラットやウサギを用いた実験では、死亡例や紅斑、体重増加の抑制、浮腫などの例が確認されていますが、いずれも通常の生活の中で摂取する可能性は極めて低い大量のパラオキシ安息香酸エステルを投与したケースでみられたものです。
したがって、この結果だけを見て「パラオキシ安息香酸エステルは毒性の強い物質である」と断定することはできません。

人間に対して刺激性やアレルギーを誘発するリスクがある

使用量が適正であれば、動物に対して大きな害は確認されていないパラオキシ安息香酸エステルですが、やや心配なデータもあります。
人間を対象とした試験において、パラオキシ安息香酸メチルを点眼した際に、眼の痛みや充血、涙の増加などがみられた他、皮膚へのパッチテストでも軽い刺激性が起こることが分かっているのです。

人間において、パラオキシ安息香酸エステルに対してアレルギーを起こす確率は、1000人のうち2人から3人程度であるといわれています。
この結果をそのままワンちゃんに当てはめることはできませんが、皮膚の弱いワンちゃんは念のため、パラオキシ安息香酸エステル類の含まれたシャンプーやウェットシートなどには注意するに越したことはありません。
アレルギーは、昨日までは何ともなくても、今日いきなり発症することがあります。
パラオキシ安息香酸エステルを含む商品を使ってワンちゃんの皮膚に異常がみられた場合には、速やかに使用を中止し、悪化するようであれば動物病院の受診も検討してみてください。

アルコールとの同時摂取で懸念されるリスク

また、パラオキシ安息香酸エステルには、水に溶けにくくアルコールに溶けやすいという性質があります。
そのため、パラオキシ安息香酸エステルをお酒などアルコール度数の高いものと同時に摂取した場合、体への吸収量が増えてしまうのではないかという懸念もあります。
しかし、お酒を飲む機会のないワンちゃんたちにとっては、この点はあまり心配ないでしょう。

言うまでもないことですが、アルコールはワンちゃんにとって害となるものです。
「パラオキシ安息香酸エステルと別々に与えれば大丈夫」という意味ではないため、愛犬のアルコール誤飲にはくれぐれもご注意ください。
犬はアルコールを分解する(=体にとって無害な物質へ変える)能力が弱い動物だといわれています。
お酒を数滴舐めさせたり、飼い主さんがお酒を飲んだ後の口腔内で柔らかくした食品を食べさせただけでも、影響(酔っぱらった状態になる)を受けてしまうワンちゃんもいるほどです。
犬におけるアルコールの致死量は、体重1㎏当たりわずか5.6ml程度であるといわれています。
お酒好きな方にとって、愛犬との晩酌は憧れのシチュエーションかもしれません。
しかし、お酒はワンちゃんには与えずに、自分だけで楽しむようにしましょう。

まとめ
パラオキシ安息香酸エステルについて、ご説明しました。
「安全性は高め」といわれてはいるものの、皮膚刺激やアレルギーのリスクを持つ保存料を含んだ食品を愛犬に与えることに、不安を感じる飼い主さんも多いことと思います。
パラオキシ安息香酸エステルがワンちゃんの主食やおやつに添加されているケースは少ないので、「知らず知らずのうちに、愛犬に毎日摂取させてしまっていた」、という可能性は低いでしょう。
ただ、サプリやワンちゃん用の飲料水、シャンプーなどには頻繁に使用されているため、原材料欄をしっかりと確認することが大切です。

「パラベン不使用」と表示された、パラオキシ安息香酸エステルを添加していない商品も多く販売されていますが、ここにも落とし穴があります。
「パラベン不使用」と「保存料不使用」はイコールとは限らないのです。
たとえパラオキシ安息香酸エステルが使われていなくても、他の保存料(※3)が使用されている商品は多々あります。
こうした保存料の中には、パラオキシ安息香酸に比べて抗菌効果が弱いものもあるため、作用を強めるために多くの量が添加されることもあるのです。
これにより、かえって保存料の刺激や毒性が強まってしまうリスクも懸念されています。

※3 パラオキシ安息香酸以外でよく使われている保存料には、ドッグフードや犬用おやつ、人間用の食品類に対してはソルビン酸カリウムやポリリジン、シャンプー(犬用・人間用)や化粧品ではフェノキシエタノール、安息香酸ナトリウムなどが挙げられます。
安息香酸ナトリウムは同じ「安息香酸」の文字が入っていますが、パラオキシ安息香酸エステルとは異なる保存料です。
ソルビン酸カリウム、安息香酸ナトリウムについての詳細は、それぞれ以下の記事をご確認ください。
 →ドッグフードの保存料「ソルビン酸カリウム」の働きと安全性
 →ドッグフードの保存料「安息香酸ナトリウム」の働きと安全性

保存料無添加の商品も売られてはいますが、保管環境や使用期間に気を配ったり、使用時にもなるべく空気や自分の手に触れないように注意が必要です。
これらのことに注意をしなければ、細菌やカビなどが繁殖してしまい、かえって体に悪影響(食中毒や皮膚の炎症など)を与える可能性もあるのです。
長期保存が可能な商品を作ろうと思ったら、保存料の添加はほぼ避けては通れません。
どれだけ保存料を摂らないようにしても、限界があるでしょう。
自分の愛犬の体にとって合う(何の症状も出ない)保存料や商品を見極めて、うまく付き合っていくことも必要です。